第33回 俳句deしりとり〈序〉|「ねん」①
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第33回の出題
兼題俳句
落雷の木に落雷を待つ少年 ツナ好
兼題俳句の最後の二音「ねん」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「ねん」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
年休消化終えて夜半の東風の音
はしま
年一の昇給ありて日記賈ふ
美湖
年収のはるけき友へ書く賀状
西野誓光
年収を書かれし名札秋の空
蜘蛛野澄香
「はるけき」の塩梅が上手いねえ。尊敬半分、負い目半分、みたいな。あんまり年収の差とか考え出すと気落ちしそうになるから考えない。いいね? 悲しい表明はさておき、《蜘蛛野澄香》さんの句はダイタンでありますなあ。名札に年収書くってどんな状況だろう……あ、婚活パーティーとかってそんな感じなのかな? 「秋の空」がほんのりやるせなさを醸し出す良い取り合わせ。
年俸は公開されて桃吹けり
竹田むべ
年俸の浮き沈みなき雑煮かな
青井えのこ
業態によっては年俸制が普通な職種もあるんだろうけど、個人的にはなじみがのうございます。パッと思いつく年俸制のお仕事といえばスポーツ選手とか? だとしたら年俸が公開されるのも、浮き沈みがないのも理屈が通りそう。しのぎを削りあう厳しい世界に生きる人にとっては「浮き沈みなき」はひとまずホッとした気持ちの表れなのかもしれないなあ。
年功序列腑抜けたビール注ぎおり
澤村DAZZA
年頭のあいさつ消える麦酒の泡
時乃 優雅
年号の三つめ濁り酒とろん
豆くじら
《豆くじら》さんの句はビールではなく「濁り酒」。「年号の三つめ」が持つ時間の重みには爽快感よりも、このしっとりした口当たりが似合います。「年号の三つ」もひと昔前は大正・昭和・平成の意識だったんだけど、2024年現在だと昭和・平成・令和となり若干フレッシュ。フレッシュ……?
年会費不要とへこきむしの会
髙田祥聖
年少の担任若し芋畑
渥美こぶこ
年表に「飢」の字のあり女郎花
となりの天然水
年表に小さく「人類」夜半の秋
山内彩月
こちらの二句も上手い。《となりの天然水》さんは国や土地の視点での年表で、《山内彩月》さんは地球規模での時間スケールの年表かなあ。どちらがより好みかでいえば、個人的には前者。中七できっちり切れを作って映像化しております。「女郎花」で屋外の光景に展開するのは評価が分かれるところかなあ。
年輪が揺らぎだしたり春愁
いのぐちすずなき
年輪に歪みや着ぶくれに慈愛
高橋寅次
年輪のいびつな杉よ冬うらら
殻ひな
年輪の広きが南山桜
雪椿
年輪の罅より小さき蜘蛛飛び出す
泉楽人
年輪はささくれてゐて囮かご
古瀬まさあき
年輪へ斧の一閃冬に入る
にゃん
年輪や雪の重みを刻みゆく
ゆうき
年輪をさらし聖樹の引きずらる
細葉海蘭
年輪のうつくし湯豆腐のゆうげ
宇治 鴇眞
年縞の土質読み解く秋時雨
大和明希子
年縞の濃淡龍淵に潜む
はるを
年輪はよく聞くけど「年縞」は耳慣れない言葉。《大和明希子》さんの句からすると、土における年輪みたいなものなのかしら。調べてみると、湖や沼に堆積した層が描く縞模様のことだそうです。季節によって違うものが堆積していくので層状になるのだ、と。ほうほう。湖沼だと考えると、《はるを》さんの句の取り合わせもかなりストレートでありますね。「濃淡」が泥の質感の微妙な差を見せてくれまする。
《②へ続く》