俳句deしりとりの結果発表

第33回 俳句deしりとり〈序〉|「ねん」③

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第33回の出題

兼題俳句

落雷の木に落雷を待つ少年  ツナ好

兼題俳句の最後の二音「ねん」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「ねん」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

液はおしっこなのよ蚯蚓鳴く

春野ぷりん

え、そうなの!!? ミミズの糞が土肥改良に良いってことは知ってたけど、体表の粘液がおしっこだったとは知らなかったなあ……。知識としてはオモシロイけど、句としては解説以外のナニモノでもない、ってタイプの句。トーリービアー。
“良き”

菌の増ゆる地球やほしづくよ

葦屋蛙城

菌の時速夜長の常夜灯

よはく

菌の曼荼羅ぞめく十三夜

かなかな

菌の南方熊楠青嵐

たかみたかみ

「粘菌」は植物でも動物でも菌類でもないいきものであり、数億年前に地球に誕生したと推測されています。もはやSFみたいな話だなあ。それぞれの句に登場するのは「粘菌」の一端を捉えた言葉たちです。増殖し、動き、様々な形を形成していきます。粘菌は環境の安定する夜に動きが活発になるらしく、夜の季語が多いのは生態的にも納得のチョイス。

《たかみたかみ》さんが毛色の違う「青嵐」を取り合わせたのは、フィールドワークを重視した「南方熊楠」のためでしょうか。氏は世界的な博物学者であり、粘菌研究の第一人者。実は南方熊楠が記した書簡のなかに「南方マンダラ」と呼ばれる図があるのだとか。となると、《かなかな》さんの句はそちらの意味も含めての表現の可能性もあるのかもしれない?

 

“ポイント”

投とふ見出し秋暑のスポーツ紙

清瀬朱磨

文字通り、投手が粘り強く窮地をしのぎながら投球するのが「粘投」。いざ試合が終わって翌日スポーツ紙の見出しになると「よくがんばった!」とか「粘投の末の勝利!or 惜敗!」みたいな熱い話になるんだけど、球場で観戦してるとある意味しんどいんだよな、こういう展開……。秋とはいえ暑いしさあ……そろそろ終わらない……? ってなる。無粋なこと言うなって? ゴメン。

“とてもいい“

挫して二軍に落ちて養花天

咲山ちなつ

スポーツ選手に常につきまとうのが故障の恐怖。「捻挫」なら静養すれば復帰可能かもしれないけど、今季二軍に落ちてしまう事実がキャリア全体に関わることもあるんだろうなあ……。桜の咲く頃のどんより具合が絶妙な取り合わせ。個人的には高校の運動部を想像します。

“ポイント”

挫する炬燵に正座したあとに

野野あのん

同じ捻挫でもこっちは随分お間抜けというか、笑える気の毒さというか……。座ってから捻挫するなんてことあるの!? 動けなくなって延々炬燵に入ってるのがぬくぬくなんだか逃げ出したいんだか……(笑)。
“とてもいい“

のため買ふ二本目の聖樹かな

コンフィ

わかるような……わかんないような……。仮にね、「うっかり」ならまだわかるんですよ。もう持ってるのに忘れて二本目を買っちゃった、っていう。なんで「念のため」なんだ……? 一本じゃツリーの根元に収まりきらないくらいサンタさんからプレゼントをもらう予定だからか……? ハリー・ポッターのダドリー坊やみたいに……?? ともあれ「聖樹」の賑々しい期待感が可愛いのは疑いないぞ! 楽しんでくれよな、メリー・クリスマス!!
“良き”

願のガラスペン撫づ星月夜

めいめい

質感の違う三つのきらめきが美しい調和をみせる一句であります。「念願」の心理的なきらめき、「ガラスペン」の手で触れられる質感をともなったきらめき、取り合わせの芯として機能する「星月夜」のはるかな距離と時間を内包したきらめき。「撫づ」の繊細さがどれほどの念願であったのか、思いの丈を推察させます。同じ月の季語でも、満月や名月の明るさではなく「星月夜」の暗さと散りばめられた星の小ささが上五中七を引き立ててくれてます。美しいプロダクトは良い、心が洗われる……。
“ポイント”

校の赤字つぶして年暮るる

雪音

これも一種のギョーカイヨーゴってやつなんですかねえ。出版業界で使われる言葉で、校了の直前に再度念のために行う校正を意味します。既に何回も校正通してるはずなのに、なぜかギリギリでさらなる誤字が見つかったりするんだよなあ……。「年暮るる」の気忙しさに吐きそうになるくらい共感します。オエッ。でもちゃんと念校で赤字つぶしてる! えらい! これで万全に違いない! 万全であってくれ……!

“とてもいい“

書書かされ校長室の夕焼け

松虫姫の村人

書書かされて鯊釣りしかできぬ

けーい〇

取引や約束の証拠として作成し、相手に渡しておく文書が「念書」。辞書的にはあくまで「約束の証拠」でしかないのだけど、なぜか句になっているのは揃って「書かされて」なんですねえ。なぁにぃ、その強制力ぅ……いったいなにやらかしたのぉ……? 嗚呼、鯊釣るシルエットが夕焼けに浮かび上がってくる大人の世知辛い世界……。

 

“良き”

ねんちょうはいそがしいんだうんどうかい

でんでん琴女

かといってこどもの世界が気楽かといえば、そうでもなく。こどもにはこどもの大変さがあるのです。ねんちょうさんくらいになると、果たすべき役割も増えるもんな。全部ひらがなで書かれた話し言葉が、まさにおしゃべりがそのまま俳句になった味わい。

 

“ポイント”

ねんねこのねんねのねえねままあのね

一寸雄町

ねんねこの静か根菜刻み果つ

弥栄弐庫

「ひらがなだけの句がもう一句ありました。「ねんねこ」は乳幼児をおんぶする際に使う防寒用の子守半纏のこと。最近では抱っこ紐を使う場面が増えて、あんまり見かけなくなりましたねえ。《一寸雄町》さんの句は、おしゃべりができるくらい大きくなった「ねんね」が、甘えておんぶしてもらってる図かなあ。妹や弟がしてもらってるの見て、うらやましくなったりするのは育児あるあるだよね。

「ねんねこ」といえば子を背負ったままなにかをする、というのも発想のセオリー。根菜を刻み終える頃、背からは静かな寝息が聞こえきて、といった感じでしょうか。「根菜」の固さとやわらかな内容とのギャップが似合います。
“ポイント”

ねんころり花茣蓙そつとひろげませう

佐藤さらこ

子守歌の永遠の定番の一節ですねえ。正確には「ねんねんころりよ」? 子どもの頃、祖母が歌ってくれてたなあ。中七からそっと展開を切り替えてるのがこの句の上手いところ。「花茣蓙」は夏の季語で、板の間や縁側に敷いて涼を得る花模様に織り出した茣蓙のことです。あやして寝かしつけた子が起きないように、そっと花茣蓙を広げて寝かせてやるわけですね。歌が消え入って、次の行動へと静かに移っていく流れがいかにもリアル。等身大の愛情が感じられるのが口語の強みであります。
“ポイント”

料として飴玉と青嵐

白沢ポピー

最初は溌剌とした子どもの姿を描こうとしてるのかと思ったけど、大人の可能性もあるかもしれないなあ。いずれにせよ、身体を突き動かす燃料として「飴玉と青嵐」が並列されているのが魅力。描かれてるのが子どもだとしたら青嵐は単純に気持ちの良い取り合わせになるけど、大人にはそれなりにへとへとな環境なのかもしれません。飴玉は肉体を動かす糖分を与え、青嵐は心を励まし背中を押してくれる、って感じでしょうか。さてさて、作者の真意やいかに。

 

“良き”

糸の香液雨の富岡製糸場

真秋

ねじって撚りをかけた糸を「撚糸」と呼ぶそうです。糸に匂いあるの? と調べてみたのですが、絹などは加工の過程において蒸気や熱の影響で元々もっていたにおいが強調されることがあるようです。へー! 富岡製糸場の規模ともなると、空間を占める香りは質量すら感じられそうなほどだったろうなあ。「液雨」とは冬の季語である時雨の傍題です。広大な敷地へと降りかかっていく時雨の冷たさと、工場の内側の熱気と香り。堅牢なレンガ壁に隔てられた二者の対比が静かな迫力を伝えてくれます。
“ポイント”
第35回の出題として選んだ句はこちら。

第35回の出題

数は出逢いとろんとする梅酒

くるぽー

ちょっと甘い句ではあるんだけど、その甘さが「梅酒」に似合うってもんです。出逢ったその年に仕込んだ梅酒。きっと瓶にはラベルなんかも貼ってるんでしょう。年を経るごとに滑らかな黄金色を濃くしていく様子をうっとりと眺めながら、いつかその甘みを酌み交わす日を夢見ているのかもしれないなあ。男女の艶めいた「出逢い」に限らず、読みを検討してみるのもまた楽しい。たとえば未成年の句友と「いつか二十歳になったら漬けといた梅酒飲もうな!」なんて約束してるとしたら。粋で楽しみな季語体験ってやつじゃありませんか。

ということで、最後の二音は「めしゅ」でございます。 

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう! 
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!
 

“とてもいい“