写真de俳句の結果発表

第50回「雪の赤れんが庁舎」《ハシ坊と学ぼう!⑨》

ハシ坊

第50回「雪の赤れんが庁舎」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

年の暮みやげ袋をモノレール

千鳥城

夏井いつき先生より
「帰省する人を書きました。羽田へ向かうモノレールなのですが、もっと明確に書くべきでしょうか?」と作者のコメント。

述べ方の問題かと思います。例えば、季語をちょっと替えて「年の瀬のモノレール」とすれば、こんな感じに。

添削例
土産袋手に年の瀬のモノレール
“ポイント”

鳴き雪に足跡並ぶ散歩道

酒呑走人

夏井いつき先生より   評価    並 
上五中七まではよいですね。下五が、並選の着地。ここを工夫するだけで、人選はあり得るのです。
“ポイント”

赤レンガ裏庭の雪踏む牧師

青い雀

夏井いつき先生より
「カトリックの国とは違い、プロテスタントの国のドイツの教会は、レンガ造りで簡素です。雰囲気も厳粛ではありませんし、牧師さんも雪踏みをして楽しむという感じです。そんな雰囲気を詠みました」と作者のコメント。

中七下五がよいです。上五「赤レンガ」は諦めて、中七下五の内容を膨らませるか、「裏庭の雪踏む牧師」を上五中七にして、下五を一工夫するか。二択ですね。
“参った”

今朝の冬東京駅で散会す

じゅあ

夏井いつき先生より
「で」を「に」とすれば、人選です。
“ポイント”

初雪のかたちにひかる赤れんが

万里の森

夏井いつき先生より
「先日北海道旅行に行き、赤れんが庁舎を見る機会がありました。工事をしていましたが、大変趣のある素敵な建物でした。初雪を想像するととても美しく、この句が生まれました」と作者のコメント。

「~にひかる」のみ一考してみましょう。季語を主役に立てる工夫もまた。
“参った”

ハン・ガンの頁をそろり雪の声

出船

夏井いつき先生より
「ハン・ガン」と「雪の声」の取り合わせはよいです。「~をそろり」あたりは、一考の余地があります。
“参った”

冬の闇十万カンデラ降りしきる

山河穂香

夏井いつき先生より
「『カンデラ』は光の強さを表す単位。たくさんの藤の花にイルミネーションを点灯したら、そのくらいの明るさになるのでは……」と作者のコメント。

その幻想は美しいですね。俳句に書かれている文字だけだと、「冬の闇」に、降りしきる「十万カンデラ」って何だろう? という疑問に対して、読みが絞りきれない感じです。
“ポイント”

新雪を手桶に入れて湯浴みの子

山田結城

夏井いつき先生より
語順を再考してみましょう。まずは、「湯」の光景から。
“ポイント”

約束の雪の札幌来ぬいつか

平松久美子

夏井いつき先生より
「夫は、全国区で出張のある仕事に就いていました。気に入った処に行ってくると、必ず、いつか一緒に行こうなと言ってくれました。雪の札幌もその一つです。一緒に行こうなと言ってくれたところには、まだ行けません。もう十年になるのに……」と作者のコメント。

なるほど、その「いつか」という日が「こない=来ぬ」と言いたいのですね。下五が読みを迷わせるので、ここを再考してみましょう。
“ポイント”

裸木や祈りのひかり纏はせて

野の花

夏井いつき先生より
「纏う」という言葉は便利なので使われがちですが、この言葉に甘えてしまうことはオススメできません。「祈りのひかり」のどんな様子が、「纏わせて」と感じられたのか。そこの描写に挑んでこそ、良質な俳筋力が身につくのです。
“ポイント”

雪晴や嵐の夜を来父となる

水木合歓

夏井いつき先生より 
「雪晴」と「嵐の夜」の関係をどう処理すればよいのか、読者としては読みを迷います。
“ポイント”

クリスマス子犬と戯れる孫二人

詠野孔球

夏井いつき先生より
例えば、「子犬と孫と」と並列で並べるだけで、読者は「戯れる」様子を思い浮かべるはずです。
“ポイント”

赤れんが相性良いね雪の白

メグ

夏井いつき先生より
中七「相生良いね」は感想です。「れんが」と「雪」の光景を描写すれば、読者もまたそのような感想を抱くはずです。まずは、描写の練習から。
“ポイント”

ひとけなき旧道庁に雪華舞う

よしあずま

夏井いつき先生より
「かつては役所として人の出入りが多かった旧道庁も、外から眺めるだけの観光地になっている様を詠みました。『舞う』より『降る』の方がしんしん感は出ると思いましたが、『舞う』の方が一面の雪のイメージになるかと思いました」と作者のコメント。

「雪」ではなく「雪華」という言葉を選んでいる段階で、十分華やかなので、「舞う」はお互いを殺し合う関係になるのではないかと考えます。雪の表情を淡々と描写してみましょう。
“参った”

白百合よ死者の髭剃り我ひとり

音羽ナイル

夏井いつき先生より
第47回ハシ坊〈死に人の髭剃り守る白百合や〉を推敲しました。静寂と緊迫感が伝わりますでしょうか。形あるものへの、私の最後の供養です」と作者のコメント。

おお! 良い方向の推敲になりました。下五を「ゐて一人」あるいは「ゐる独り」あたりに着地させると、三段切れっぽい調べが回避できます。よくここまで、頑張りましたね。ご供養の佳句になりました。
“ポイント”

傘杖に羅漢と対う冬帽子

千和にの

夏井いつき先生より
「対峙することを『対う(むかう)』と書けることを知り、使いました。上五が字余りでも『を』を入れた方がよかったのか、迷いました」と作者のコメント。

「羅漢と」ならば「対す」、「むかう」としたいのならば「羅漢に」となるかな。
“参った”

木々の灯にブリリアントな雪の粒

菜活

夏井いつき先生より
「兼題写真のキラキラした雪の情景をそのまま詠もうと思いました。取り合わせはベタですよね。『ブリリアント』という横文字に、頼りすぎかもしれません」と作者のコメント。

御本人の分析どおり、「ブリリアント」に頼らず、描写してみることをオススメします。そのハードルを越えるための努力こそが、良質な俳筋力をもたらすのです。
“ポイント”

譜めくりの浴びぬ聖夜のスポットライト

石田将仁

夏井いつき先生より
「演奏中、ピアニストの横にいる譜めくりの方は、演者が拍手喝采を受ける瞬間にさっと光の当たらない所へ移動されます。そのけなげさに心惹かれます」と作者のコメント。

目の付け所がよいですね。「~浴びぬ~スポットライト」という書き方ではなく、譜めくりの方の動作をそのまま描写してみましょう。俳句は、一にも二にも観察ですよ。
“ポイント”