写真de俳句の結果発表

第50回「雪の赤れんが庁舎」《ハシ坊と学ぼう!⑩》

ハシ坊

第50回「雪の赤れんが庁舎」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

小春かな夢二の小紋の煉瓦色

鷹見沢 幸

夏井いつき先生より
「実際に、竹久夢二の絵の同じ柄で作った着物が売られています。私としては着物を着ていることを書きましたが、夢二の絵を見ている場面を想像しても良いかと思っています。上五『初雪や』と迷いましたが、小(こ)の韻をふめるので『小春』にしました。また、中八を解消できませんでした。上五『小春空』にしていましたが、上五から中八へ漢字が続くのも気になり、ギリギリで『小春かな』にしました」と作者のコメント。

そうですね。やはり中八は解消したいところ。やり方は幾つかありますが、原句を尊重するとすれば、上五中七を「小春なる夢二の小紋」とするのが、無難かと。
“ポイント”

立ち木みな聖樹となりぬ銀世界

人生の空から

夏井いつき先生より
「雪」と書くと季重なりになるから、「銀世界」としたのだろうとは思いますが、この句の場合は、下五の着地が勝負。雪の光景だけに囚われず、さまざまな着地の可能性を考えてみましょう。
“ポイント”

しんしんと小樽運河の雪化粧

池上 胤臣

夏井いつき先生より
「真冬の夜、小樽運河に音もなく雪は降り積もる。降出した雪はいつの間にかガス灯や赤レンガ倉庫を覆いつくしている。そんな事をイメージしてみました。『小樽運河』という言葉で、レンガ倉庫やガス灯などを含めて表現しました」と作者のコメント。

下五「雪化粧」という言葉は便利に使われがちですが、どんなふうにどのくらいの雪が降っているのか。そこを、自らの目で観察し、自ら表現する練習をすることで、俳筋力がついてくるのです。下五と、しばし格闘してみて下さい。場合によっては、全体の言葉の取捨選択の必要がでてくるかもしれませんね。
“参った”

メガ盛りのラーメン喰って三日かな

石澤双

夏井いつき先生より
この内容でしたら、「かな」の詠嘆はあまり効いてないかな。「三日」の体言止めになるように、残りの音数を調整してみましょう。
“ポイント”

瓦斯灯にコートの赤のくつろげり

靫草子

夏井いつき先生より
「まずはレトロ感。そして良くも悪くも主張のあるコートの赤色が、ガス灯の下ではその主張も少し和らぎ、コートの人物も『寛いでいる』ような、そんな景を目指しました。赤についての措辞はかな表記と思った時に、『赤や』または『赤く』と読まれる可能性を避けるために(この句において意味ある『迷い』ともならないと考え)、助詞の「の」を入れ、『外套』ではなく『コート』を選択。自問自答続行中です」と作者のコメント。

もう一句の自問自答も、読みごたえがあって面白かったのですが、こちらの句の惜しい点についてお答えします。「瓦斯灯」と「コートの赤」を配して、レトロ感を表現するという意図はよいと思います。ただ下五「くつろげり」は説明になりました。この言葉は、読者が「寛いでいるような光景なんだなあ」と感じ取るべき部分。それを書いてしまうのは、得策ではありません。あくまでも描写。これに徹することで、上質の俳筋力が身についてきます。
“参った”

官庁の森切り倒す寒さかな

嫌夏

夏井いつき先生より
「官庁」を「森」にたとえているのか、「官庁」が「森切り倒す」ことを決定したことを批判しているか。読みを確定させにくいのが、難点です。何を表現したいのか、自問自答して再構成してみましょう。
“参った”

赤煉瓦“お色直し”(修理)で春を待つ

銀幕なり

夏井いつき先生より
俳句においては、“  ”の記号や、(  )付きで意味を説明する書き方は馴染みません。具体的な修理の状況を描写してみましょう。
“ポイント”

老木に蒼き木枯らし矜持揺れ

あいいろ小紋

夏井いつき先生より
下五が説明になりました。俳句は描写です。
“ポイント”

五十分雪の煉瓦を画の流る

ただ地蔵

夏井いつき先生より
「初めてプロジェクションマッピングなるものを見た時は、相当な感激でした。大阪・中之島辺りまで行って、闇の中に流れる画像が浮かび出してきた時は、待った甲斐があったなとしみじみ思ったものです。『時代は進んだんやな』なんて……」と作者のコメント。

なるほど、プロジェクションマッピングですか。十七音に入れるには長すぎる言葉ですから、これを使わないで表現しようとした意図は正しいと思います。「五十分」という時間を入れることで、それを伝えようとしたのかもしれませんが、むしろ全てを画像の描写に使った方が、読者として想像しやすいし、詩も生み出しやすくなるかもしれません。
“ポイント”

雪深し文明開化思ひみる

数哩

夏井いつき先生より
「北海道旅行で雪が積もった朝、道庁へ散歩に出掛けたら、赤レンガの建物が、教科書で見た文明開化頃の風景と重なりました」と作者のコメント。

俳句において「思ひ」「みる」のような言葉は不要なことが多いのです。なぜならば、思っているから書くのであり、見ているから書けるのですものね。何を見たからそのような感慨を持ったのか。そこを書いてみましょう。
“ポイント”

聖夜の「チャルダッシュ」一つ入れる薪

丸山和泉

夏井いつき先生より 
「小児がんチャリティコンサートで、千住真理子さんのヴァイオリンを初めて聴きました」と作者のコメント。

この場合は、カギ括弧は不要でしょう。「  」を外して、人選です。
“ポイント”

凍星やぴるる吹く風レンガ焼く

桂月

夏井いつき先生より
「凍星」という季語と、「レンガ焼く」という作業の取り合わせは、佳いと思いますし、「風」の表現としての「ぴるる」も面白いです。句材としての魅力があるので、これが完成形かどうかは、迷うところです。
“ポイント”

静かなる赤レンガ舎に年の暮れ

はね花

夏井いつき先生より
中七の助詞「に」は要一考です。
“ポイント”

海に雪レンガ倉庫に雪まだら

桜貝

夏井いつき先生より
「海に雪」から「レンガ倉庫」へのカメラワーク、よいですね。「~に」という助詞から、再度「雪まだら」ともってくる展開がベストかどうか、一考して下さい。その先に、人選への道が開けます。
“参った”

雪付きも融けもせず打つ赤煉瓦

光太郎

夏井いつき先生より
「雪がとけるは『融ける』か『溶ける』か迷いましたが、『融ける』を使いました」と作者のコメント。

「雪付きも」とは、「赤煉瓦」に雪が付いているということ? 「打つ」は、雪が煉瓦を打ち続けている? 動詞の多用が、逆に意味を確定しにくくなってようです。動詞を減らしてみましょうか。
“ポイント”

車椅子攣らる骨太き手套よ

曽根朋朗

夏井いつき先生より
「先達、母を車椅子に乗せて押していて、煉瓦造りの建物の出入口で、少しの溝にタイヤがはまってしまい、動けなくなったのです。でもすぐに近くに居られた見ず知らずの方に引き上げて頂き、助けられました。本当に有り難く嬉しかったです! この句は私の気持ちで詠むことができず(下手くそで) 母の目線に致しました」と作者のコメント。

「攣らる」は、車椅子が溝に挟まった様子をこう表現したのでしょうか? そのあたりが少々読み取りにくく。「骨太き手套」の表現はとても佳いと思います。せっかくの体験ですから、なんとか結球させたいですね。
“参った”

コピー機が壊れて悔し聖夜かな

三日月 星子

夏井いつき先生より
「~て悔し」は書かないほうがよい部分。「コピー機」が壊れたことと「聖夜」を取り合わせるだけで、十分に伝わります。
“ポイント”

電飾に庭までよろふ冬館

岩魚

夏井いつき先生より
「まで」という助詞が散文的な使い方になります。「まで」を外して、そのニュアンスを表現する。これを考えることが、俳筋力のトレーニングになるのです。
“ポイント”