第50回「雪の赤れんが庁舎」《ハシ坊と学ぼう!⑪》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
サターンの椅子や異人館の愁思
雪うさぎ
夏井いつき先生より
「『サターンの椅子』とは、神戸北野の異人館にあり、座って願いをとなえると叶うと言われている椅子です」と作者のコメント。
「愁思」ではなく、「秋思」とすれば人選です。
「『サターンの椅子』とは、神戸北野の異人館にあり、座って願いをとなえると叶うと言われている椅子です」と作者のコメント。
「愁思」ではなく、「秋思」とすれば人選です。
初雪や波瑠の歪みて煉瓦館
ピンクアメジスト
夏井いつき先生より
「歪める」とすれば、人選です。
友在せば聞きたく思ふ寒昴
シナモンティー
夏井いつき先生より
「親友を亡くし決断に迷った時に、友だったらなんてアドバイスしてくれただろうと思いました」と作者のコメント。
「友在せば」と「寒昴」を取り合わせれば、中七の思いは言わずもがなで伝わります。ここからどちらの方向に舵を切るか。一句の成否がかかってくる選択です。
「親友を亡くし決断に迷った時に、友だったらなんてアドバイスしてくれただろうと思いました」と作者のコメント。
「友在せば」と「寒昴」を取り合わせれば、中七の思いは言わずもがなで伝わります。ここからどちらの方向に舵を切るか。一句の成否がかかってくる選択です。
秋の行灯旧町屋変電所
青居 舞
夏井いつき先生より
「秋の行灯」で切れると読んだのでよいですか? 「旧町屋変電所」という固有名詞の面白さを表現したいとすれば、「秋の行灯」は一考の価値があるかなと。
「秋の行灯」で切れると読んだのでよいですか? 「旧町屋変電所」という固有名詞の面白さを表現したいとすれば、「秋の行灯」は一考の価値があるかなと。
木枯らしや名古屋庁舎で武者震い
ヨシキ浜
夏井いつき先生より
「木枯らしが吹く寒い12月に、白熱の本会議が行われます。訪れた私も興奮で小刻みに震えました」と作者のコメント。
もう一句も同じ型でしたが、中七の最後が「~で」という助詞で終わっています。この句の場合の「で」は、散文的な使い方になります。「木枯らし」と「名古屋庁舎」の取り合わせはよいので、下五「武者震い」も合わせて再考してください。
もう一句も同じ型でしたが、中七の最後が「~で」という助詞で終わっています。この句の場合の「で」は、散文的な使い方になります。「木枯らし」と「名古屋庁舎」の取り合わせはよいので、下五「武者震い」も合わせて再考してください。
シルクめく雲に彩雲竹の春
海月のあさ
夏井いつき先生より
「太陽が傾く2時から3時ごろの雲は、シルクのように艶やかに光ってとても綺麗な事があります。そんな時は必ず彩雲も見られます。その美しさを表現できたらと思いました。季語に悩みましたが、艶やかに輝く雲と空の青さに、若竹の瑞々しい緑がイメージできたらと、『竹の春』にしました」と作者のコメント。
「雲に彩雲」という表現が、科学的に正しいのか。重複した表現ではないか。知識の少ない私として、判断つきかねています。
「太陽が傾く2時から3時ごろの雲は、シルクのように艶やかに光ってとても綺麗な事があります。そんな時は必ず彩雲も見られます。その美しさを表現できたらと思いました。季語に悩みましたが、艶やかに輝く雲と空の青さに、若竹の瑞々しい緑がイメージできたらと、『竹の春』にしました」と作者のコメント。
「雲に彩雲」という表現が、科学的に正しいのか。重複した表現ではないか。知識の少ない私として、判断つきかねています。
きくらげはまごうことなき茸でござる
藤津桜子
夏井いつき先生より
「~でござる」と戯ける効果よりは、下五を五音にして調べを整えることをオススメします。内容に滑稽味がありますので、下五でおどけてみせる必要はありません。
「~でござる」と戯ける効果よりは、下五を五音にして調べを整えることをオススメします。内容に滑稽味がありますので、下五でおどけてみせる必要はありません。
雪催いレンガ駅舎で再会す
すずきあんず
夏井いつき先生より
この内容でしたら、助詞は「で」ではなく「に」ですね。類想がないとは言い切れませんが、助詞を整えれば人選です。
明滅するひかりの中の雪やキス
舟端玉
夏井いつき先生より
「イルミネーションの明滅を受けて降ってくる雪。くちびるで受ければキスかな、と思いましたが、俳句は切れというのを思い出し、切れをいれました」と作者のコメント。
「雪をくちびるで受ける=キス」なのですね。この書き方だと、「雪や」の切れの後に、キスする二人の人物がいる、と読まれてしまうかな。ご自身が表現したい内容に言葉を寄せてみましょう。
「雪をくちびるで受ける=キス」なのですね。この書き方だと、「雪や」の切れの後に、キスする二人の人物がいる、と読まれてしまうかな。ご自身が表現したい内容に言葉を寄せてみましょう。
冬の灯や灯台並ぶ土産店
だいやま
夏井いつき先生より
「冬に灯台がある町へ観光に行った時の事です。雪も降ってきて閑散としていましたが、お土産屋さんの暖かな色の電飾とかわいいマリングッズにとてもほっとしました。上五で雪がちらつく様子を表現しようか迷いましたが、『冬の灯』にしました。中七、『灯台(置物ですが)』と取り合せたのも挑戦です」と作者のコメント。
この語順だと、「灯台」が置物だということが分かりにくく、並んでいるのは「土産店」か? と迷います。ご自分が書きたかった光景に、言葉を寄せてみましょう。
この語順だと、「灯台」が置物だということが分かりにくく、並んでいるのは「土産店」か? と迷います。ご自分が書きたかった光景に、言葉を寄せてみましょう。
シーサーの腹の焦げ痕悴みて
ときちゅら
夏井いつき先生より
「赤煉瓦から那覇市・首里城の赤瓦に発想を飛ばしました。2019年10月31日未明に首里城が焼け、那覇市の隣の豊見城市に住んでいた私の家でも、焦げ臭い匂いがしたことが、昨日のことのように思い出されます。その焦げた赤瓦の再生利用で作ったシーサーのお腹の部分に、焦げ痕があり痛々しいのですが、そんな諸々の想いを詠んでみました」と作者のコメント。
語順と季語を一考してみましょう。
語順と季語を一考してみましょう。
公園を列なす人や慈善鍋
藤子
夏井いつき先生より
「慈善鍋」は「社会鍋」の傍題。救世軍が年末などに行う生活困窮者支援等の為の街頭募金運動で、募金を入れてもらうための鉄鍋のことです。上五中七の描写は、炊き出しに並ぶ人のイメージではないかと。
「ゆめぴりか」名付けて土用赤レンガ
千里
夏井いつき先生より
「赤レンガ庁舎は、観光資源ばかりでなく会議場としても使われます。北海道産の新しい米の名前を決める会議が、赤レンガ庁舎で開催されました。道内の各経済界から選定された委員20名弱が招集され、私もその委員の一人でした。予め公募に応じて出された名を、事務局が15ほどに絞り込み、その中から投票によって決めるのです。新しい米の名は『ゆめぴりか』に決定しました。商標登録に問題なければこれで決まりです」と作者のコメント。
面白い経験をされましたね。これも、一句に押し込んでしまうのは勿体ない経験です。「土用」「赤レンガ」と情報を入れ込むのは、諦めて、「ゆめぴりか」の名付けだけでまずは一句。作者コメントの中にも、句材が山のようにありますよ。
面白い経験をされましたね。これも、一句に押し込んでしまうのは勿体ない経験です。「土用」「赤レンガ」と情報を入れ込むのは、諦めて、「ゆめぴりか」の名付けだけでまずは一句。作者コメントの中にも、句材が山のようにありますよ。
季重なり
朝焼けの赤れんが舎の雪光る
茶雨
夏井いつき先生より
「朝焼け」は夏の季語になります。
「朝焼け」は夏の季語になります。
鍋底へ木べらでノの字秋深し
がらぱごす
夏井いつき先生より
「鍋底に」とすれば、人選です。
「鍋底に」とすれば、人選です。
撓る枝雪女の腿の型
杜若友哉
夏井いつき先生より
「雪で撓る枝に二つできた欠けが、雪女が座っているようだと妄想する句です。撓る枝で重さと腿を強調することで、雪女の艶かしさで肉感がだせたらと思います。 『撓る枝』と『雪女』の組み合わせで、雪が枝に積もってることになるのか、『腿の型』で窪みが表現できてるのかが不安です」と作者のコメント。
なるほど、そういうことか。実景からいくか、妄想からいくか。語順の効果は悩ましいところですが、「雪女の腿か」と妄想を先にもってきて、後半で実景としての雪の枝を描写するのが、かえって季語が生きるのではないかと思います。試しにやってみて下さい。
「雪で撓る枝に二つできた欠けが、雪女が座っているようだと妄想する句です。撓る枝で重さと腿を強調することで、雪女の艶かしさで肉感がだせたらと思います。 『撓る枝』と『雪女』の組み合わせで、雪が枝に積もってることになるのか、『腿の型』で窪みが表現できてるのかが不安です」と作者のコメント。
なるほど、そういうことか。実景からいくか、妄想からいくか。語順の効果は悩ましいところですが、「雪女の腿か」と妄想を先にもってきて、後半で実景としての雪の枝を描写するのが、かえって季語が生きるのではないかと思います。試しにやってみて下さい。