写真de俳句の結果発表

第50回「雪の赤れんが庁舎」《ハシ坊と学ぼう!⑫》

ハシ坊

第50回「雪の赤れんが庁舎」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

授業果つ今日は聖樹点灯式

窪田ゆふ

夏井いつき先生より
「兼題写真のイルミネーションの木を見て、母校の点灯式を思い出しました。ミッション系の大学だったので、正門から見える聖樹の点灯式が楽しみでした。その日は授業が終わると、式が始まるまでキャンパスに残って場所取り。暗くなる頃には大勢の人が聖樹の前に集います。点灯した瞬間は歓声と拍手の渦! あの時の感動は今でも覚えています。授業が終わって式をワクワク待つ気持ちを詠みました」と作者のコメント。

素敵な大学ですね。大学の聖樹かもと連想させるために、上五を「講義果つ」としてみましょう。更に、語順を替えて「聖樹点灯式は今日」とすると、調べがよくなります。これならば、人選。
“ポイント”

雪嶺になりたる考妣メメントモリ

まさし

夏井いつき先生より
書きたいことは分かりますし、詩もあります。「~になりたる」がやや冗長。ここからのブラッシュアップが、一句の成否を決めます。
“ポイント”

冬の夜や残業の窓中華街

ゆみさく

夏井いつき先生より
「横浜で働く甥っ子を思って詠みました。SEの彼は残業が当たり前。窓から見下ろす華やかな景色を、ちょっとうらやましく思っているのではないかなと」と作者のコメント。

「夜」と「残業」のイメージが重複します。「夜」を外して、全体を整えてみましょう。
“参った”

雷や時空の旅の時計台

葉月庵郁斗

夏井いつき先生より
「札幌の庁舎から発想を飛ばし、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のワンシーンを詠みました」と作者のコメント。

発想としては面白いけど、ちょっと映画そのまますぎ(笑)。季語を色々替えて、言葉の化学変化を試してみましょう。面白い出会いがあれば、人選もあり得ます。
“ポイント”

季重なり

夏のカナダ眼下の大氷河

しげ尾

夏井いつき先生より
「結婚十年記念で、カナダ人の友達夫婦を訪ねて、カルガリーに遊びに行きました。車でカナディアンロッキーやバンフなどを案内してくれました。今は、Facebookでの繋がりです」と作者のコメント。

「氷河」そのものが、夏の季語なので、「夏の」は不要です。せっかくの旅の思い出。整え直して完成させて下さい。
“参った”

焼け跡へ瓦礫へ涙の子へ雪

なないろ

夏井いつき先生より
「涙の子へと雪」とすれば、人選です。
“参った”

羊肉とビール眺むる暴風雪

ふづきかみな

夏井いつき先生より
「羊肉とビール」に対する「暴風雪」の取り合わせが、面白いです。「眺むる」は一考したい動詞。人選は目の前です。
“ポイント”

午睡して夫逝く夢ジャム苦し

藤田ほむこ

夏井いつき先生より
中七、「夫」と書いて「つま」とも読みますので、「夫逝く夢や」と詠嘆すれば、人選です。
“ポイント”

縁談やハマいちの画家焼く真鯵

ぉ村椅子

夏井いつき先生より
「祖父は横浜いちの画家です(志村計介)。父にお嫁さん(母)が来たとき、慣れた七輪で鯵を焼いたそうです。母は、大先生が……と、感激したそうです。祖母もいましたが、祖父はわりと何でもやってしまう人物だったそうです。思い込みの強いエピソード。詰め込み過ぎで句として低評価が怖いです」と作者のコメント。

素晴らしいエピソードですね。これを一句で済ませてしまうのは、あまりにも勿体ない。まずは「ハマいちの」を諦めて、「縁談」「画家」「焼く」「鯵」これで一句ですね。「画家の焼く鯵や」として、残りの音数で「縁談」「婚約」「結納」とかを入れてもいいですね。「息子」の一語が入ると更にいいのですが。是非、「横浜いちの画家」であるお祖父さんのことを、沢山俳句として残してあげて下さい。
“ポイント”

冷たさよダニの這ひだす死の隙間

おりざ

夏井いつき先生より
「我が子のように大切にしていた犬を失ったとき、泣き腫らした眼に映ったのが、愛犬の身体からはい出してくる一匹のダニでした。生と死の隙間を覗いた気がして身震いしました。リビングの赤煉瓦をみると思い出してしまいます」と作者のコメント。

これは、凄い体験をなさいましたね。愛犬のためにも、是非これを作品として結球させましょう。まずは、犬の体から這い出したダニであることが、分かるように推敲してみましょう。
“ポイント”

聖夜には電飾纏う我が家かな

三太郎

夏井いつき先生より 
「纏う」という単語は要一考。「電飾」に対しては、ありがちな言葉です。ここからの再考によっては、下五「かな」の詠嘆も不要になります。
“ポイント”

春の雪みずうみ隠すごとく舞ひ

柚木 啓

夏井いつき先生より
「春の雪」と「みずうみ」の光景は美しいですね。後半「隠すごとく舞ひ」という表現は、少々安易です。その雪の降るさまを、徹底的に観察し、描写する練習をしましょう。どんなふうに雪が降っていたから、隠すように舞っているなと感じたのでしょうか。まさにこれが、俳筋力をつけるための筋トレです。
“ポイント”

冬の夜や去年と違うひとといる

砂 芽里

夏井いつき先生より
書きたいことは分かります。ただ、「冬の夜」の「冬」という季節が長いですから、「去年と違うひとといる」という感慨がぼやけます。例えば、「雪の夜」とか「初雪や」とか、明確にあの日あの時が想像できるような季語を工夫してみましょう。
“ポイント”

煌めひてれんが庁舎は雪羽織る

本間 ふみふみ

夏井いつき先生より
「煌めく」は、カ行の動詞ですから、「煌めひて」にはなりません。「煌めきて」です。下五「羽織る」という擬人化の表現も一考してみましょう。
“参った”

狂い咲き壊れかけたる雨が打つ

晴芽みやび

夏井いつき先生より
「先日、初雪の降った札幌ですが、庭ではもどり花が凛と咲いています。そんな健気な花に、冷たい土砂降りの雨が降り注ぐ様子を観ていると、地球の温暖化に危惧してしまいます」と作者のコメント。

「狂い咲き」「壊れ」「打つ」と、それぞれの言葉が強すぎて、お互いを殺しています。例えば、上五を「もどり花を」とでもすれば、かえって痛々しさが表現できます。(字余りになりますが、この場合は意味を正しく伝えるために、助詞「を」が必要です。)
“ポイント”

照らされぬ庁舎の向かひおでん欲し

渥美 謝蕗牛

夏井いつき先生より
面白い視点だと思います。確認ですが、「照らされぬ庁舎」は、照らされてない庁舎ですよね。自分は、照らされてない庁舎で仕事をしていて? そこを出て? という意味であれば、下五「おでん欲し」が効いてくると思うのですが、「~の向かひ」が分かりにくく。ひょっとして、「照らさるる庁舎の向かひ」が自分が勤務しているビルだとすれば、これはこれで「おでん欲し」が効いてきます。さて、どっちなのだろう?
“参った”