写真de俳句の結果発表

第50回「雪の赤れんが庁舎」《ハシ坊と学ぼう!⑬》

ハシ坊

第50回「雪の赤れんが庁舎」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

氷晶や光芒先に兄の息

青山楽夢

夏井いつき先生より
書こうとしている内容に惹かれます。中七「先に」という表現がやや曖昧で分かりにくい点が惜しまれます。是非、推敲してみて下さい。
“ポイント”

小春空癒えた手首と和光ビル

そーめんそめ女

夏井いつき先生より
「『癒えた手首』とは、手首の傷が癒えたという意味です。そして銀座まで出かける事ができた嬉しさも」と作者のコメント。

季語「小春空」を主役とすることを考えると、「和光ビル」と具体的に限定するよりは、「銀座」ぐらいの広さにするほうが効果的かと考えます。全体を推敲してみましょう。
“ポイント”

雪の庁舎前喧嘩別れの夜汽車

天亨

夏井いつき先生より
「若い頃何回か北海道には行っていますが、小雪降る中の喧嘩別れは特に心に残ってます」と作者のコメント。

実際には、「夜汽車」に乗ったのだろうとは思いますが、「雪の庁舎前」からそこに飛ぶのがやや強引です。「雪の庁舎前」の「喧嘩」で一句、その後の「夜汽車」で一句と切り分けてみて下さい。
“参った”

抱きかかえレンガは微熱雪の夜

コンフィ

夏井いつき先生より
句材はとても良いです。特に「レンガ」に「微熱」を感じとっている点。上五「抱きかかえ」は一考の余地あり。佳句になりそうな予感。
“ポイント”

黒き夜初雪の白赤れんが

横須賀うらが

夏井いつき先生より
「黒、白、赤で考えてみました」と作者のコメント。

対比が少々わざとらしくなってしまいました。そもそも、「初雪」「煉瓦」と書くだけで、色の対比は読者の心に伝わりますので。
“参った”

首里城の大工若手へ寒卵

くえん酸子

夏井いつき先生より
下五の季語がやや唐突にでてくる感じがします。生の寒卵を手渡すという感じですか?
“参った”

レンガ積む雪よ接着剤になれ

深町宏

夏井いつき先生より
「真っ白な雪が積んでいるレンガにつぶされると透明になるのが、まるで接着剤みたいだ。このままレンガをくっつけてと思った、子供の頃の思い出を俳句にしました」と作者のコメント。

読み手としては、子供の頃の思いという解釈には行き着けず……。何かそれを示唆する言葉を入れることができればよいのですが。
“ポイント”

五稜星の街へ六花生まれ出づ

麦野 光

夏井いつき先生より
足して十七音の破調にしているのは分かるのですが、内容と調べの調和という点が気になります。このような場合はむしろ、「五稜星の」を上五に一音字余りでおいて、「街へ六花の」と中七を作ると、内容に見合ったゆったりとした調べになります。そうなると、「~生まれ出づ」がベストかどうか、最後の吟味をして欲しいかな。
“ポイント”

戻り来た八角塔に初雪や

はま木蓮

夏井いつき先生より
下五「~や」の着地は、バランスが取りにくくてとても難しい型です。語順も含め再考してみましょう。文語で書きたいのならば、「戻り来し」になります。
“ポイント”

電飾の煌めく聖夜住宅地

糸桜

夏井いつき先生より
「工夫を凝らしたクリスマスのイルミネーションが美しい住宅街に見物に行き、スケールの大きさと凝った飾り付けに感動しました」と作者のコメント。

「電飾」とあれば、「煌めく」はいわずもがな。この段階では並選ですが、ここを工夫すれば人選に手が届きます。
“ポイント”

新雪や若い2人の入籍日

惠桜改め さーやのママ

夏井いつき先生より 
俳句では、特別な意図がない限り、数詞は漢数字を使うのが定石です。「二人」とすれば、並選。更に、「新雪」と「入籍日」が取り合わせられれば、「若い二人」に違いないと想像できます。中七を再考してみましょう。その二人らしさがでるような中七を。
別の句のコメントに「雪の赤レンガ庁舎……行った事もなく何も浮かばず(涙)、ただ書類を出す所としか思い付かず……こんな句になってしまいました」とありましたが、毎回のお題となっている写真は、あくまでも発想のきっかけを提示しているに過ぎません。写真から思い出すことのできる、自分の体験を俳句にしてみましょう。そこにこそ、貴方ならではのオリジナリティとリアリティがあるのです。
“ポイント”

電飾と雪の明滅ポリリズム

たきるか

夏井いつき先生より
書きたいことは分かりますし、伝わりもします。が、人選以上を目指すならば、「ポリリズム」のような単語に甘えるのではなく、そこを描写する練習を続けることをオススメします。そのような筋トレによって、俳筋力は身についてくるからです。
“ポイント”

雪の街柵に手を置き見ゆ煉瓦

浜風琴

夏井いつき先生より
書こうとしている光景はとてもよいですね。この場合の「見ゆ」は不要な言葉。(使い方にも多少問題があります。)何を表現したかったか、自問自答しつつ、必要な言葉に優先順位をつけてみましょう。「季語と、自立語が一つか二つ」が、十七音の器に盛るに適した量です。
“ポイント”

雪月夜煉瓦倉庫は気配なく

高橋 誤字

夏井いつき先生より
「風もなく静まり返って、誰もいなくて時が止まったかの様です」と作者のコメント。

「雪月夜」と「煉瓦倉庫」の光景は印象的です。下五「気配なく」が説明の言葉になっています。描写の言葉にするには、例えば、そこに降る雪の様子を描写することで、作者の表現したかった「風もなく静まり返って、誰もいなくて時が止まったかの様」を、読者の脳内に再生させることは可能です。
“参った”

浅き夢監獄煉瓦凍裂す

峠の泉

夏井いつき先生より
「明治30年に作られた煉瓦の遺跡を見学したことがあります。全ての煉瓦には、熊本監獄製造と刻印が。煉瓦は凍裂して砕けると知り、『凍裂』は季語になっていたので使いたくなりました。樹木に対して使うのが一般的でしょうが、この言葉が好きで使いました。監獄での様々な思いが炸裂したように感じます」と作者のコメント。

言いたいことを少々詰め込みすぎています。作者コメントに沢山の良い言葉や、句材が溢れています。十七音の器にちょうどいい分量を取り出してみましょう。五句ぐらいできそうな気がします。
“ポイント”

黄ばんだディケンズ午後三時の炬燵

花豆

夏井いつき先生より
「クリスマスには、よくディズニーの『クリスマス・キャロル』を子どもと見ました。この時期、ペーパーバックのディケンズを出してきて、読み返している様子が描けているでしょうか」と作者のコメント。

「黄ばんだディケンズ」と「炬燵」の取り合わせのミスマッチは、面白い効果が期待できます。「午後三時の」では緩い。ここを一考すれば、化けそうですね、この句は。
“参った”

医学部のキャンパス暮れて聖樹かな

志きの香凛

夏井いつき先生より
「医学部のキャンパス」と「聖樹」の取り合わせはよいですね。「暮れて」「かな」が必要かどうかも合わせて、再考してみましょう。
“ポイント”

永き日を無影灯下に眠る吾

みやもとや

夏井いつき先生より
「2024年の春、人生で初めて全身麻酔による手術を受けました。その時の手術台の上にあった無影灯の白い明かりが、兼題写真のイルミネーションの白い明かりに重なって見えました」と作者のコメント。

手術の経験を一句にしようというのは、天晴れな俳人魂です! 中七下五に対して、季語は動きそうです。折角の経験ですから、よりよい季語との出会いを模索して下さい。
“参った”