第50回「雪の赤れんが庁舎」《ハシ坊と学ぼう!⑮》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
赤レンガ先頭に列なす夜店
信壽
「夜店」は夏の季語。「赤レンガ」がモノなのか、建造物なのか、この表現では分かりにくいですね。
ビヤホール煉瓦造りにジョッキ鳴る
原 水仙
赤き煉瓦の庁舎へ来たか雪女
奈良の真
もう一句は、「赤き煉瓦の庁舎」へ来たのが「冬帝」でした。同じ発想ならば、「雪女」よりは「冬帝」のほうがイメージしやすいですね。
初登山眼下に白い市庁舎
やまだ童子
「登山」は夏の季語。となると、この「白い」は何の色なのか。読みを迷います。
帰路重し雪虫追いてあおぐ星
つづきののんき
おねだりの裸の長や庁舎凍つ
比良山
時事ネタを俳句にするのは、かなりハードルが高いのです。やってはいけないということではなく、詩として成立させるためには、分厚く豊かな俳筋力が必要になります。この句の場合は、「凍つ」という季語が比喩的な意味に傾いているので、詩として季語が昇華されてない点に、食い足りなさがあります。
赤レンガ訪う人の息白し
あすか風
札幌は雪自販機の出汁ポチる
松虫姫の村人
面白いエピソードです。購入ボタンを押すことを夢想してもよいのですが、ご自身の体験の通り、「出汁自販機」に驚いたり笑ったりする場面を描いたほうが、リアリティがあります。
蓄音機のホーンの水滴拭く聖夜
鈴木秋紫
牡丹雪お上りの吾駅に立つ
びんごおもて
語順が逆かな。
添削例
お上りの吾立つ駅や牡丹雪
幾重にも冬を重ねた札幌軟石
扇子とし
逝き人の良き頃馳せり冬銀河
絵夢衷子
雪に浮く煉瓦の館の招く灯
渋井キセ乃
書こうとしているのは良い光景ですね。語順を一考してみましょう。巧くいかないようでしたら、ひとまず寝かせること。自分自身に俳筋力がつくと、案外あっさり完成させることができたりするのが俳句です。
初雪が控へ室から出ちやつたわ
七瀬ゆきこ
意図は分かりますし、季語「初雪」だからこその発想です。ただ、「控え室」は、せっかくの意図の面白みを削いでしまうか、と。
父の忌の回向済ませる聖夜かな
ごまお
中七下五を「回向を済ませたる聖夜」がひとまずの無難な形ですが、上五の「父の忌の」とあるので、中七の表現はさらに改善の余地はありそうです。
めぐり逢い昭和以来を小雪祝く
花屋英利
語順、ちょっと悩ましいですね。下五の「小雪祝く」か「祝く小雪」か。「小雪祝く」を選ぶとすれば、上五を「小雪祝く」として意味上の切れを入れてから、展開する方法もありそうです。
改築の庁舎を巡るみぞれ道
ルーミイ
「~を巡る」で、「道」のイメージは伝わるので、むしろ下五の「道」は外したほうがすっきりします。
市庁舎の庭のしんちゃんへ風花
ひつじ
「ひつじは春日部市民です。しんちゃんのモニュメントはフォトスポット。本当はもうひとつのモニュメント『ひろしとみさえ』を使いたかったけど……シュールなので……でも文字数が多くて今回は諦めました(泣)。『庭』はやっぱり必要に思えましたし。引き続き温めて仕上げてあげたいです」と作者のコメント。
クレヨンしんちゃんですか。そもそも音数の多い対象なので、これはなかなかにハードルが高いですね。もう少し俳筋力をつけてから、再挑戦してみましょうか。春日部市民としての宿題ですね。
密やかに雪は天より八角塔
間 静春
中七下五で十分に「密やかな」気分は伝わりますので、上五を再考してみましょう。例えば、「○○○○や」と季語ではない単語を詠嘆したとしたらどうなるか。トライしてみて下さい。
雪催既読ないまま来る日暮
清白真冬
語順を一考してみましょう。例えば、「既読」から始まるとすれば、どうなるか。季語の位置も大事なポイントになりそうな一句です。
終電に乗れず聖樹をひとり占め
へな☆けん
例えば、〈終電の行って聖樹をひとり占め〉とした時と、何がどう違うのか、考察してみましょう。俳句のヒミツが、そこにも一つあります。