第34回 俳句deしりとり〈序〉|「びし」②
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第34回の出題
兼題俳句
鼻涙管といふ暗渠や秋さびし 芦幸
兼題俳句の最後の二音「びし」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「びし」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
ビシエドの回る檀家や茄子の馬
栗田すずさん
ビシエドの俳号頼もし冬うらら
山内彩月
BCADしか思ひ浮かばず神無月
伊藤 恵美
BCADの句に目の輝ける夜長
(敬称略すみません。俳人ユニットRUBY(ルビイ)応援してます!)
帝菜
ビシエドの打球柵越え夏空へ
希子
ビシエドの移籍決定秋時雨
⑦パパ
ビシエドの一振り生ビールが痛い
雨野理多
俳人のビシエドさん……じゃないよなあ。打球が柵越えるし移籍までしてるしなあ。ビシエドことプロ野球選手ダヤン・ビシエドさんのことですね。中日ドラゴンズに所属していた選手で、強力な打者として移籍先への注目が集まっているようです。野球ファンにとってはご贔屓のチームを一発で敗北に追いやる可能性のある「一振り」はこわいよなあ。《雨野理多》さんは痛恨の生ビールを呷っておりまする。
毘沙門天アレを再びタイガース
ズッキーニン
美酒迸る月明のスタジアム
ユリノキ
不思議と野球っぽい句材が多いんだよなあ、今回。勝利のビールかけ? 特に野球ファンでもない自分としましては「ああ、お酒がもったいない~……」と感じてしまうだけども。嗚呼、かなしきは貧乏性。
美酒染みて戦慄く舌や小夜時雨
三尺 玉子
美酒の瓶月の明かりを閉じ込めし
ちょうさん
美酒なれば許せ月夜の膝枕
ガリゾー
美酒交わすオアシス都市の空に月
よはく
「美酒」は辞書的には味の良い酒、うまい酒、を意味する言葉。ですが、お酒がうまいかまずいかは味だけに留まらず、状況や環境が大きく影響すると考えて良いのでしょうね。《三尺 玉子》さんや《ちょうさん》さんは味覚や容器の描写に比重があり、客観的に「美酒」と判断するだけの材料を感じ取れます。一方で《ガリゾー》さんと《よはく》さんはより主観的です。気持ち良く酔うから美酒、一緒に交わすから美酒、といった具合。どちらも酒の上での真実ってやつですなあ。古今東西、酒と月との取り合わせは多くありますが、主観的な「美酒」の方がより「月」との親和性が生まれるんだろうか。気持ち良くなればなるほど月も美しく見えるのかもしれない。
美食家の痩せたるあばら桜枯る
すそのあや
美食家のトリュフ横取る秋の豚
久えむ茜咲
美酒があれば美食もあります。美食家の方が良いモノを少しずつ食べるからあまり太らない、みたいな話を聞いた記憶があるなあ。「桜枯る」が皮肉な味わい。《久えむ茜咲》さんの句は読みに迷います。ふつうに読むとトリュフを豚が横取ってる句なんだけど、「美食家のトリュフ」で切れてると読むとニコラス・ケイジ主演の映画『PIG/ピッグ』(マイケル・サルノスキ監督/2021年)になるんだよな。僕狙いのマニアッ句なのか、それとも偶然か……?
「美少年」ひと肌河豚ちりをひとり
花岡貝鈴
ぐわー、美味そう! 「食べ物の季語は美味しそうに詠む」って心がけがありますが、ご満悦な状況でいかにも「河豚ちり」が美味しそう。涎でてきますわ。「美少年」は熊本の名酒ですが、固有名といい語順といいハマリ役です。温度を表す「ひと肌」へのつながりの面白さはこの銘柄ならでは。
美少女は月にかわってお仕置きす
うに子
美少女戦士今日の月に代わりて
飾る
美少女戦士赤いブーツの踏み込めり
白沢ポピー
美少女戦士の顔面ならぶ祭かな
前田 昂平
懐かしいですねえ、セーラームーン。「月にかわってお仕置きよ」って記憶に残る良い決め台詞だよなあ。あまりにも台詞の一部すぎて《うに子》さんや《飾る》さんの場合、季語として認識していいのか疑問ではあるけど……。一番季語がちゃんと機能してるのは《前田 昂平》さん。祭の屋台でしょうねえ。お面じゃなくて「顔面」なのが妙なインパクトたっぷり。
美姿勢の美魔女秋刀魚の骨綺麗
東風 径
〈③に続く〉