第51回「味噌づくり」《ハシ坊と学ぼう!⑩》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
凍つる窓麹菌糸の伸びし闇
峠の泉
夏井いつき先生より
「『凍つる』と古語を使った場合、『伸びし闇』『伸びる闇』『伸ぶる闇』『生ふす闇』……どれを使うべきか?? もっとしっかり勉強してくればよかったと、〆切間際にはいつも反省します。極寒の中でも、闇の中に菌糸を伸ばし続け、麹は生きて活動している! そして美味しい味噌になる! 凄いですね」と作者のコメント。
文語で統一をしたいということでしたら、「伸ぶる」とするのが妥当でしょう。「伸びし」の「し」は過去の意味になりますので、今、実際に伸びている感じにしたいのならば「伸ぶる」かな。
「『凍つる』と古語を使った場合、『伸びし闇』『伸びる闇』『伸ぶる闇』『生ふす闇』……どれを使うべきか?? もっとしっかり勉強してくればよかったと、〆切間際にはいつも反省します。極寒の中でも、闇の中に菌糸を伸ばし続け、麹は生きて活動している! そして美味しい味噌になる! 凄いですね」と作者のコメント。
文語で統一をしたいということでしたら、「伸ぶる」とするのが妥当でしょう。「伸びし」の「し」は過去の意味になりますので、今、実際に伸びている感じにしたいのならば「伸ぶる」かな。


風花を纏うティーンの賑やかし
舞矢愛
夏井いつき先生より
「ティーンエージャーの、美しくもどこか頼りなく賑やかなさまを詠んでみました。(味噌づくりの工程にある熟成期間から発想を飛ばし、高校生もいわゆる熟成期間中と想定し、作句しました)」と作者のコメント。
季語「風花」に対して「纏う」という動詞は、要一考です。風花の質感って、どんな感じでしょうか?
季語「風花」に対して「纏う」という動詞は、要一考です。風花の質感って、どんな感じでしょうか?


こそこそと味噌搗く夫に薪の香
七森わらび
夏井いつき先生より
「我が家では、味噌作りは夫の仕事でした。というより、言ってくれれば手伝いたいのに、いつもこそこそと部屋を締めきって、味噌を搗くのでした。味噌を炊いた薪や豆の香りで、それとわかるのです」と作者のコメント。
実際に「こそこそ」という感じだったのは分かりましたが(苦笑)。句材はよいと思いますので、上五を再考してみましょうか。
実際に「こそこそ」という感じだったのは分かりましたが(苦笑)。句材はよいと思いますので、上五を再考してみましょうか。


祖母なぞり仕込んはずの味噌辛し
鈴木 リク
夏井いつき先生より
「毎年祖母と仕込んでいた味噌。祖母が体調を崩してからは、そばで見ていてもらいわたし一人で仕込むこと五年。昨年(2023年)からは見てももらえませんでしたが、レシピどおりだったはずが味が違う。塩辛さだけが強くなってしまいました」と作者のコメント。
「仕込んだはずの」と書きたかったのかな? 下五が「辛し」と文語になっているので、文語で統一するならば「仕込みしはずの」としてもよいですね。
「毎年祖母と仕込んでいた味噌。祖母が体調を崩してからは、そばで見ていてもらいわたし一人で仕込むこと五年。昨年(2023年)からは見てももらえませんでしたが、レシピどおりだったはずが味が違う。塩辛さだけが強くなってしまいました」と作者のコメント。
「仕込んだはずの」と書きたかったのかな? 下五が「辛し」と文語になっているので、文語で統一するならば「仕込みしはずの」としてもよいですね。


いとをかし便器試験の冬の味噌
夢追い人
夏井いつき先生より
「TOTOの便器チェックに味噌を使うと知り、驚いたのを思い出しました。おそらく味噌は冬仕込みの味噌かもしれない」と作者のコメント。
このマニアックな事実を知らない読者にとっては、どう解釈すべきか……悩ましいところです。「いとをかし」と書いてる場合じゃないかもしれない……。
「TOTOの便器チェックに味噌を使うと知り、驚いたのを思い出しました。おそらく味噌は冬仕込みの味噌かもしれない」と作者のコメント。
このマニアックな事実を知らない読者にとっては、どう解釈すべきか……悩ましいところです。「いとをかし」と書いてる場合じゃないかもしれない……。


「ぬか炊き」の玄海揺るる鰯かな
感受星 護
夏井いつき先生より
「『ぬか炊き(ぬかみそ炊き)』は、北九州市の郷土料理で鰯や鯖が定番。鍋で炊かれる鰯という小さな魚が、大群になると海の色を変えるといいます。大漁だと船も揺れますが、壮大な玄海灘が揺れるような表現をしてみました。表現は正しいか? 大袈裟か? 『かな』は効いているか? 不安です。いつも買っている旦過市場が、先般何度も大規模火災に遭っています。徐々に復興していますが、感謝と応援の句でもあります」と作者のコメント。
「ぬか炊き」が先にでてくるので、ここで調理されたものを読者は思い浮かべます。そこから、「玄海揺るる」とくると、生きてるのか? と読み手を混乱させます。下五「~かな」の問題よりは、語順の問題を再考されることをお勧めします。
「『ぬか炊き(ぬかみそ炊き)』は、北九州市の郷土料理で鰯や鯖が定番。鍋で炊かれる鰯という小さな魚が、大群になると海の色を変えるといいます。大漁だと船も揺れますが、壮大な玄海灘が揺れるような表現をしてみました。表現は正しいか? 大袈裟か? 『かな』は効いているか? 不安です。いつも買っている旦過市場が、先般何度も大規模火災に遭っています。徐々に復興していますが、感謝と応援の句でもあります」と作者のコメント。
「ぬか炊き」が先にでてくるので、ここで調理されたものを読者は思い浮かべます。そこから、「玄海揺るる」とくると、生きてるのか? と読み手を混乱させます。下五「~かな」の問題よりは、語順の問題を再考されることをお勧めします。


老い母の味無き汁や冬隣
蛙目
夏井いつき先生より
「老い母」は少々寸詰まりな表現。「老いし母」ならば、その状態が存続しているという意味で受けとめられます。語順を変えて、「老母の味の無き汁よ」とすれば、中七下五が整いもします。推敲してみましょう。
「老い母」は少々寸詰まりな表現。「老いし母」ならば、その状態が存続しているという意味で受けとめられます。語順を変えて、「老母の味の無き汁よ」とすれば、中七下五が整いもします。推敲してみましょう。


星震え豚汁恋し寒夜かな
妙啓
夏井いつき先生より
中七が終止形で切れてしまってます。語順を一考してみましょう。
中七が終止形で切れてしまってます。語順を一考してみましょう。


柚味噌汁沈香たかず亡妻と
山尾幸正
夏井いつき先生より
「〈柚子の香や襖向うに伏せる妻〉の次の句として詠みました」と作者のコメント。
亡くなった奥様の好きだった「柚」の香りを沈香として、という句意だと読みました。その思いをも、言葉でしっかりと描きたいですね。中七「沈香たかず」と説明しなくても、その思いは伝わりますので、亡き妻へ柚子の香りを手向ける、というその場面を描写してみましょう。
「〈柚子の香や襖向うに伏せる妻〉の次の句として詠みました」と作者のコメント。
亡くなった奥様の好きだった「柚」の香りを沈香として、という句意だと読みました。その思いをも、言葉でしっかりと描きたいですね。中七「沈香たかず」と説明しなくても、その思いは伝わりますので、亡き妻へ柚子の香りを手向ける、というその場面を描写してみましょう。


春暁や粉のポカリをはたき出す
ぎゅうたん
夏井いつき先生より
「第48回『鍋一杯の柚子ジャム』の〈春暁の決意漏斗を挿しポカリ〉の推敲句です。春の総体へ向かう早朝の支度で、粉末のポカリスエットを溶いて作りながら意気込んだときのことを詠んだのですが……推敲しても情報が不足しているようで、まだしっくりきていないのが正直なところです」と作者のコメント。
こんな時は、句材をしばし寝かせましょう。自分自身に俳筋力がついてくると、解決方法があっさり見つかったりします。俳句は筋トレです。
こんな時は、句材をしばし寝かせましょう。自分自身に俳筋力がついてくると、解決方法があっさり見つかったりします。俳句は筋トレです。


冬籠厨に並んだ味噌の樽
風花舞
夏井いつき先生より
意味として間違ってはいないのですが、中七の音数と臨場感を考えると「厨に並ぶ」としたほうがいいかな。
意味として間違ってはいないのですが、中七の音数と臨場感を考えると「厨に並ぶ」としたほうがいいかな。


「さしすせそ」を習う厨のちゃんちゃんこ
ならば粒あん
夏井いつき先生より
「『を』を入れないと調べがスッキリし、ちゃんと伝わるとは思うのですが、少し切れてしまう感じがしました。上五字余りにはなりますが、『を』を入れた方が丁寧な感じがします」と作者のコメント。
このような場合、俳句では助詞を省略して、調べを優先することがあります。この句も、「さしすせそ習う」と調べを整えたほうが、得かと思います。
「『を』を入れないと調べがスッキリし、ちゃんと伝わるとは思うのですが、少し切れてしまう感じがしました。上五字余りにはなりますが、『を』を入れた方が丁寧な感じがします」と作者のコメント。
このような場合、俳句では助詞を省略して、調べを優先することがあります。この句も、「さしすせそ習う」と調べを整えたほうが、得かと思います。


豚で味噌いや牛で醤油だ秋麗
夏蜜柑久楽
夏井いつき先生より
「芋煮会をすると、いつも山形VS.宮城の主張が始まります。結局両方作るので、毎年の恒例のくだりですが、それも含め楽しいです」と作者のコメント。
芋煮のことでしたら、季語も「芋煮会」としたほうが、ストレートに伝わります。というか、下五の季語「秋麗」は、ちょいと付け足された感じに終わっています。
「芋煮会をすると、いつも山形VS.宮城の主張が始まります。結局両方作るので、毎年の恒例のくだりですが、それも含め楽しいです」と作者のコメント。
芋煮のことでしたら、季語も「芋煮会」としたほうが、ストレートに伝わります。というか、下五の季語「秋麗」は、ちょいと付け足された感じに終わっています。


味噌蔵に小さき井上集いけり
イシカワナオキ
夏井いつき先生より
明確な季語はないのですが、何か惹かれる句材です。「小さき井上」とは、どういう?
明確な季語はないのですが、何か惹かれる句材です。「小さき井上」とは、どういう?


味噌汁に故郷思う凩や
イシカワナオキ
夏井いつき先生より
下五の「~や」という着地は、バランスが取り難いとても難しい型です。この内容でしたら、やはり上五に「凩や」とおくのが無難。中七「故郷思う」という常套句をさて、どうするか。ここが勝負のポイントです。
下五の「~や」という着地は、バランスが取り難いとても難しい型です。この内容でしたら、やはり上五に「凩や」とおくのが無難。中七「故郷思う」という常套句をさて、どうするか。ここが勝負のポイントです。

