俳句deしりとりの結果発表

第35回 俳句deしりとり〈序〉|「めしゅ」①

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第35回の出題

兼題俳句

年数は出逢いとろんとする梅酒  くるぽー

兼題俳句の最後の二音「めしゅ」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「めしゅ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

めしゅなんて広辞苑にも二語の冬

⑦パパ

俳句deしりとりの永遠の嘆きであります、「そんな単語ねえよ!」って悲鳴が聞こえてきそうですねえ。今までも散々探しにくい二音が出題されてきましたが、広辞苑に二語しか載ってないのはなかなかでは。「の冬」が途方に暮れる実感であります。

そんな難題に対して、みなさんがどんな解法で挑んだのか、見ていきましょう。
“良き”

めしゅだよと姪の指さすせいこ蟹

あみま

めしゅのかまきりよおなか大きいもん

飛来 英

めしゅはつのないのとごきぶり掴む手

鈴木そら

解法その1・言い間違いの術。まあ強引といえば強引なんだけど、しりとり突破のために手段は選んでいられませんネエ。どの句も舌足らずのこどもが自信満々に喋ってる風なのは、言い間違いというシチュエーションからくる必然。……しかし、無邪気なヤッチマッタ事案とはいえ、ごきぶり掴んで持ってこられるとキツイなあ……。

 

“ポイント”

メシュもといメスシリンダー春の昼

清瀬朱磨

めしゅしりんだーと言う恩師や寒椿

ヒマラヤで平謝り

「メス」の言い間違いの別パターン。こちらは子どもの言い間違いではないですね。口内の構造的な問題などでサ行の発音がしにくい方もいらっしゃいます。《清瀬朱磨》さんは律儀に訂正しておりますが、結果的に十二音分を費やしてるのがやや損です。《ヒマラヤで平謝り》さんはリアリティを感じさせる中七下五が一枚上手。学校の敷地に植えられていそうな「寒椿」が記憶を呼び起こすフックのように機能しています。

“とてもいい“

めしゅロック」四杯目から米こぼす

慈庵風

言い間違いの術の亜種、呂律が回らないバージョンです。酔っ払うとこんな口調になるのはわかるんだけど、この場合は季語「梅酒」と認識していいのか??

“ポイント”

めしゅめしゅと軋む流氷薄群青

みづちみわ

めしゅめしゅに汚れた雪だ泣くものか

たきるか

めしゅっめしゅっと歩く池の端厚氷

はるを

めしゆめしゆと三ツ矢サイダー喉に受く

津々うらら

めしゅめしゅと寝ぼけて磨く歯やうらら

常磐はぜ

めしゅめしゅと乳喰む吾子の初大師

のなめ

めしゅっと潰る露寒のペットボトル

飯村祐知子

めしゅめしゅとくづるるくつぞこの枯葉

栗田すずさん

めしゆめしゆとちぢむプラ板なめくぢり

青居 舞

めしゅめしゅと梱包たたみ年あゆむ

殻ひな

メシュリッと潰す缶より夏匂ふ

池田義昭

解法その2・オノマトペの術。オノマトペの「めしゅ」は大別すると、水気を帯びた響きか、なにかが崩れる響きとしてイメージした方が多いようですね。それぞれのジャンルで比較的珍しい捉え方なのは《津々うらら》さんの〈めしゆめしゆと三ツ矢サイダー喉に受く〉と《青居 舞》さんの〈めしゆめしゆとちぢむプラ板なめくぢり〉かなあ。サイダーといえば「しゅわしゅわ」が真っ先に連想されるオノマトペだと思うけど、ベタすぎるオノマトペは類想の元。意外性とリアリティを両立させて「めしゆめしゆ」は悪くないですねえ。《青居 舞》さんは意外性があるわけではないんだけど、その分体験に根付いた観察のオノマトペになってます。包装のプラスチックとかならともかく「プラ板」って万人が扱った経験のあるモノじゃないと思うんだよなあ。「燃える」とかではなく「ちぢむ」なのもポイント。なにかに加工している最中? グッズとか作ってる??
“とてもいい“

めしゅぎしゅと唸る吊り橋大夕焼け

香亜沙

オノマトペの術の亜種、違う音との組み合わせ。真っ先に思い浮かぶのは徳島県・祖谷のかずら橋ですねえ。怖いけど楽しいんだよな、あれ。観光サイトによれば祖谷のかずら橋は日本三奇橋に数えられるそうです。へぇー、三奇橋なんてあるんだ。……って、調べてみるとどの橋を「日本三奇橋」にするかは諸説あるみたい。他には山口県錦川の錦帯橋、山梨県桂川の猿橋、富山県黒部川の愛本橋なども名前が挙がっておりました。どれも吟行に行ってみたい!
“良き”

目しゅぱしゅぱ吾子まくなぎへ振りかぶり

佐藤さらこ

目シュパシュパする馬鈴薯の種おろし

多数野麻仁男

目しゅわしゅわ病床の雪は微炭酸

鰯山陽大

独立した単語とオノマトペを組み合わせる手もありました。それぞれ微妙にニュアンスが違うのが興味深いですね。《佐藤さらこ》さんはまくなぎに突っ込んじゃった吾子の実感かなあ。「振りかぶり」がやや意図を捉えにくい部分がありますね。《多数野麻仁男》さんの「種おろし」は田畑に作物の種をまくこと。早朝からの作業で起き抜けに目がシュパシュパしてるんだろうか。《鰯山陽大》さんの句は病床から見る昼の雪のきらめきを想像します。刻々と消えてゆく雪の音が眼球の表面で捉えられるかのような詩の感覚が美しい。
“とてもいい“

目、手術する」斜視の子の言う秋麗

松虫姫の村人

目手術し用なしの手の寒さかな

白沢ポピー

目手術すやけにうるさき猫の恋

有村自懐

眼手術し0.6に冬ぬくし

若宮 鈴音

眼手術す薄もも色の春障子

ルージュ

目、手術成功」のLINE白蓮木

咲山ちなつ

目手術の春や先生の男ぶり

骨の熊猫

目+手術の組み合わせも多かった。意味としては通じるし、句の内容としては《骨の熊猫》さんの粋な語りぶりを筆頭に面白い句もなくはないんですが、本来入るはずだった「を」や「の」などの助詞が省略されて不自然な形になっている句もあります。「手術し」「手術する」など、直後に動詞が続くのも散文的になりやすくなるのが難しいところ。……出題「めしゅ」が難しいせいだろ! って? それはそう。
〈②に続く〉
“とてもいい“