第35回 俳句deしりとり〈序〉|「めしゅ」②

始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。


第35回の出題
兼題俳句
年数は出逢いとろんとする梅酒 くるぽー
兼題俳句の最後の二音「めしゅ」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「めしゅ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
目朱色のインクで染めし雪兎
えりまる
目周囲にクマ居座りぬやれ師走
渋井キセ乃
目出血のお客のセブンスター雪
冬野とも
眼醜怪にして自棄酒の大晦日
平本魚水
目瞬時に捉ふる鷹の長き糞
鳥乎


芽しゅっぽしゅっぽと大根の一列
ひろ笑い
芽しゅるしゅるーっと伸びてコスモス咲いた
ファビパピ代
芽しゅるしゅる伸びる観葉小春空
日進のミトコンドリア
芽しゅるり今夜の汁に貝割菜
クスノさとみ
芽しゆるるん雫犇めく貝割菜
ふみづきちゃこ
芽シュルンと隙間を伸びて春日浴ぶ
西 メグル
芽しゆわしゆわ噴ひては萎る神の旅
ナノコタス
芽しゅわっと豆の木になる読み聞かせ
砂糖香
芽、秋果、芽、枝、葉、秋果を分別す
蜘蛛野澄香


めしゅといは鹿児島弁です薩摩藷
銀猫
めしゅとっば好かんど懸巣鳥やじょろしか
すずなき
《銀猫》さんナイスアシスト! 鹿児島弁ですって教えてもらえなかったら「?」でしたワ。「めしゅとい」は鹿児島弁で、ご機嫌を取る、お世辞を言う、といった意味だそうです。《すずなき》さんの「めしゅとっば」は「めしゅといやつは」みたいな意味かしら。後半フレーズは「懸巣鳥や」と詠嘆してるのかと思いきや「やじょろし」で一単語だそうです。薩摩弁でやかましいの意味とのこと。鹿児島といえば「薩摩藷」はドンピシャな取り合わせですが、実は「懸巣鳥」も鹿児島に縁のある季語。懸巣鳥の仲間のルリカケスは鹿児島県の県鳥に指定されています。


「めしゅらんだっけ?」大将の漬け鮪
三浦海栗
メシュランのガイド片手に年忘れ
閏星
メシュランのノンアポ取材ふぐの宿
沙魚 とと
メシュランの糸島納豆熱燗と
糸桜
メシュランの本めくる夜台風来
京あられ
メシュランばいミシュランじゃなか鶏雑炊
梅田三五
んん? 「メシュラン」がたくさんきてるけど……星の数でレストランやホテルを格付けしてるのって「ミシュラン」だよね? 言い間違いシリーズにしては随分似たテイストの句が揃ってるけど……?
気になって調べてみると、どうもみなさんが句材にしてるのは「メシュラン」で間違いないようです。福岡のラジオ番組、FM FUKUOKA『BUTCH COUNTDOWN RADIO(通称ブチカン)』の人気コーナーがメシュランこと「ザ・メシュラン」。MCさんたちが食べ歩いた福岡のいい店、うまい店を紹介しており、書籍化もしてるとのこと。うーむ、これだけの句数が寄せられるとは、リスナーたちの愛を感じるぞ!!


メシュかまやつあのバラードと月の美酒
俊恵ほぼ爺
個人的にはムッシュかまやつさんの歌を聴いたのってOVA『戦闘妖精雪風』のエンディングテーマが唯一の経験。作品が全体的に殺伐としてるのに、場違いなくらい穏やかな曲がテロップと共に流れ出して脳がバグった記憶がある。懐かしいな、雪風。ブッカー役の中田譲治さんがカッコイイんだ、これが。


召人すうと歌会始かな
おかだ卯月
ついにきました、小細工なしの「めしゅ」から始まる単語。「召人(めしゅうど/めしうど)」は宮中の歌会始で和歌をよむように選ばれた人のこと。単語を見つけてきたのはえらいんだけど、実は落とし穴もありまして――


召人の声の朗々初御空
岸来夢
召人の声朗々と歌会始
ピアニシモ
召人の声朗々と歌会始
ねこじゃらし
召人の声朗々と初歌会
夏村波瑠
召人の声朗朗と日脚伸ぶ
伊藤 恵美
ご覧の通り、そっくりさんが大量発生してしまったんですね。上五中七がほぼ一致。、《ピアニシモ》さんと、《ねこじゃらし》さんに至っては完全一致であります。類想類句は短詩系文学の宿命ですなあ。


召人のきぬずれの音や雪もよひ
うに子
召人のポマードや歌会始
城ヶ崎文椛
召人の笙温むる火のしづか
木ぼこやしき
召人の吟詠渡る梅日和
蛇の抜け殻
召人の怨みつらみを聞く冬夜
大本千恵子
召人は花守で花盗人で
ぞんぬ
その分、類想を回避したみなさんのいろんな工夫が尊い。きぬずれ、ポマード、笙を温める事前準備など、より具体的なイメージへ落とし込んでいます。、《蛇の抜け殻》さんは比較的「朗々」シリーズと近い句材ではあるのですが「渡る」と「梅日和」によって音の響いていく空間を描けているのが一枚上手。、《大本千恵子》さんは宮中のどろどろ具合が語られていそうな中七下五が個人的に好き。現代の歌会というよりは、はるか過去の宮中へと発想を飛ばした形かなあ。、《ぞんぬ》さんの飄々とした季重なりも愉快であります。「花守」も「花盗人」も雅ながら人間くさい季語。現代ではあんまり見かけなくなった季語でもあるでしょうが、「召人」ならあり得るかも!? と思わせる、言葉の組み合わせの妙味です。


因人の足枷冷えて雪の声
風花舞
囚人に生き網走の冬五度目
留辺蘂子
囚人のやうな仕事場冬安吾
不二自然
囚人のやうに凍れる街に棲む
彩汀
囚人のつくりし道路雪曇
坂野ひでこ
囚人の最期の島や冬の波
青井季節
囚人の自白捏造根深汁
わおち
囚人の足に霜焼け佐渡ヶ島
早坂喜熊
囚人の冤罪比率虎落笛
つんちゃん
囚人へ転生跣足四回目
陶瑶
囚人や何やらかして木下闇
槇 まこと
囚人の作品展や春の娑婆
孤寂
囚人みたいなボーダーのセーター
岡根喬平
「囚人」も「めしゅうど/めしうど」と読むんですねえ。「召人」と同じ意味を持ちつつ、特に「囚人」と書いた場合は捕えられて獄につながれている人、という意味になるようです。わかりやすく囚われてる感に満ちた句があれこれ届いておりますなあ。個人的には、《不二自然》さんや、《彩汀》さんの現代人らしい労働の感覚が刺さる。かなしいくらい刺さる。
あれ? しかし獄に繋がれている「囚人」の意味も含むとなると、「召人」で紹介した、《ぞんぬ》さんの「召人は花守で花盗人で」もむしろ盗人系の読みをするべきなのかなあ……句によってはどちらの意味で取るべきか迷いが出てきますね。


囚人(めしゅうど)を七人囲う夏館
舞矢愛
召人のごとき凍鶴なきはらす
秋熊
たとえばこの二句。どっちも「めしゅうど」の解釈に迷います。
《舞矢愛》さんは「囚人」ですが「七人囲う夏館」の場面設定からは歌詠みのめしゅうどと考えても違和感はありません。仮に獄に繋がれているバージョンで考えたとしても、元罪人を用心棒にでもして囲っているのか? と考えられなくもないし。一方、、《秋熊》さんは召人を比喩に使った稀少な例。朗々シリーズからもわかるとおり「召人」という単語は空間に響き渡る声の要素を内包しています。凍鶴が鳴いていると解釈すれば歌詠みのめしゅうどと親和性を発揮しますし、凍鶴の不動と寒く厳しい環境とを主たる要素と捉えるなら獄につながれている囚人の哀しみの方が似合う……と考えられるかもしれない。さて、各々どちらの意味で捉えるべきか。奥行きのある二句ですねえ。
〈③に続く〉

