第36回 俳句deしりとり〈序〉|「うき」①

始めに
皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。


第36回の出題
兼題俳句
ビシソワーズの匙の翳りや桜桃忌 二城ひかる
兼題俳句の最後の二音「うき」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「うき」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
ウキウキ投句シホシホ仰ぐ冬の星
氷雪
はい、俳人あるあるから始まりました、今回のしりとり。冬の星が切ないですね。自信あるときに限って結果奮わなかったりするんだよなあ。しょげても希望は失わず、がんばっていきまっしょい。


うきしづみおほき人生ふくはらひ
渥美こぶこ
ほら、人生そんなもんだよ、と《渥美こぶこ》さんも仰っておりますぞ。歴史的仮名遣いの表記が人生訓としての重みを増しておりますなあ。福笑との取り合わせがいろいろあった末に賑々しく幸せな現在を想像させてくれます。ただ、「福笑」の仮名遣いは「ふくわらひ」ですね。小さな失敗もまた浮き沈みのひとつってことで~(笑)。


浮き沈む二等船室冬の雷
にゃん
こちらは物理的な浮き沈み。個人的には船での移動って結構好きです。二等船室って相部屋雑魚寝の印象があったけど、船のグレードによっては違うんだろうか。「冬の雷」が轟く悪天候ならけっこう浮き沈み激しそう。酔う心配をする人もいれば、純粋に恐怖の場面の一句と受け取る人もいるかしら。


ウキ沈む魚に春は眩しくて
馬場めばる
うきながめそろそろ場所替え春の池
のぐちゃん
浮きらしきものざゆざゆと野分来る
ナノコタス
浮子しずか津波のあとの冬銀河
気仙椿
釣りに使う浮きでもあり、海に張った魚網のありかを示す目印でもあります。「浮子」とも書くってみなさん知ってました? 《馬場めばる》さんと、《のぐちゃん》さんは魚釣り、《ナノコタス》さんは設置されたもの、とそれぞれ読みを絞れますが、《気仙椿》さんはどちらにも読める可能性がありますね。この時期、津波というと十四年前の東日本大震災を思い出さずにはいられません。当時を恐ろしく思い返しながらの夜釣り、って可能性もあるかなあ。黒々と鎮もる海の上には冷たい冬銀河が煌めいております。


浮きくるは老けがほの鯉春遅し
いかちゃん
いるいる、こんな鯉。なんだろう、口元に入ってる線の加減なのかなあ。古典中国のイジワル官吏みたいな顔つきの鯉、いるよね。横山光輝の『三国志』にでてきそうなやつ。まだ浅い春の水面がもったりと盛り上がる動きが見えてきます。


浮き上がる二月の鯨は子を孕み
天雅
こちらはよりスケールの大きな浮き上がり。二つの季語を「二月の鯨」と合体させる季重なりの技です。新しい命を宿した鯨はいっそう雄大で豊かに思えます。音数的には「鯨」を「げい」と読めば全体で十七音に収まるけど「くじら」と読みました。「は」の助詞を挟むことで一音字余りになってしまうけど、この判断は正解。中七「~鯨」で切れがあると読まれてしまうと、句意が正しく伝わらなくなってしまいますからね。一音分の字余りも巨体のずっしり感を表現するものと考えれば許容しやすいです。


浮きかけてだけどまだ春野にいたい
ツナ好
こちらは心理的というか、虚の世界の光景。浮き立つような春野の懐に魅了される感覚に共感します。離れがたい思いと同時に、離れて俗世に戻っていかないといけないのもわかっている心理が「浮きかけて」から感じ取れます。
……全然関係ない話するんだけど、ようやく『ドリーム・シナリオ』(クリストファー・ボルグリ監督/2023年)観たんですよ。ラストシーンはニコラス・ケイジが演じる主人公、ポール・マシューズが浮遊していく構図で終わるんだけど、この句読むと映画がフラッシュバックしちゃってねえ。あ、上記は映画のネタバレには全然なってないからご安心ください。賛否は強烈に分かれる映画だとは思うけど、面白かったよ! 繊細な人、特に繊細な男性はやるせなさで二週間くらい体調悪くなる可能性あるから気をつけて観てくれよな!
……全然関係ない話するんだけど、ようやく『ドリーム・シナリオ』(クリストファー・ボルグリ監督/2023年)観たんですよ。ラストシーンはニコラス・ケイジが演じる主人公、ポール・マシューズが浮遊していく構図で終わるんだけど、この句読むと映画がフラッシュバックしちゃってねえ。あ、上記は映画のネタバレには全然なってないからご安心ください。賛否は強烈に分かれる映画だとは思うけど、面白かったよ! 繊細な人、特に繊細な男性はやるせなさで二週間くらい体調悪くなる可能性あるから気をつけて観てくれよな!


うきあがり異国の大人用プール
マサオカ式ぉ村椅子
浮身して睨み付けたる青き空
赤味噌代
浮き身せば耳より海へ溶けゆくか
家守らびすけ
浮き身とふホワイトノイズにゐて生きて
鰯山陽大
泳ぐ系の季語にむかっていった人たち。異国のプールなんて優雅でいいねえ。「浮き身」は泳法のひとつですから、夏の季語「泳ぎ」の傍題と解釈しました。《家守らびすけ》さんと《鰯山陽大》さんの感覚はよくわかるなあ。仰向けになってると耳も水につかってるから水の揺らぎというかノイズみたいな音が自分を取り囲んでる感じがすごいんだよね。プールと捉えるか、海と捉えるかによって心理の解釈には幅が生まれそう。後者だと少しの恐怖や不安が滲んできます。
〈②に続く〉
〈②に続く〉

