俳句deしりとりの結果発表

第36回 俳句deしりとり〈序〉|「うき」②

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第36回の出題

兼題俳句

ビシソワーズの匙の翳りや桜桃忌  二城ひかる

兼題俳句の最後の二音「うき」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「うき」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

浮き輪買う吾子より大きフラミンゴ

ルージュ

袋つけてもこわいスライダー

ぴん童子

袋ラッコごっこをする親子

早霧ふう

袋最後は父の枕なる

岡田きなこ

輪より絞り出す気まずき空気

高橋寅次

輪抱く彼の人の息入れたまま

緑萌

浮き輪から落ちて珊瑚に手の届く

若林くくな

これさえあれば安心! な浮き輪&浮き袋。海にもプールにも大切なお供ですねえ。純粋に遊びを楽しんだり、使い終わったあとの行く末だけでなく、叙情的な描かれ方もしてるのが興味深い。《緑萌》さんの句はキュン度高いですねえ。個人的に一番好きなのは《若林くくな》さんの句。うっかりすっぽ抜けたりひっくり返るアクシデントも浮き輪にはつきものですが、「おわー!」と慌てると同時に、海中の鮮やかな珊瑚との出会いに心がきらめく瞬間がありありと読者に手渡されます。活用形の解釈の余地を与えてくれる「手の届く」が語順も含めて秀逸でした。
“良き”

うきぶくろ)なき身岬の初日の出

かなかな

読みは同じうきぶくろでも意味が異なります。「鰾(うきぶくろ)」は魚の体内にある気体の入った器官のこと。主に浮力を調節するための器官であり、魚の種類によってはガスではなく比重の軽い脂を貯めてたりもするんだとか。……句のシチュエーションを考えると、少し不穏な気配もあってこわい。なんで初日の出の岬で「鰾なき身」について考えてるんだろう。……身投げか!? 早まるな!! (火曜サスペンス劇場感)

 

“ポイント”

舟を並ぶる橋や雪解川

多数野麻仁男

舟や宇治の館を深き霧

伊沢華純

舟や足入る春の川はやし

乃咲カヌレ

「浮舟」にはいくつか意味があります。まずは単純に「水面に浮かんでいる舟」の意。転じて、頼りないことを喩える場合にも「浮舟」といいます。《多数野麻仁男》さんは舟と共に雪解川の光景を描いてますから、純粋な描写の言葉と捉えて間違いないでしょう。

もうひとつ、源氏物語の登場人物「浮舟」を描いたと思われるケースもありました。宇治の八の宮の娘で、宇治川で入水を図ります。内容からすると《伊沢華純》さんと《乃咲カヌレ》さんはこちらの意味でしょうね。作品の内容を知らないと《乃咲カヌレ》さんの句はたおやかな春の川の流れを楽しんでいるかのように見えますが、実は壮絶な背景のある句だったんだねえ……。

“とてもいい“

寝鳥ただ平らかに大円湖

杏乃みずな

寝鳥ベンチの硬く広きこと

坂野ひでこ

寝鳥膨れて姉妹瓢湖に来

菜活

寝鳥カーテン開かぬ四人部屋

西川由野

寝鳥沈む記憶の沼の中

老蘇Y

寝鳥そうだ天麩羅丼にしよ

夏の町子

「浮寝鳥」は冬の季語。水に浮いたまま眠っている鳥のことで、首を翼の間に入れて眠っている姿は愛らしいと同時に、寒さの中で生きている健気さもあります。取り合わせの傾向としては、季語の周辺状況の描写や、「眠る」ことから連想を広げるケースが多かったようです。そんな中で《夏の町子》さんはあっけらかんとした異色の取り合わせ。鳥が寒そうにしてるのなんてお構いなし! あったかくて美味しいもん食べよ! って勢いがサイコーに人間くさくて愉快でありんす(笑)。

“ポイント”

浮き草や園児らねこの雲を指し

川上真央

草のもつれて枯れて夜の苑

うに子

水面に浮かんでいるのは鳥だけでなく植物もあります。「浮草」は季節毎に表情を変え、生育段階に合わせて春の季語になったり秋の季語になったりしますが、単に「浮草」といった場合は夏の季語になります。《川上真央》さんは保育園・幼稚園のにぎやかなお出かけでしょうか。浮き草の繁茂する水面にもねこの雲は映ってるのかもねえ。一方で《うに子》さんは静かな夜の光景。描写のリアリティは秀逸なのですが、「枯れ」がやや冬っぽい季感をもつのが悩ましいところ。
“とてもいい“

雲の右へ右へと椿東風

日月見 大

雲や鞄一つの大晦日

泉幸

雲は右に今川焼は胃に

染野まさこ

「浮雲」は字の通り、空中に浮かび漂っている雲のこと。物事の落ち着きがなく不安定なさまのたとえにも使われます。ご紹介の三句は解釈次第では後者の意味にもとれるかもしれないけど、個人的には単純な雲の意味だと解釈してます。《日月見 大》さんの雲を押し流す「椿東風」が匂やかで良いねえ。

ちなみに松山のあたりだと「今川焼」のことは「大判焼き」と呼んだりします。名前ありすぎてイッパイアッテナ状態だよな、あれ。
“良き”

島や吹雪の中にうづくまる

竜酔

島現象瀬戸内の氷点下

みそちゃん

島の神社を守る狭霧かな

はま木蓮

島へ冴ゆるガス灯窓流る

つきみちる

「浮島」も意味がいくつかあるようですねえ。まずは湖や沼に浮かぶ島のようなもの、の意味。泥炭や枯れた植物が集まって形成されるようです。《竜酔》さんの「うづくまる」はこれかなあ。次に、海岸や湖で遠くの島や岬が水面から浮き上がって見える現象、の意味。《みそちゃん》さんが「浮島現象」とハッキリ書いてるやつですね。《はま木蓮》さんは固有名としての「浮島の神社」。この社名を持つ神社は日本全国に存在するようです。安全や安産祈願、縁結びなどの御利益があるとか。

などなど、どの意味でとるのか、句に含まれた他の言葉をヒントに読み解いていくわけですが……《つきみちる》さんの句はどの意味でも成立しそうなのが悩ましい。「窓流る」が車窓だとすれば、優勢なのは浮島現象あるいは神社の可能性が高くなるかなあ。
“とてもいい“

御堂閑か晩夏の湖しづか

実相院爽花

御堂池に吸はるるぼたん雪

葉山さくら

御堂源氏訪ねて春隣り

しまちゃん

御堂月光が問う君の名は

鹿達熊夜

こちらは完全に固有名詞一本に絞れます。滋賀県の琵琶湖に建立された寺院「満月寺」のことで、通称が「浮御堂」だそうです。近江八景の一つに数えられる名勝、とな。ほうほう、それほどの場所なら《実相院爽花》さんや《葉山さくら》さんの格調ある描き方も映えますなあ。僕の知識不足でわからないのは《しまちゃん》さんと《鹿達熊夜》さんの句。源氏? 月光に名を問う? うーん、源氏物語に関係があるのかなあ?
〈③に続く〉
“とてもいい“