第36回 俳句deしりとり〈序〉|「うき」④

始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。


第36回の出題
兼題俳句
ビシソワーズの匙の翳りや桜桃忌 二城ひかる
兼題俳句の最後の二音「うき」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「うき」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
憂き人に募る思ひや十二月
青井季節
憂きことのひとつヴィトンの革に黴
ガリゾー
憂き世なりセルフで注ぐ生ビール
西野誓光
憂き身なり聖菓は先に選ぶけど
澤村DAZZA
憂き苦労多き代表夜鳴蕎麦
ヒマラヤで平謝り


浮世かなぐいと呑み干すうつた姫
まちつぼ
浮世の義厳し令和のお正月
そうわ
浮世の未練一身に受け鬼やらひ
松虫姫の村人
浮世とは時空軸なりヒヤシンス
霜川このみ
浮世をば清やかに生く冬菫
信茶
浮世へと蹴とばす石や朧月
令子


浮世絵のやうな嫁来て冬ぬくし
ピアニシモ
浮世絵のをんなの憂ひ枯野原
冬野とも
浮世絵の女に向くる扇風機
充子
浮世絵の美人のような海豚かな
千代 之人
浮世絵の骸骨や吾は着膨れて
細川 鮪目
浮世絵の句もたくさんきておりました。美人図なども有名ですから「浮世絵」といえば女性、と連想するのはさもありなん。その点、「美人のような海豚」とズラしてくる《千代 之人》さんのセンスは好きだなあ。骸骨と自分の対比にもってきた《細川 鮪目》さんの句も好き。歌川国芳のがしゃどくろの浮世絵だよね、きっと。


浮田家の嫁御となりて絵踏せよ
伊藤 柚良
固有名詞「浮田家」。どんなお家かはわかりませんが、「嫁御」という呼び方や試練めいた「絵踏」によって、ただならぬ気配を感じさせますなあ。句に固有人名を登場させる場合、実在の人名である場合もあれば、内容に似合った創作の名前を使う場合もあります。調べてみると富山県に加賀藩の役宅として浮田家住宅という文化財があるそうですが、関係あるのかしら。個人的には創作かなあと読んでいるんだけど。


右記のこと違うべからず宝船
みづちみわ


盞結の四十八士や大石忌
わおち
「盞結」は「うきゆい」と読み、意味は、さかずきをとりかわして心の変わらないことを誓約すること、だそうな。「盞」はさかずきなんですね。もう字がくちゃくちゃっとなっててどう書いてあるのかもわかんないよ。大石忌は大石内蔵助の命日3月20日。京都では今も縁のお茶屋にて行事が行われるそうです。さすがは歴史の都・京都だねえ。


羽球部の汗や無風の体育館
横山雑煮


浮き球にフルスイングや夏の果て
すずなき


浮人形正社員にはなれずじまひ
伊藤映雪
浮人形鶏卵の殻きよらなり
有村自懐
一方で《有村自懐》さんは水を弾く鶏卵の殻の質感が見えてくる、水の鮮度を感じさせる一句。ただ、光景をどう想定すればいいのかは少し悩みます。遊んでる水場の近くに、割らないよう離して荷物を置いているのか? それとも鶏卵の殻を工作して浮人形にしているのか? それとも単なる取り合わせ?? もし工作だとしたら繊細すぎる気がするけど、その分「きよらなり」が際立つ気もするし……うーん、悩みますねえ。


浮石を直す僧侶や冬の梅
ひろ笑い


浮氷ぽつねん明日は返却日
どゞこ


浮巣には卯の花色の卵かな
青居 舞


第38回の出題
浮世絵の象ぐんにやりと往く立夏
弥栄弐庫
ほんまにあるんかいな? と調べてみたらあるわあるわ、象を描いた浮世絵! 江戸時代にも象は日本に運ばれてきた記録があり、それで人々の語り草になったんでしょうかねえ。かの葛飾北斎も象を描いてるんですが、皮のよじれ具合や体毛の執拗な描かれ方はまさに「ぐんにやり」。他にも河鍋暁斎による象の戯れる滑稽な作品などもあり、いかに当時の人々にインパクトを与えたのかが想像されて面白いです。浮世絵のなかに留められた「象」はその巨体をぐんにやりと躍動させたまま、絵のなかの「立夏」という時間を永遠に過ごし続けるのです。人の生み出す芸術ってすごい。
ということで、最後の二音は「っか」でございます。
また「っ」なのぉ!?
しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

