第53回「火の山公園のチューリップ」《ハシ坊と学ぼう!⑤》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
朴葉味噌の炭火幽らむや雨の宿
生石子
夏井いつき先生より 評価 人
「拙句〈朴葉味噌の炭火幽らむ雨の宿〉(兼題『味噌づくり』)に、先生から『「幽らむ」は何と読ませたいのかなあ……?』とのご質問。飯田蛇笏〈陶器舗のあたりの幽らむ炭火かな〉を訓読み『幽(かすか)』から『幽(かす)らむ』と推察し、投句しました。しかしもう一つの訓読み『くらい』から『幽(く)らむ』、または音読み『ゆう』から『幽(ゆ)らむ』が正しいのかもしれません。今回『幽(く)らむ』を使って推敲しました」と作者のコメント。
なるほど、そういうことでしたか。漢字源によると、意味の読みとして「かすか/くらい」がありました。蛇笏の句も「くらむ」と読ませるのかもしれませんね。納得しました。人選。
なるほど、そういうことでしたか。漢字源によると、意味の読みとして「かすか/くらい」がありました。蛇笏の句も「くらむ」と読ませるのかもしれませんね。納得しました。人選。


山野辺にカメラ初心者花ひとつ
なかいかよこ
夏井いつき先生より
「花」は、俳句では「桜」を指す大きな季語です。「花ひとつ」は、桜が一輪咲いたという意味?
「花」は、俳句では「桜」を指す大きな季語です。「花ひとつ」は、桜が一輪咲いたという意味?


花や花撒き散らしたる絵具箱
なかいかよこ
夏井いつき先生より
「これで良いのか悪いのか?」と作者のコメント。
「花」は「桜」を指す春の大きな季語です。桜を書こうとしているのならば、中七「撒き散らしたる」に多少の違和感を持ちます。兼題写真のような色とりどりの花々を描こうとしているのならば、季語は一考する必要があります。
「花」は「桜」を指す春の大きな季語です。桜を書こうとしているのならば、中七「撒き散らしたる」に多少の違和感を持ちます。兼題写真のような色とりどりの花々を描こうとしているのならば、季語は一考する必要があります。


楊枝がおしべ小樽ガラスのチューリップ
チョコ婆
夏井いつき先生より
「十二年前に小樽を訪れた時に、旅の思い出に小樽ガラスのチューリップの花型の楊枝入れを買いました。推敲を重ねて〈楊枝入れは小樽ガラスのチューリップ〉と着地したのですが、コメント文に楊枝を入れるとそれが雄しべのように見えることを書こうとして、いっそのこと『楊枝がおしべ』で楊枝入れなのだと分かるかなぁ、と。読み手に伝わるか、不安です」と作者のコメント。
ガラスの楊枝入れだと、何割ぐらいの人が理解してくれるか。少々心許ないですね。更に、「ガラスのチューリップ」となれば、季語としての鮮度は落ちてしまいます。そこも一考したいところです。
「十二年前に小樽を訪れた時に、旅の思い出に小樽ガラスのチューリップの花型の楊枝入れを買いました。推敲を重ねて〈楊枝入れは小樽ガラスのチューリップ〉と着地したのですが、コメント文に楊枝を入れるとそれが雄しべのように見えることを書こうとして、いっそのこと『楊枝がおしべ』で楊枝入れなのだと分かるかなぁ、と。読み手に伝わるか、不安です」と作者のコメント。
ガラスの楊枝入れだと、何割ぐらいの人が理解してくれるか。少々心許ないですね。更に、「ガラスのチューリップ」となれば、季語としての鮮度は落ちてしまいます。そこも一考したいところです。


花香り炎の国へ誘うや
白文鳥
夏井いつき先生より
「花」は「桜」を意味する春の季語。チューリップのことを書きたいのであれば、「チューリップ」と書く必要があります。
「花」は「桜」を意味する春の季語。チューリップのことを書きたいのであれば、「チューリップ」と書く必要があります。


風光り微かにふるふ猫のひげ
鍋焼きうどん
夏井いつき先生より
「一句目の〈春めいて微かにふるふ猫のひげ〉の季語を変更したものです。一句目は『春めきて』とすべきでした。申し訳ありませんでした。訂正不可の旨、承知しています。二句目として投稿します」と作者のコメント。
「春めきて」に音便を発生させたのが「春めいて」です。「春めきて」より、少し柔らかい感じになるのが「春めいて」です。とはいえ、二句目の季語のほうが具体的でいいですね。「風光る」と終止形にして、切れを入れれば人選です。
「春めきて」に音便を発生させたのが「春めいて」です。「春めきて」より、少し柔らかい感じになるのが「春めいて」です。とはいえ、二句目の季語のほうが具体的でいいですね。「風光る」と終止形にして、切れを入れれば人選です。


消化器のピン抜けてゐてチューリップ
渥美こぶこ
夏井いつき先生より
「消化器」ではなく、「消火器」か? そちらならば、人選なのですが……。
「消化器」ではなく、「消火器」か? そちらならば、人選なのですが……。


忌明けに買うチューリップ一抱え
沙那夏
夏井いつき先生より
「忌明け」と「チューリップ」の取り合わせよいですね。「一抱え」という描写もよいです。最後のブラッシュアップは、調べ。語順を一考して下さい。人選は目の前。
「忌明け」と「チューリップ」の取り合わせよいですね。「一抱え」という描写もよいです。最後のブラッシュアップは、調べ。語順を一考して下さい。人選は目の前。


足くすぐられ花虻てふ光
森野みつき
夏井いつき先生より
「足くすぐられて」あるいは「足をくすぐられ」ではダメですか?
「足くすぐられて」あるいは「足をくすぐられ」ではダメですか?


八十九秒の地球余命や鬱金香
小倉あんこ
夏井いつき先生より
「地球の上に咲き並ぶチューリップを見て、地球滅亡まで残された時間を示す『終末時計』の残り時間が、89秒になったということに想いを馳せました」と作者のコメント。
上五に「地球余命」と字余りでおくと、全体の調べが整ってきます。
添削例
地球余命八十九秒鬱金香
「地球の上に咲き並ぶチューリップを見て、地球滅亡まで残された時間を示す『終末時計』の残り時間が、89秒になったということに想いを馳せました」と作者のコメント。
上五に「地球余命」と字余りでおくと、全体の調べが整ってきます。
添削例
地球余命八十九秒鬱金香


をとこの火砕けて咲けりチューリップ
けい女
夏井いつき先生より
「恋人の死を嘆き、身を投げた男の血から咲いた花がチューリップだという、チューリップに関する伝説を詠みました」と作者のコメント。
植物の季語は、基本的には花が咲いている季節の季語となっています。この句の場合は、「咲けり」と説明しなくてもよいですね。
「恋人の死を嘆き、身を投げた男の血から咲いた花がチューリップだという、チューリップに関する伝説を詠みました」と作者のコメント。
植物の季語は、基本的には花が咲いている季節の季語となっています。この句の場合は、「咲けり」と説明しなくてもよいですね。


チューリップ十二本目の告ぐ正論
うからうから
夏井いつき先生より
「告ぐ」が「正論」に掛るのであれば、「告ぐる」と連体形になります。語順をかえて、「正論告ぐ」とすれば、終止形でOKですね。ここでカットを切り替えて、残りの音数で「チューリップ」を描いてみましょう。
「告ぐ」が「正論」に掛るのであれば、「告ぐる」と連体形になります。語順をかえて、「正論告ぐ」とすれば、終止形でOKですね。ここでカットを切り替えて、残りの音数で「チューリップ」を描いてみましょう。


「私の愛信じて」とチューリップ
素人(そじん)
夏井いつき先生より
「少し認知症の妻に、赤いチューリップの花言葉を込めて贈ってみようかな」と作者のコメント。
そのような経緯でしたら、「贈る」という言葉を入れるとよいですね。
添削例
「愛を信じて」とチューリップを贈る
「少し認知症の妻に、赤いチューリップの花言葉を込めて贈ってみようかな」と作者のコメント。
そのような経緯でしたら、「贈る」という言葉を入れるとよいですね。
添削例
「愛を信じて」とチューリップを贈る


私きれい春風を食べてますから
広泉
夏井いつき先生より
「春風を食べると、女性も動物も木や花々もみんな美人になります」と作者のコメント。
「春風を食べてます」は楽しい詩語です。最後の「~から」が、原因や理由を説明する言い方になっているので、「食べてます」で着地できるように音数調整をしてみましょう。
「春風を食べると、女性も動物も木や花々もみんな美人になります」と作者のコメント。
「春風を食べてます」は楽しい詩語です。最後の「~から」が、原因や理由を説明する言い方になっているので、「食べてます」で着地できるように音数調整をしてみましょう。


チューリップ咲いたばかりの花をもぐ
加納ざくろ
夏井いつき先生より
「チューリップ農家に嫁いだばかりのころ、何度か花摘みをしたことがあります。初めは、球根の為とはいえ、まだまだ咲こうとしているのにもったいない、可哀想とも思いましたが、結構な重労働でだんだん心は機械に。『摘む』ではなく『もぐ』で表してみました」と作者のコメント。
この作業は、「チューリップの花捥ぐ」と書けば伝わります。残りの音数で、農作業であることが分かるように、補強してみましょう。
この作業は、「チューリップの花捥ぐ」と書けば伝わります。残りの音数で、農作業であることが分かるように、補強してみましょう。


輸血うけ命に命チューリップ
幸香
夏井いつき先生より
「二年前から血液の難病に罹り、輸血を数え切れないほど頂き、現在まで命を繋がせていただいています。赤いチューリップを見ると、その輸血を思い、形はハート型をしていて沢山の方々の献血に感謝をしたいと思って詠みました」と作者のコメント。
「輸血」と「チューリップ」の取り合わせは、イケそうですね。中七の「命に命」というフレーズは説明の言葉になっているので、ここを一考してみましょう。
「輸血」と「チューリップ」の取り合わせは、イケそうですね。中七の「命に命」というフレーズは説明の言葉になっているので、ここを一考してみましょう。


爛漫の花壇や縁の十薬や
陶瑶
夏井いつき先生より
「初句は『十薬よ』でしたが、『よ』では上五中七の豪華さに季語が負けてしまうと思い、『十薬や』にしました。挑戦です」と作者のコメント。
後半「緑の十薬」は、葉を指しているのでしょうか。それとも、白い蕚の中にある薄緑の紡錘形の花を指しているのでしょうか。そのあたりが、少々曖昧です。「爛漫の花壇」とのバランスも気になります。
後半「緑の十薬」は、葉を指しているのでしょうか。それとも、白い蕚の中にある薄緑の紡錘形の花を指しているのでしょうか。そのあたりが、少々曖昧です。「爛漫の花壇」とのバランスも気になります。

