第53回「火の山公園のチューリップ」《ハシ坊と学ぼう!⑦》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
荒れ庭に埋めし球根の芽立ちかな
詠華
夏井いつき先生より
「お隣でいただいたチューリップの球根が芽を出しました」と作者のコメント。
「球根の芽」を描けば、かつて「埋めし」ことは分かります。むしろ、「お隣」から貰ったものであるという情報のほうが、佳き俳句のタネ! 一考してみましょう。
「お隣でいただいたチューリップの球根が芽を出しました」と作者のコメント。
「球根の芽」を描けば、かつて「埋めし」ことは分かります。むしろ、「お隣」から貰ったものであるという情報のほうが、佳き俳句のタネ! 一考してみましょう。


巌流を見下ろす丘のチューリップ
じゅあ
夏井いつき先生より
「巌流」は、巌流島? 島ならばそのように書いたほうがいいですね。あるいは今だと分かるような描写にするか。


赤花を茶と見ゆ友と春に居り
さえこ
夏井いつき先生より
「色盲で、赤色が茶のようなグレーのような色に見える知人がいます。不便はないと言って笑う友と、色とりどりの花の中を歩いた時、こっそり涙が出ました」と作者のコメント。
「色盲」の一語を入れないと、正確には句意が伝わりにくいかと思います。「赤花を茶と見ゆ」と説明しなくても、それが「友」だと限定しなくても、色盲の目に赤き花は……と書けば、意味は真っ直ぐに伝わります。
「色盲で、赤色が茶のようなグレーのような色に見える知人がいます。不便はないと言って笑う友と、色とりどりの花の中を歩いた時、こっそり涙が出ました」と作者のコメント。
「色盲」の一語を入れないと、正確には句意が伝わりにくいかと思います。「赤花を茶と見ゆ」と説明しなくても、それが「友」だと限定しなくても、色盲の目に赤き花は……と書けば、意味は真っ直ぐに伝わります。


葉桜の根にネモフィラのくすぐるかな
万里の森
夏井いつき先生より
「小林一茶の句にも『ころぶかな』といった表現があり、他にも『はしゃぐかな』などの表現をしている句があり、そういった表現も哉として成立すると知り、はじめは『くすぐったい』としていましたが、哉で表現してみました。ネモフィラが根元でふわふわしている様子を詠みました」と作者のコメント。
一句に二つの植物を入れ込むのは、難しいのですが、そこに挑戦している意欲は称えたいと思います。ただ、この句の内容でしたら、初案の「くすぐったい」という口語表現のほうが、「ネモフィラが根元でふわふわしている様子」として伝わり易いかと。そちらの表現ならば、迷わず人選です。
一句に二つの植物を入れ込むのは、難しいのですが、そこに挑戦している意欲は称えたいと思います。ただ、この句の内容でしたら、初案の「くすぐったい」という口語表現のほうが、「ネモフィラが根元でふわふわしている様子」として伝わり易いかと。そちらの表現ならば、迷わず人選です。


チューリップアールグレーの香と編みて
カムヤ イワヒコ
夏井いつき先生より
「赤色のチューリップが好きで、チューリップを見ながら熱いアールグレーをいただく時は至福の時間。アールグレーは赤いチューリップの遠い親戚のようで、その香りは直ぐ飛散してしまうのが惜しいです。香りをチューリップの赤色と編み込んで、しばらくは自分の周りに留めチューリップをじっくりと観賞したいです」と作者のコメント。
「チューリップ」と「アールグレイ」の取り合わせは、大人の上品さがあってよいですね。「~と編みて」の部分をどう読み解くのか。少々迷いました。作者の意図は、「香りをチューリップの赤色と編み込んで」とのことですが、なかなかその解釈には辿り着きにくいかなあ、と。
「赤色のチューリップが好きで、チューリップを見ながら熱いアールグレーをいただく時は至福の時間。アールグレーは赤いチューリップの遠い親戚のようで、その香りは直ぐ飛散してしまうのが惜しいです。香りをチューリップの赤色と編み込んで、しばらくは自分の周りに留めチューリップをじっくりと観賞したいです」と作者のコメント。
「チューリップ」と「アールグレイ」の取り合わせは、大人の上品さがあってよいですね。「~と編みて」の部分をどう読み解くのか。少々迷いました。作者の意図は、「香りをチューリップの赤色と編み込んで」とのことですが、なかなかその解釈には辿り着きにくいかなあ、と。


ドローンの目で感じてる花の雲
西村ゑな女
夏井いつき先生より
中七の「~で感じてる」が説明の言葉になっています。俳句は描写です。
中七の「~で感じてる」が説明の言葉になっています。俳句は描写です。


さよならと書き置き残し冬の朝
べびぽん
夏井いつき先生より
「書き置き」とは「残す」ものですね。意味の重複を解消してみましょう。


明日引き払う畳に春の夕
髙橋みりぃ
夏井いつき先生より
中七の「に」を一考してみましょう。
中七の「に」を一考してみましょう。


六枚の手紙の輪廻チューリップ
三尺 玉子
夏井いつき先生より
「手紙」と「チューリップ」の取り合わせはよいのですが、「~の輪廻」の部分の句意をつかみかねます。
「手紙」と「チューリップ」の取り合わせはよいのですが、「~の輪廻」の部分の句意をつかみかねます。


季重なり
チューリップ春をこぼして開いてく
水木合歓
夏井いつき先生より
やはり、季重なりは気になります。「春」ではなく、別なものを「こぼして」……と、発想してみて下さい。
やはり、季重なりは気になります。「春」ではなく、別なものを「こぼして」……と、発想してみて下さい。


喧嘩して花回廊の芝桜
牡丹
夏井いつき先生より
「満開の花回廊に行ったのに、意外な成り行きで大喧嘩。うつむいて見ていた芝桜」と作者のコメント。
「喧嘩」したことと「芝桜」の取り合わせは、イケそうです。ただ「花回廊の」が説明っぽい中七になっています。中七を描写の言葉に変えましょう。
「満開の花回廊に行ったのに、意外な成り行きで大喧嘩。うつむいて見ていた芝桜」と作者のコメント。
「喧嘩」したことと「芝桜」の取り合わせは、イケそうです。ただ「花回廊の」が説明っぽい中七になっています。中七を描写の言葉に変えましょう。


山茶花に目白爽爽忌日かな
音羽ナイル
夏井いつき先生より
「句意は現世と常世を表現しています。『婆婆の庭の(1本の)山茶花に(なんと)メジロが2羽いる』『おかんがおとうを連れて、やって来た』『婆婆が命日終えて(冥土に)戻り今度は自分達の番(命日)と様子を見に来たんだ。ちょっと早いけどな』死後の世界を考えているのは現世の人間だなと思いました。『目白爽爽(メジロさわさわ)』と読みます。ちなみにこの庭には、チューリップの球根をたくさん植えました」と作者のコメント。
「山茶花」も「目白」も季語ではありますが、その二つを入れることが必要なのだと理解しました。この場合、下五の「かな」は効いていません。むしろ、体言止めにすべきかと。「目白爽爽たる忌日」
「句意は現世と常世を表現しています。『婆婆の庭の(1本の)山茶花に(なんと)メジロが2羽いる』『おかんがおとうを連れて、やって来た』『婆婆が命日終えて(冥土に)戻り今度は自分達の番(命日)と様子を見に来たんだ。ちょっと早いけどな』死後の世界を考えているのは現世の人間だなと思いました。『目白爽爽(メジロさわさわ)』と読みます。ちなみにこの庭には、チューリップの球根をたくさん植えました」と作者のコメント。
「山茶花」も「目白」も季語ではありますが、その二つを入れることが必要なのだと理解しました。この場合、下五の「かな」は効いていません。むしろ、体言止めにすべきかと。「目白爽爽たる忌日」


背きあふ椅子の近くて桃の花
石田将仁
夏井いつき先生より
「見ず知らずの者どうしが、桃の花をはさんで微妙な距離を保って坐っています。府立植物園は句材の宝庫です」と作者のコメント。
作者コメントの内容に対して、俳句の言葉との間に多少の隙間がありそうです。上五「背きあふ」という措辞を一考してみましょう。人選は目の前です。
「見ず知らずの者どうしが、桃の花をはさんで微妙な距離を保って坐っています。府立植物園は句材の宝庫です」と作者のコメント。
作者コメントの内容に対して、俳句の言葉との間に多少の隙間がありそうです。上五「背きあふ」という措辞を一考してみましょう。人選は目の前です。


透き通る青空の下紫木蓮
はなもも
夏井いつき先生より
「透き通る青空」とあり「紫木蓮」とあれば、「~の下」であることは言わずもがなですね。
「透き通る青空」とあり「紫木蓮」とあれば、「~の下」であることは言わずもがなですね。


恩師との思い出数多チューリップ
スマイリィ
夏井いつき先生より
「お世話になった先生が、町を去る事になりました。在園中の息子が、『どうしても先生にチューリップをあげたい』と言うので、チューリップを買い求めました。チューリップが咲く頃に出会い、別れの時もまた。畑に列なすチューリップも、心なしか淋しそうに揺れて居るように見え、沢山の思い出がよみがえりました」と作者のコメント。
「お世話になった先生が、町を去る事になりました。在園中の息子が、『どうしても先生にチューリップをあげたい』と言うので、チューリップを買い求めました。チューリップが咲く頃に出会い、別れの時もまた。畑に列なすチューリップも、心なしか淋しそうに揺れて居るように見え、沢山の思い出がよみがえりました」と作者のコメント。
幼稚園の先生ということですから、「恩師」という言葉は少し硬いかな。「恩師との思い出数多」は中高生以上を想像させます。「想い出数多」も大雑把な書き方。むしろ、先生との「さよなら」の場面なのだと分かるように書いたほうが、季語「チューリップ」も生きてきます。例えば、息子さんの言葉「チューリップをあげたい」をそのまま使ってみるのも一手です。
添削例
チューリップあげたい先生へ「さよなら」


店先のドミノ倒しのチューリップ
かよいみち
夏井いつき先生より
「時々通る道の花屋さん。通り道まではみ出して花を並べるので前から快く思っていなかったのですが、粉雪舞う寒風の中、春の花チューリップを出しているのを見て腹が立ってなりませんでした。しかし自分の感情を入れると、十七音に入らないし、夏井先生はいつも俳句は描写だと仰っているので、見たまま書きました。でも『雪』とか『寒風』を入れた方がよかったでしょうか? 季重なりになるからこのままでいいですか?」と作者のコメント。
「粉雪舞う寒風の中、春の花チューリップを出しているのを見て腹が立ってなりませんでした」という状況や感情を全て書き込むには、俳句という十七音の短詩は向いていません。(これらを全部書きたいのなら、短歌という表現方法を選べば、なんとかなるかもしれません)俳句は描写。そこに徹底することで、書いてない状況や感情まで読者の脳内に再生させる。そこが、醍醐味でもあります。
この句、「店先」という場所、「ドミノ倒し」という状況、「チューリップ」という季語。必要な情報は入ってますね。なぜチューリップが「ドミノ倒し」になったのか。その理由は、読者が想像するしかありませんが、そこもまた「読み解く」ことの面白さであったりします。最後のブラッシュアップとして、上五を「店先や」と切れを入れてみるのも一手です。これなら、堂々と人選です。
「粉雪舞う寒風の中、春の花チューリップを出しているのを見て腹が立ってなりませんでした」という状況や感情を全て書き込むには、俳句という十七音の短詩は向いていません。(これらを全部書きたいのなら、短歌という表現方法を選べば、なんとかなるかもしれません)俳句は描写。そこに徹底することで、書いてない状況や感情まで読者の脳内に再生させる。そこが、醍醐味でもあります。
この句、「店先」という場所、「ドミノ倒し」という状況、「チューリップ」という季語。必要な情報は入ってますね。なぜチューリップが「ドミノ倒し」になったのか。その理由は、読者が想像するしかありませんが、そこもまた「読み解く」ことの面白さであったりします。最後のブラッシュアップとして、上五を「店先や」と切れを入れてみるのも一手です。これなら、堂々と人選です。


鷺草咲いて「清らか」といふ言葉
成実
夏井いつき先生より
「鷺草の咲き」とすれば、人選です。調べが整います。


鷺草と吾に夫加はりてなほしづか
成実
夏井いつき先生より
音数の調整をすれば、人選は目の前。「加はりて」か「なほ」か、どちらかを外して、音数を整えて下さい。どちらのニュアンスも、助詞を工夫すれば十分に表現できます。
音数の調整をすれば、人選は目の前。「加はりて」か「なほ」か、どちらかを外して、音数を整えて下さい。どちらのニュアンスも、助詞を工夫すれば十分に表現できます。

