第53回「火の山公園のチューリップ」《ハシ坊と学ぼう!⑧》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
驢馬や草を食むチューリップの丘
希子
夏井いつき先生より
句材は良いのですが、自立語が季語を含んで五つあります。言葉を一つ減らすと、調べがなだらかになるのですが……。
句材は良いのですが、自立語が季語を含んで五つあります。言葉を一つ減らすと、調べがなだらかになるのですが……。


チューリップ老ひて恐ろしきは花弁
ただ地蔵
夏井いつき先生より
「老いる」を文語にすると「老ゆ」となります。ヤ行の動詞なので、「老ひ」とはなりません。助詞「て」に接続する場合は、「老いて」ですね。仮名遣いを直せば、人選です。


脳圧の凛凛しけりチューリップ
加賀屋斗的
夏井いつき先生より
形容詞「凛々し」が「けり」に接続するときは、「凛々しかりけり」となるのが基本。そうなると、音数があふれますね。さて、どうする?
形容詞「凛々し」が「けり」に接続するときは、「凛々しかりけり」となるのが基本。そうなると、音数があふれますね。さて、どうする?


でで虫や吾子の鼻先那が庵
丸山和泉
夏井いつき先生より
「息子二人が、しゃがんでこちらを見ていたので、近くに寄ってみると、二人共鼻の頭に大きなでんでん虫をつけていました。ギョッとしました」と作者のコメント。
下五「那が庵」はどういう意味でしょう?
下五「那が庵」はどういう意味でしょう?


背中より落葉踏む音空青し
滝川橋
夏井いつき先生より
「冬の暖かい日に雑木林を歩いていると、落ち葉を踏む音だけがきこえます。後から誰か来るようです。木々は裸になり、枝々から青い空が気持ちよく見える日なのです」と作者のコメント。
「背中」の一語を一考してみましょう。
「冬の暖かい日に雑木林を歩いていると、落ち葉を踏む音だけがきこえます。後から誰か来るようです。木々は裸になり、枝々から青い空が気持ちよく見える日なのです」と作者のコメント。
「背中」の一語を一考してみましょう。


虎が雨明日刈り払うネモフィラの丘
ふたば葵
夏井いつき先生より
「あるネモフィラの観光地では、花が終わるとすぐに刈り取ってコキアの苗を植えるそうです。ネモフィラが季語になるかはっきりしなかったので『虎が雨』にしました。一応十七音に収めようといろいろ考えましたが……」と作者のコメント。
お手持ちの歳時記に載ってなかったとしても、ネモフィラは季節感を共有できる植物です。これを季語として使いたい! という意志をもって、使ってみることをおススメします。少なくとも、「虎が雨」というマニアックな季語は、使いこなすのも難しいですし、せっかくの「ネモフィラの丘」の光景を削いでしまいます。
「あるネモフィラの観光地では、花が終わるとすぐに刈り取ってコキアの苗を植えるそうです。ネモフィラが季語になるかはっきりしなかったので『虎が雨』にしました。一応十七音に収めようといろいろ考えましたが……」と作者のコメント。
お手持ちの歳時記に載ってなかったとしても、ネモフィラは季節感を共有できる植物です。これを季語として使いたい! という意志をもって、使ってみることをおススメします。少なくとも、「虎が雨」というマニアックな季語は、使いこなすのも難しいですし、せっかくの「ネモフィラの丘」の光景を削いでしまいます。


抗がん剤のごと燃ゆる鬱金香
光太郎
夏井いつき先生より
語順を替えてみましょうか。
添削例
鬱金香抗がん剤のごと燃ゆる
語順を替えてみましょうか。
添削例
鬱金香抗がん剤のごと燃ゆる


春まけて球根たちは目覚めをり
星瞳花
夏井いつき先生より
「秋に植え、約半年も土の中で眠っていた球根もやっと目覚めの時が来て、一斉に咲きだす映像を詠みました。季語の『春まけて』を見つけ、ピッタリだと思い先ず上五に使いました。また下五の目覚めの後の『かな』『をり』『なり』と悩みましたが、そこにいる、存在する、という意味で『をり』にしましたが、とても難しいです」と作者のコメント。
「春まけて」というマニアックな季語に取り合わせるフレーズとして、「球根たちは目覚めをり」という書き方もありはしますが、ありがちなフレーズでもあります。例えば「球根の目覚め」と短くし、節約できた音数で何ができるか。そこを探ってみると、新しい展開がつかめそうです。
「春まけて」というマニアックな季語に取り合わせるフレーズとして、「球根たちは目覚めをり」という書き方もありはしますが、ありがちなフレーズでもあります。例えば「球根の目覚め」と短くし、節約できた音数で何ができるか。そこを探ってみると、新しい展開がつかめそうです。


狼煙場は時空や渦は囀か
曽根朋朗
夏井いつき先生より
「脳内散歩の句です。現実にあるのは火の山公園と囀りです。狼煙場は過去に消え、大きな煙の渦のように感じるのは囀りなのだ、というような意味のつもりです」と作者のコメント。
今回、現在と過去を一句の中に入れる表現に挑んだ句が、幾つかありました。それもこれも、兼題写真からの発想なのでしょう。後半の「渦は囀」という感覚はとてもよいと思います。が、作者コメントにある「狼煙場は過去に消え、大きな煙の渦の様に感じるのは囀りなのだ」という解釈には、なかなか辿り着きにくい。過去を表現する言葉として「狼煙場は時空や」が説明的になっているから……かもしれません。焦らずに、ゆっくりじっくり、俳筋力をしっかりと身に着けつつ、いつかまた挑戦してみましょう。
「脳内散歩の句です。現実にあるのは火の山公園と囀りです。狼煙場は過去に消え、大きな煙の渦のように感じるのは囀りなのだ、というような意味のつもりです」と作者のコメント。
今回、現在と過去を一句の中に入れる表現に挑んだ句が、幾つかありました。それもこれも、兼題写真からの発想なのでしょう。後半の「渦は囀」という感覚はとてもよいと思います。が、作者コメントにある「狼煙場は過去に消え、大きな煙の渦の様に感じるのは囀りなのだ」という解釈には、なかなか辿り着きにくい。過去を表現する言葉として「狼煙場は時空や」が説明的になっているから……かもしれません。焦らずに、ゆっくりじっくり、俳筋力をしっかりと身に着けつつ、いつかまた挑戦してみましょう。


幾万のチューリップ古戦場に緋
あおい結月
夏井いつき先生より
「源平合戦や幕末の攘夷戦など、壇ノ浦古戦場での過去と現在の緋色を詠みました」と作者のコメント。
たった十七音の俳句で、過去と現在を重ねるというのは、なかなかにハードルの高いミッション。「古戦場」という言葉がベストかどうかも含めて、一考してみましょう。
「源平合戦や幕末の攘夷戦など、壇ノ浦古戦場での過去と現在の緋色を詠みました」と作者のコメント。
たった十七音の俳句で、過去と現在を重ねるというのは、なかなかにハードルの高いミッション。「古戦場」という言葉がベストかどうかも含めて、一考してみましょう。


冬うららヒヤシンスの根真珠色
一寸雄町
夏井いつき先生より
「ヒヤシンスの水耕栽培です。初めて新型コロナに罹ってしまいました。部屋から出られなくて、時間ができて俳句に向き合っています」と作者のコメント。
「ヒヤシンスの根」に対する色の感覚はよいですね。上五の季語「冬うらら」が、いかにもちょいと取り合わせた感覚。季語こそが主役になるべきだと、私は考えております。
「ヒヤシンスの水耕栽培です。初めて新型コロナに罹ってしまいました。部屋から出られなくて、時間ができて俳句に向き合っています」と作者のコメント。
「ヒヤシンスの根」に対する色の感覚はよいですね。上五の季語「冬うらら」が、いかにもちょいと取り合わせた感覚。季語こそが主役になるべきだと、私は考えております。


ターザンの子らや海峡風光る
骨のほーの
夏井いつき先生より
「高台の公園、ターザンロープで遊ぶ子供達。眼下には海が光っている様子を詠みました。明るい未来であってほしいです」と作者のコメント。
「ターザンロープ」ならば、それだと分かるように書かなくてはいけません。ここからの工夫こそが、勝負どころですよ。
「高台の公園、ターザンロープで遊ぶ子供達。眼下には海が光っている様子を詠みました。明るい未来であってほしいです」と作者のコメント。
「ターザンロープ」ならば、それだと分かるように書かなくてはいけません。ここからの工夫こそが、勝負どころですよ。


とろりと偲ぶチューリップのリハビリ
鰯山陽大
夏井いつき先生より
「この『リハビリ』を光景として受け取るか、心の『リハビリ』と受け取るかで読みがわかれてしまうタイプの俳句ですが、なにかを治すために花を見て、なにかを偲ぶ。その時間はさらさらとは流れてはくれなくて、粘り気を帯びたものである気がします」と作者のコメント。
「読みがわかれてしまうタイプの俳句」という考え方に甘えないで、肝心のそこを伝えるための表現に挑んで下さい。
「なにかを治すために花を見て、なにかを偲ぶ。その時間はさらさらとは流れてくれなくて、粘り気を帯びたものである気がします」この気づきこそを、あなたの作品として結球させて下さい。それが表現というものです。
「この『リハビリ』を光景として受け取るか、心の『リハビリ』と受け取るかで読みがわかれてしまうタイプの俳句ですが、なにかを治すために花を見て、なにかを偲ぶ。その時間はさらさらとは流れてはくれなくて、粘り気を帯びたものである気がします」と作者のコメント。
「読みがわかれてしまうタイプの俳句」という考え方に甘えないで、肝心のそこを伝えるための表現に挑んで下さい。
「なにかを治すために花を見て、なにかを偲ぶ。その時間はさらさらとは流れてくれなくて、粘り気を帯びたものである気がします」この気づきこそを、あなたの作品として結球させて下さい。それが表現というものです。


子の扉今朝も開かぬチューリップ
三日月 星子
夏井いつき先生より
「閉じこもりの息子の心も部屋の扉も開かない。まだかまだかと開花を待つ庭のチューリップも今朝も開いていない。切ない想いを詠みました」と作者のコメント。
日々の切なさを、ちぎって一句一句にしていくことは、セルフカウンセリングでもあります。日々の記録だと考えて、一日一日の出来事を俳句として結球させて下さい。中七「今朝も」と書きたい気持ちは分かりますが、この「子の扉」が物理的なドアではなく、心の扉でもあることを書いたほうが、読み手にストレートに伝わります。推敲してみましょう。
「閉じこもりの息子の心も部屋の扉も開かない。まだかまだかと開花を待つ庭のチューリップも今朝も開いていない。切ない想いを詠みました」と作者のコメント。
日々の切なさを、ちぎって一句一句にしていくことは、セルフカウンセリングでもあります。日々の記録だと考えて、一日一日の出来事を俳句として結球させて下さい。中七「今朝も」と書きたい気持ちは分かりますが、この「子の扉」が物理的なドアではなく、心の扉でもあることを書いたほうが、読み手にストレートに伝わります。推敲してみましょう。


メッセージ書く憂鬱や春隣
堂園 穂世
夏井いつき先生より
上五中七のフレーズを良しとした時に、下五の季語はさまざまに動きます。「春隣」は、すぐそこに春が来ているという冬の季語なのですが、これが作者の伝えたいことを描いているのかどうか。読み手として、迷います。
上五中七のフレーズを良しとした時に、下五の季語はさまざまに動きます。「春隣」は、すぐそこに春が来ているという冬の季語なのですが、これが作者の伝えたいことを描いているのかどうか。読み手として、迷います。


花時や歩数測りて世界旅行
ちえのわ
夏井いつき先生より
「歩数計測であちこち行けそうな気がします」と作者のコメント。
「歩数計測であちこち行けそうな気がします」と作者のコメント。
中七下五の句意をどう捉えればよいのか、迷いました。「あちこち行けそうな」という作者の意図まで、たどり着けなかったというか……。


チューリップ前に習えのできない子
いたっくうらら
夏井いつき先生より
「前へ」とすれば、人選です。


壇ノ浦の平家滅亡春の海
シナモンティー
夏井いつき先生より
「火の山公園は壇ノ浦に近いところなので、平家で俳句を詠んでみました」と作者のコメント。
「壇ノ浦」=「海」ですから、下五の季語は一考の余地があります。
「壇ノ浦」=「海」ですから、下五の季語は一考の余地があります。


隕石の記憶地を這う原種チューリップ
海月のあさ
夏井いつき先生より
「上五を字余りにして中七下五でリズムを整える、に挑戦しました。隕石を調べると地球の成り立ちや恐竜の絶滅の原因など色々な事がわかるのだそうです。原種チューリップは親指の半分程の大きさで、葉は地面を這うように咲きます。可愛いというよりちょっとグロテスクな雰囲気もあり、恐竜の時代にも存在していたのでは、と思えるような雰囲気です。私の中では隕石と原種チューリップが響き合うのでは、と思うのですがどうでしょうか?」と作者のコメント。
「隕石と原種チューリップが響き合う」には、大いに共感します。が、「~の記憶」という観念と、「地を這う」という擬人化は少々しつこい印象。全体のバランスを再考してみましょう。
「上五を字余りにして中七下五でリズムを整える、に挑戦しました。隕石を調べると地球の成り立ちや恐竜の絶滅の原因など色々な事がわかるのだそうです。原種チューリップは親指の半分程の大きさで、葉は地面を這うように咲きます。可愛いというよりちょっとグロテスクな雰囲気もあり、恐竜の時代にも存在していたのでは、と思えるような雰囲気です。私の中では隕石と原種チューリップが響き合うのでは、と思うのですがどうでしょうか?」と作者のコメント。
「隕石と原種チューリップが響き合う」には、大いに共感します。が、「~の記憶」という観念と、「地を這う」という擬人化は少々しつこい印象。全体のバランスを再考してみましょう。

