第53回「火の山公園のチューリップ」《ハシ坊と学ぼう!⑨》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
チューリップとチューリップとが軋む畦
湧翠
夏井いつき先生より
「本当はチューリップの怖いところを詠みたかったのですが、俳筋力不足で断念しました。提出句は全くの創作です。チューリップの独特な肌触りを詠んだつもりです。並んで咲くチューリップが風で揺れてぶつかって、キュッと音を発している様子です」と作者のコメント。
「チューリップの怖いところを詠みたかった」という気持ちもあきらめず、是非挑戦し続けて下さい。そのためにも、上質な俳句の筋肉を身に付けていきましょうね。この句も、前述の感覚の一端があります。「並んで咲くチューリップが風で揺れてぶつかって、キュッと音を発している様子」を表現したいとのことですから、「畦」と画角を広げる必要はありません。もう一押し、推敲してみましょう。
「本当はチューリップの怖いところを詠みたかったのですが、俳筋力不足で断念しました。提出句は全くの創作です。チューリップの独特な肌触りを詠んだつもりです。並んで咲くチューリップが風で揺れてぶつかって、キュッと音を発している様子です」と作者のコメント。
「チューリップの怖いところを詠みたかった」という気持ちもあきらめず、是非挑戦し続けて下さい。そのためにも、上質な俳句の筋肉を身に付けていきましょうね。この句も、前述の感覚の一端があります。「並んで咲くチューリップが風で揺れてぶつかって、キュッと音を発している様子」を表現したいとのことですから、「畦」と画角を広げる必要はありません。もう一押し、推敲してみましょう。


チューリップの群生神童の孤影
伊沢華純
夏井いつき先生より
「チューリップ」と「神童」の取り合わせはよいですね。「~の孤影」が少し言い過ぎ。「神童」という言葉の中に、そのようなイメージも入っているかと。そのあたりを一考してみましょう。


初蝶がひらりひらりと吾子の肩
ゆき
夏井いつき先生より
「実母がなくなったとき、なぜか1匹の蝶が娘の肩のまわりを飛んで離れませんでした」と作者のコメント。
「初蝶」に対して「ひらりひらり」は書かなくても、想像のできる動きです。むしろ、お母さんが亡くなったという情報を入れられたら、追悼句にもなりますね。挑戦してみましょう。
「実母がなくなったとき、なぜか1匹の蝶が娘の肩のまわりを飛んで離れませんでした」と作者のコメント。
「初蝶」に対して「ひらりひらり」は書かなくても、想像のできる動きです。むしろ、お母さんが亡くなったという情報を入れられたら、追悼句にもなりますね。挑戦してみましょう。


早春の土のにほいを遊ぶねこ
すずきあんず
夏井いつき先生より
「にほい」は、「匂い」の意ですね? 歴史的仮名遣いで書くと、「にほひ」となります。歴史的仮名遣いを使いたい場合は、辞書での確認を習慣づけましょう。仮名遣いを改めれば、人選です。


鬼は外声乗り去れよ邪心の根
咲織
夏井いつき先生より
「鬼は外」は、「豆撒」の傍題ですが、残りのフレーズは、この季語を説明した言葉になっています。俳句は、説明ではなく描写。どんな映像がそこにあるのか。描写してみましょう。
「鬼は外」は、「豆撒」の傍題ですが、残りのフレーズは、この季語を説明した言葉になっています。俳句は、説明ではなく描写。どんな映像がそこにあるのか。描写してみましょう。


壇ノ浦へ蝶つぎつぎと追ふてをり
わかめ
夏井いつき先生より
下五の動詞「追ふ」が、助詞「て」に接続するときは、連用形になるので「追ひて」ですね。(音便を発生させる場合もあります)
下五の動詞「追ふ」が、助詞「て」に接続するときは、連用形になるので「追ひて」ですね。(音便を発生させる場合もあります)


炎なり鬱金香の群れ空炙る
灯呂
夏井いつき先生より
「『空を炙る』とするか悩みました……」と作者のコメント。
幻想的な句です。「炎」と「炙る」が離れた位置にあるのは、この句の場合は損です。
添削例
空炙る焔や鬱金香の群
「『空を炙る』とするか悩みました……」と作者のコメント。
幻想的な句です。「炎」と「炙る」が離れた位置にあるのは、この句の場合は損です。
添削例
空炙る焔や鬱金香の群


咲く時を想ひて植えるチューリップ
槇 まこと
夏井いつき先生より
「植える」となれば、季節そのものが変わってきますね。「球根植う」という季語もありますので、再考してみましょう。この季語の中には「咲く時を想ひて」という気持ちは、すべてにパッキングされています。


みもすその流れに澱む桜蕊
風蘭
夏井いつき先生より
「『みもすそ川』は火の山を源流とした小川です。名前の由来は諸説あるようですが、河口(赤間灘)に、安徳天皇を抱いて身を投じた二位ノ尼の辞世の句にあると言われています。その後を追って何人も入水したと……」と作者のコメント。
「桜蘂降る」と書いて、これが季語になります。「~に澱む」の部分を再考してみましょう。
「『みもすそ川』は火の山を源流とした小川です。名前の由来は諸説あるようですが、河口(赤間灘)に、安徳天皇を抱いて身を投じた二位ノ尼の辞世の句にあると言われています。その後を追って何人も入水したと……」と作者のコメント。
「桜蘂降る」と書いて、これが季語になります。「~に澱む」の部分を再考してみましょう。


火の山や「お山焼けた!」と春の峰
猫雪すあま
夏井いつき先生より
「俳句イヤイヤ反抗期継続中です!(笑)」と作者のコメント。
「火の山」「お山」「峰」と情報が重なっています。この三つの中で、どれが一番書きたい言葉か。それを考えるところから、推敲が始まります。
(追伸)
「俳句イヤイヤ期」は、エネルギー充填期間ですから、焦ることはありません。ゆっくりたっぷり充電して下さい。
「俳句イヤイヤ反抗期継続中です!(笑)」と作者のコメント。
「火の山」「お山」「峰」と情報が重なっています。この三つの中で、どれが一番書きたい言葉か。それを考えるところから、推敲が始まります。
(追伸)
「俳句イヤイヤ期」は、エネルギー充填期間ですから、焦ることはありません。ゆっくりたっぷり充電して下さい。


凡俗は蛹便に溶け蝶生まる
俊恵ほぼ爺
夏井いつき先生より
「地を這い食べる事に貪欲な生き物が、空を自由に舞う美しい生き物へと変貌する。 幼虫はその身体と心に染み付いた全ての汚れを蛹便に吐き出し、悟りを開くかのように蛹から蝶になる」と作者のコメント。
お気持ちは分かるのですが、少々観念的です。俳句というよりは、有難い法話のような……。
「地を這い食べる事に貪欲な生き物が、空を自由に舞う美しい生き物へと変貌する。 幼虫はその身体と心に染み付いた全ての汚れを蛹便に吐き出し、悟りを開くかのように蛹から蝶になる」と作者のコメント。
お気持ちは分かるのですが、少々観念的です。俳句というよりは、有難い法話のような……。


漲れる水塊抱けり鬱金香
仁
夏井いつき先生より
「チューリップの花びらの中に、表面張力で丸く盛り上がった水塊。『塊』と『魂』は漢字が似ています」と作者のコメント。
目の付け所はとてもよいと思います。ただ、「水塊」という言葉は引っ掛かります。「水塊」とは、デジタル大辞泉には「海洋中の、水温・塩分・水色・透明度・プランクトン分布などが比較的一様な海水のかたまり」と解説がありました。比喩としての「水塊」だとしても、性質や大きさの印象がそぐわないのではないかと。せっかくの観察眼から生まれた句想ですから、なんとか佳き作品に練っていきたいものです。
「チューリップの花びらの中に、表面張力で丸く盛り上がった水塊。『塊』と『魂』は漢字が似ています」と作者のコメント。
目の付け所はとてもよいと思います。ただ、「水塊」という言葉は引っ掛かります。「水塊」とは、デジタル大辞泉には「海洋中の、水温・塩分・水色・透明度・プランクトン分布などが比較的一様な海水のかたまり」と解説がありました。比喩としての「水塊」だとしても、性質や大きさの印象がそぐわないのではないかと。せっかくの観察眼から生まれた句想ですから、なんとか佳き作品に練っていきたいものです。


チューリップアルプスを背に五万本
三宅 光風
夏井いつき先生より
「何年か前に行った安曇野公園に、チューリップが延々と咲いていました。アルプスをバックにとてもきれいでした」と作者のコメント。
語順を少し変えると、調べも表記の印象も落ち着きます。
添削例
アルプスを背にチューリップ五万本
「何年か前に行った安曇野公園に、チューリップが延々と咲いていました。アルプスをバックにとてもきれいでした」と作者のコメント。
語順を少し変えると、調べも表記の印象も落ち着きます。
添削例
アルプスを背にチューリップ五万本


霜焼けの耳痛痒しピアス外す
錆鉄こじゃみ
夏井いつき先生より
語順を逆にすれば、因果関係の印象を多少薄めることができます。
添削例
ピアス外す霜焼けの耳痛痒し
語順を逆にすれば、因果関係の印象を多少薄めることができます。
添削例
ピアス外す霜焼けの耳痛痒し


火の山や二万五千のつつじ群れ
望月円
夏井いつき先生より
「しばらくお休みをしていました。又 投句をさせていただきます」と作者のコメント。
無理のないように続けていくことが肝要です。俳句の神様は逃げませんから、安心して下さいね。
さて、この句。「火の山」は比喩でしょうか。火の山公園の意? 「二万五千」という数詞は効果がありますが、そうなると「群れ」はなくてもよいでしょう。全体を一考してみましょう。
「しばらくお休みをしていました。又 投句をさせていただきます」と作者のコメント。
無理のないように続けていくことが肝要です。俳句の神様は逃げませんから、安心して下さいね。
さて、この句。「火の山」は比喩でしょうか。火の山公園の意? 「二万五千」という数詞は効果がありますが、そうなると「群れ」はなくてもよいでしょう。全体を一考してみましょう。


チューリップ侏儒探した学級園
沢山葵
夏井いつき先生より
「侏儒(しゅじゅ)」は二音の言葉ですから、中七が六音になっています。下五「学級園(がっきゅうえん)」が六音だから、中七下五足して十二音、という配慮なのかと推測はしますが、「学級園」はリズムのある言葉なので、下五に字余りでおいても余り気になりません。むしろ、中七の字足らずの方が、悪目立ちします。中七に一音足してみましょう。
「侏儒(しゅじゅ)」は二音の言葉ですから、中七が六音になっています。下五「学級園(がっきゅうえん)」が六音だから、中七下五足して十二音、という配慮なのかと推測はしますが、「学級園」はリズムのある言葉なので、下五に字余りでおいても余り気になりません。むしろ、中七の字足らずの方が、悪目立ちします。中七に一音足してみましょう。


チューリップ「ド」の鳴らぬリコーダー
沢山葵
夏井いつき先生より
中七下五の音数を調整しましょう。
中七下五の音数を調整しましょう。


バスひとつ見送ろうかな春うさぎ
おりざ
夏井いつき先生より
「春うさぎというチューリップの品種があるそうです。なんだか帰りたくない気分にぴったりの白い花でした」と作者のコメント。
「春うさぎというチューリップの品種があるそうです。なんだか帰りたくない気分にぴったりの白い花でした」と作者のコメント。
カワイイ名前だし、それを書きたいお気持も十分わかるのですが、「春うさぎ=チューリップ」という知識が、どのぐらいの人たちに共有されるか。そこが、問題になってくるタイプの句です。〈バスひとつ見送ろうかなチューリップ〉でも、作品としては十分に成立します。


めちゃくちゃに泣きたい日でもチューリップ
緑萌
夏井いつき先生より
中七「でも」が散文的な書き方。この二音だけ再考しましょう。


河豚は膨れて空っぽは神話めく
久蔵久蔵
夏井いつき先生より
やろうとしていることは、面白いと思います。「空っぽ」は、河豚の内側のこと? 「河豚は」とあり、「空っぽは」とあるので、並列で二つのものがあるのかと読めます。そのあたりの謎をもう少し分かりやすく書きたいところです。


長ずるや見えぬものあり鬱金香
美輝
夏井いつき先生より
「幼い頃は花と言えばチューリップで、クレヨンのお絵かきはたいてい花弁3枚のチューリップでした。でも最近は四季の花々を見る暇さえ失っており、梅や桜、菜の花さえ目にせず過ごしてしまうことも多くなりました。チューリップに至っては『本物を見たのいつだっけ?』という有様です。成長して知識は増えても、反比例するかのように齢を重ねるにつれ、見えなくなるものも増えるような気がしています」と作者のコメント。
上五「長ずるや」の「や」の切字で強く切れ、中七「~あり」の終止形で切れる、三段切れになっています。どこか一か所繋ぐと、問題は解消します。とはいえ、上五中七が少々観念的。俳句は、たった十七音しかないので、映像を描写することに適しています。
「幼い頃は花と言えばチューリップで、クレヨンのお絵かきはたいてい花弁3枚のチューリップでした。でも最近は四季の花々を見る暇さえ失っており、梅や桜、菜の花さえ目にせず過ごしてしまうことも多くなりました。チューリップに至っては『本物を見たのいつだっけ?』という有様です。成長して知識は増えても、反比例するかのように齢を重ねるにつれ、見えなくなるものも増えるような気がしています」と作者のコメント。
上五「長ずるや」の「や」の切字で強く切れ、中七「~あり」の終止形で切れる、三段切れになっています。どこか一か所繋ぐと、問題は解消します。とはいえ、上五中七が少々観念的。俳句は、たった十七音しかないので、映像を描写することに適しています。

