写真de俳句の結果発表

第53回「火の山公園のチューリップ」《ハシ坊と学ぼう!⑪》

ハシ坊

第53回のお題「火の山公園のチューリップ」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

咲き揃う一家離散のチューリップ

峠の泉

夏井いつき先生より
「この句では意味不明でしょうか? 訳あって一家離散するとなった日に、ひとり黙ってチューリップを植えました。初めは〈我植えしチューリップ一家離散の日〉としましたが、それでは晩秋の句になると思い、咲き揃った句にしました。一家が揃って欲しかった、という願いを込めました」と作者のコメント。

なるほど、そういう思いを表現したいのですね。「一家離散のチューリップ」と書くと、チューリップの擬人化かと読まれますので、ここは意味として切り離してみましょう。上五に字余りで「一家離散」と状況を書いて、中七下五で「チューリップ」を描写してみましょう。例えば……

添削例
一家離散チューリップのみ咲き揃う
“ポイント”

球根の満る日待ちて日向ぼこ

春野あかね

夏井いつき先生より
「チューリップと言わずにチューリップを表現する事を考えていましたが、なかなか難しいです」と作者のコメント。

「チューリップと言わずにチューリップを表現する」という意図をもって作句に挑むのも、負荷をかけた俳筋力のトレーニングです。中七の送り仮名は「満ちる」にしたほうが良いですね。更に、後半の「~待ちて日向ぼこ」は人物の思いの表現。初志貫徹を図るのであれば、球根そのものに焦点を当てて、チューリップと言わずにチューリップを表現するミッションに取り組んでみて下さい。
“ポイント”

魁は白き辛夷や信濃路は

浜千鳥

夏井いつき先生より
2024年の〈桃桜菜の花咲きて信濃春〉という季語だらけの句に、ハシ坊を頂きました。信濃の華やかな春を表現したかったのですが、力足らず、今年また挑戦してみました」と作者のコメント。

時間をおいて、再度その句材に挑む。このインターバルはとても良いですね。その期間に身に付いた俳筋力を自分で実感できます。そして、この推敲句。ずいぶんと良い俳筋力がついてきてますね。あとは語順の微調整のみです。

添削例
白き辛夷よ信濃路の魁は
“ポイント”

児童書のデュマ読み返す春炬燵

久木しん子

夏井いつき先生より
「チューリップのことを調べていくうちに、子供のころ夢中になり読んだデュマの『黒いチューリップ』が思い出されて、古書で購入し読み返しています」と作者のコメント。

「児童書の」とぼんやり括るよりは、「デュマの黒いチューリップ」という素材を使うほうが印象的です。そうなると、「春炬燵」で読みました……ではない、別の展開を考える必要がありますが。
“ポイント”

昼下がり花軸の残るチューリップ

さち緖

夏井いつき先生より
上五が漠然として勿体ないです。「○○○○や花軸残るチューリップ」として、上五の変化球を一工夫してみましょう。人選は目の前です。
“ポイント”

ブラキオサウルスは険し鬱金香は眩し

朝日千瑛

夏井いつき先生より
「花瓶のチューリップは2~3日経つと、茎がビローンと伸びます。まるでブラキオサウルスが首を伸ばして頭を振り回しているみたい。恐竜とチューリップを対比したいと思いました」と作者のコメント。

取り合わせは意欲的です。ただ、全体の調べが非常にギクシャクしているのが勿体ない。何か佳き工夫が欲しいところです。面白い句になりそうな句材。
“ポイント”

海峡の凪て花曇りの丘よ

ひーちゃんひーちゃん

夏井いつき先生より
「凪(なぎ)」を動詞として使いたい場合は、「凪ぐ」なので「凪ぎて」とするべき。ここを直せば、人選です。
“参った”

摘草の親子の影や畑に落つ

水越千里

夏井いつき先生より
「植物は苦手です。兼題写真の中の植物はチューリップ以外は知らないので、『ぶらんこ』『踏青』『野遊び』など外の景の句をいろいろ考えましたが、この句が一番できがいいと判断しました」と作者のコメント。

「摘草の親子の影や」までは、きっちりと映像が描けてますね。気になるのは下五。「畑に落つ」だから、畔で摘草をしているのだろうな、とは思うのですが、畑に勝手に入ってる? と疑問を抱く読者も何割かいると思います。下五は、さまざまな展開が考えられます。鮮やかな、下五の変化球を投げ込んで欲しいところです。人選以上に手が届く句材です。
“ポイント”

路塞ぐ眼のない亀やそぞろ寒

眼蔵

夏井いつき先生より
第49回『ブルガリアの道路』〈路ゆかば眼のない亀の骸冷ゆ〉の推敲です」と作者のコメント。

推敲句は、「骸」という情報がなくなりました。うーむ……むしろ不要なのは「路ゆかば」「路塞ぐ」という状況説明ではないでしょうか。
“ポイント”

交差点に親呼ぶ仔鹿満つ涙

眼蔵

夏井いつき先生より
第49回『ブルガリアの道路』〈交差点にはぐれ若鹿なみだ声〉の推敲です。交差点内で親と離れてしまったので、車に囲まれてしまった仔鹿が目に一杯涙を浮かべて鳴きました」と作者のコメント。

「交差点に親呼ぶ仔鹿」と状況を映像として書けています。良い方向に推敲が進んでますね。
あとは、下五のブラッシュアップ。「満つ涙」とか「なみだ声」と書きたいお気持ちは分かりますが、ここはグッと我慢。涙を通して仔鹿の心情を描くのではなく、あくまでもその動作を描写することに徹すれば、仔鹿の心情もまた読者に伝わっていきます。
“ポイント”

心病み職辞す帰り山笑う

鈴木そら

夏井いつき先生より
ちょっと言葉数が多いかな。言葉の優先順位を考えてみましょう。
“ポイント”

白一輪チューリップの紅し群に

日月見 大

夏井いつき先生より
ご本人から、「『紅き群に』とするところを『紅し群に』としてしまいました」との訂正コメントも届いています。「紅し」は形容詞の終止形。訂正通り、「群」に接続する場合は「紅き」と連体形にする必要がありますね。
“ポイント”

小さき手と球根秋植う皺の手

真秋

夏井いつき先生より
二つの「手」が離れた位置に置かれているのは、損。更に、現実的には秋に球根を植えたのだとは思いますが、俳句として表現したいのは、二つの手が一緒に球根を植えている光景。ならば、晩春の季語になりますが、「球根植う」としたのでよいかと思います。「文芸上の真」という文芸上のささやかなフィクション。

添削例
球根を植う小さき手と皺の手と
“ポイント”

チューリップ君待つ島へ携へて

高見 正太

夏井いつき先生より
「チューリップの花言葉は愛の告白、薔薇の花を届けるにはまだ早いが、彼女にこの花言葉を届けたいです」と作者のコメント。

語順を替えると、調べが整います。

添削例
君の待つ島へチューリップを抱いて
“ポイント”

五年ぶり友に会う日や春ショール

ちよ坊

夏井いつき先生より
中七「や」を「の」とすれば、人選です。
“ポイント”

金泥のチューリップ畑月に吠ゆ

一 富丸

夏井いつき先生より
句材は面白いですね。ただ、材料が少し多い。「金泥のチューリップ」で一句、「月に吠ゆ」と「チューリップ」で一句というふうに、切り分けて二句にしてみましょう。
“ポイント”

火の山の夕日に染まるチューリップ

上村 風知草

夏井いつき先生より
「夕日」に対して、「染まる」は常套的な措辞です。ここは要一考。
“ポイント”

開門抜けて終点は夏時雨

蛙目

夏井いつき先生より
「ある夏、私と夫と弟の三人で東京から九州まで車で帰った際、15時間以上の運転に疲れ切っていたところ、関門橋を抜けた時に、やっと故郷が近くなったと感動が忘れられず、そのことを詠みました」と作者のコメント。

関門橋ならば、そのように書くほうがよいですね。字余りを処理しやすいのは上五ですから、上五を六音「関門橋」として、中七の七音分で「抜け終点は」と展開してみましょう。下五「夏時雨」はちょっと気になります。「時雨」は冬の季語。下五は「夏の雨」とすれば問題は解消します。
“ポイント”

麦踏や星見に来たか子供たち

山崎三才

夏井いつき先生より
「農場体験で麦踏みをやりました。地表に顔を出して間もない麦は、『星を見に出て来たのか』などと呼びかけたくなるような可憐な様でした。 チューリップ→子供たちと連想しました」と作者のコメント。

「麦踏」の体験は、とてもよい感覚だと思います。「麦の芽」という季語もありますので、彼らへの「星を見に出て来たのか」という詩語をいかして、推敲してみましょう。素敵な句になりそうです。
“ポイント”