俳句deしりとりの結果発表

第37回 俳句deしりとり〈序〉|「っと」①

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第37回の出題

兼題俳句

囚人齧る人日のビスケット  さく砂月

兼題俳句の最後の二音「っと」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「っと」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

め上げ重き花束水温む

南全星びぼ

め上げ枕に白き木の葉髪

閏星

に知る企業風土や隙間風

そうわ

の法螺貝山伏は白い息

おりざ

衝突入やおじの書斎のピース缶

キャロット えり

促音の「っ」から始まるなんてそんなのありか!? と頭を抱える今回の出題。「っ」は大きい「つ」と解釈してもいいのでは? と考えた人たちもおりました。「つとに」の「夙(つと)」ってこんな字なんだ~とか、マニアックな季語「衝突入(つといり)」に驚いたり、愉快ではあったんです……が、どうせならやっぱり「っ」から始まるしりとりに挑んだ句が見たいよなあ。
“良き”

troubleの発音の良き新社員

しみずこころ

英語に活路を求めた人も。日常的に使われる日本語っぽい読み方だと「トラブル」だけど、映画とかで英語の発音聞くと「ットラボゥ」みたいに聞こえる。合ってる? 僕が英語に堪能じゃないからこれをアリと判断していいものかどうか……。

 

“ポイント”

또 만나요」さくらの匂いの手を握る

鰯山陽大

ット:またね)」背に黄砂も咽ぶ김포공항(キンポゴハン:金浦空港)

若山 夏巳

ットクは濃音と知る祝いの春

悠美子

英語に続いて韓国語も。英語以上に読めないしわかんないから判断つかないわよ! 大学の時に授業は取ってたけども! 《悠美子》さんは韓国語について語ってる、日本語で書かれた句。濃音って喉がつかえるような感じで発音するんだっけ? ああ、学び舎は遠くなりにけり~。 

“とてもいい“

ッとュならどちら一音?チューリップ

小鳥ひすい

日本語ネタに戻ってくると安心するなあ。はい、「ッ」が正解ですね。「チューリップ」は日本語の音数の数え方を覚えるのにもってこいの教材です。取り合わせが新一年生の授業風景を思わせて可愛い。

“ポイント”

はネット用語や新茶飲む

天雅

日本語だけど、使い方が特殊な例。いわゆるネットミームというか絵文字の一部というか。なにかを差し出す絵文字として使われてましたね。古巣を覗いて懐かしい気持ちにはなったけど「新茶飲む」は取り合わせが近すぎるんじゃないかなあ。ひょっとしたら正人はわからないかも……っていう配慮だったのかしら。ひとまずお茶どぞー っ旦
“とてもいい“

つとつとと亀の歩みや労働祭

紫黄

つと右目疼く木下闇のハイド

弥栄弐庫

解釈の微妙な例もありました。大きい「つ」なのか、意味としては小さい「っ」だけど歴史的仮名遣いで書いているために「つ」になっているのか。お二人の句は少し迷いました。《紫黄》さんの句は亀の歩みを表すオノマトペ「つとつと」+「と」の可能性が高そう。亀の足取りを考える「っとっと」と読むとスピード感がありすぎますからね。一方で《弥栄弐庫》さんの句は迷うなあ。急に・不意に、という意味の副詞「つと」だと読むのが妥当だとは思うんだけど、いきなり走る疼きに驚く「っ!」みたいな肉体感覚だとも読めなくはない。どっちも季語との取り合わせやモチーフは好きなだけに、安心して推しきれないのがもどかしい。
“良き”

つと言ふ間や寒鯉に蓋する落葉

亘航希

っといふ間にチューリップまで走ってく

高橋寅次

今回最も多かったのはこの手法! 直前の一音を発音しない形で「っ」から始める技であります。だって「っ」から始まる単語なんてないんだもん、そうなるよねえ。

最初の一音が省略されているとはいえ、お二人のチョイスはよくわかります。「あっという間」は耳慣れたフレーズですね。《亘航希》さんは歴史的仮名遣いの「つ」になってます。《高橋寅次》さんもその点、「いふ」を始め歴史的仮名遣いに統一するなら「つ」にする必要はありますね。寒鯉の住む水面を覆っていく静的な前者と、チューリップまで駆けていく動的な後者。同じ「あっという間」を使っているのに描いてる光景の性質が真逆なのが興味深い。
“とてもいい“

っと息をのむ初場所の土けむり

気仙椿

っと息を止めて跳ぶ川つくしんぼ

深山むらさき

っと息止め桂むきする手冷たし

もりたきみ

息を止めたり飲んだりするのもポピュラーな言い回し。親しみ深さでいえば「あっという間」と同じくらい耳に馴染んだものかもしれません。シチュエーションは三者三様ですが、どれも臨場感を伝えてくれる良い導入。特に《気仙椿》さんは七五五のリズムと相まって「初場所」という季語が際立ちます。普通に俳句作ってたら「っと」から始めようなんて思わないだろうけど、これはしりとりが思わぬ幸運な出会いになったんじゃないか!?
〈②に続く〉
“とてもいい“