俳句deしりとりの結果発表

第37回 俳句deしりとり〈序〉|「っと」②

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第37回の出題

兼題俳句

囚人齧る人日のビスケット  さく砂月

兼題俳句の最後の二音「っと」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「っと」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

っと其処の姐さん甘い蜜柑だよ

清瀬朱磨

小粋な呼びかけ風の一句。呼びかけの言葉のなかにさらっと季語を溶け込ませてるのは技あり一本! ……そういえば、生まれてこのかた愛媛生まれの愛媛育ちなわたくしですが、いわゆるたたき売りみたいな形式で蜜柑売ってるのって見たことないなあ。逆に愛媛県民は蜜柑は知り合いから貰う物、みたいな意識が強い気がする。みんなちゃんと農家から買おう!!
“良き”

っと待ってよ、でも夏は去ってった

加里かり子

これは省略されてるのは「ちょ」かなあ。十七音の韻律を意識した俳句というよりは、一行詩かショートショートのモノローグのような味わい。……「ちょっと」から「ちょ」を削ったらこの句になるけど、削る部分が逆だったらキムタクっぽくなるんだな、て気づいて今ふふってなってる。ロンバケ? ラブジェネ? 

 

“ポイント”

っとにもう 春にぶつかってくるなよ

苫野とまや

っとにもう鶴は放せと言ったでしょ

碧西里

「本当にもう」「ほんとにもう」ですね。口語をさらに乱暴な言い回しにすることでラフさが上がります。《苫野とまや》さん、具体的な何かはわからないけど「春に」の巨大さが詩を生んでおります。春という時期に、このタイミングで、という読みかたもできますが、ぶつかられるのはいつの季節だってイヤだしなあ。現実的な読みをするよりは、捉えどころのない「春」へぶつかる……という虚の世界に軸足を置いた読みをする方が魅力的な気がする。

《碧西里》さんはなんじゃそりゃあ!? な自由さが個人的にツボ。成立しなかった『鶴の恩返し』的な? 放してやったら恩返しルート入ったかもしれないのに、連れて帰ってきちゃったら面倒みなくちゃいけないじゃんどうすんのよ!

“とてもいい“

っとあぶねー…あの海女さんのツレにタトゥー

ふるてい

おっ、危ない橋を渡ることに定評のある《ふるてい》さんだ。ナンパとケンカはほどほどにネ。「―…」の一拍おいて逃げてる感じが絶妙にリアルで可愛い。

“ポイント”

っとか言ってあの子と鯛焼するんでしょ

七瀬ゆきこ

っとか言ってもできぬ相談梅探る

いたっくうらら

「あの子と鯛焼する」ってなんだ!? 昔そんな歌あった気がするけどはっきり思い出せん……♪あしたあの子とほにゃららら~♪みたいなやつ……。鯛焼分け合うのか、鯛焼作るのか、なんにせよもめ事のささやかな人間くささが「鯛焼」に似合ってて楽しい。

《いたっくうらら》さんはもうちょっとだけシリアス。探梅中の会話から生まれた一句、って感じでしょうか。っとか言ってもさ~そりゃ無理だよ○○ちゃ~ん、みたいな会話してそう。それでいて落とし所を探ってる感じが「梅探る」なんでしょう。春の兆しは無事に見つかるでしょうかねえ。
“とてもいい“

…ット!」の声高らかに日盛りのロケ

古都 鈴

っと」零る熱燗はなむけの屋台

むらのたんぽぽ

「~っと」って言う子たぶん重度の春うれい

ノセミコ

っと」のみの耳に残りて春の波

白猫のあくび

カギ括弧付きシリーズ。発言だとはっきり示すための工夫ですね。どんな状況で「っと」を口にするかは様々。《古都 鈴》さんと。《むらのたんぽぽ》さんは一番分かりやすいですね。《ノセミコ》さんも口癖のように語尾が「~っと」になっちゃうのは感覚的には理解できる。傍目にみると重度の春うれいっぽい感じがするもんなのか? 病みっぽい?? 《白猫のあくび》さんは普通に読むと、寄せてきた波に驚いて「おっと」とか「うわっと」って言いながら避けてる、みたいな状況を想定するんですが……「のみの」「残りて」が若干不穏ぽくも読めちゃって謎。声のみが耳に残るって、大丈夫? 当人波に飲み込まれちゃって姿消えてたりしない??
“良き”

っとっとっと上司の溢れないビール

石川穴空

お酒の席での様式美っぽさすらある場面。わかるわ~。別にまだ全然溢れるような水位じゃないのに「っとっとっと」って言いたくなっちゃうわ~。溢れないってわかっていながらやるから楽しいのであって、実際溢れたら怒られるから注意だゾ。
“とてもいい“

っととと汗ばむ指に抜くジェンガ

一寸雄町

っととと千鳥が逃げて波が寄る

豆くじら

っととと蒲公英よけてゆく車輪

令子

っととととつまづく先に蕗の薹

夢佐礼亭 甘蕉

っととととととと厄日の崖だった

けーい〇

どこまで「と」が増やせるかレースの様相を呈しております。同じ音の繰返しにすぎないのに、組み合わせる言葉と状況によって全然違う意味になるんだから日本語って面白いですねえ。《一寸雄町》さんは焦りのニュアンス、《豆くじら》さんは千鳥の足取り、続く三人は心情と動きのミックス、といったところでしょうか。《令子》さん、《夢佐礼亭 甘蕉》さん、《けーい〇》さん、と続けて読むと「と」が増えるほどに焦りが切羽詰まっていくのが面白い。
“とてもいい“

っと言うわけで今夜は闇汁です

殻ひな

どういうわけなの!? 闇汁こわいよぉ!

句として良いかどうかはわからないけど、なんの説明もない有無を言わせなさが「闇汁」を際立たせてる……とは思う……。うーん、実は使い道次第では「っ」始まりは技術として確立できるのか……? 
“とてもいい“

っと口に肉汁あふれ鼻に汗

欣喜雀躍

なんとまあ、美味しそうな! 小籠包とか食べるとこんな感じになるよね。文字通り、いきなり口から溢れ出すような体験が「っ」の導入によって読者と共有できます。上五中七の鮮度が抜群な分、下五が少し説明的なのが惜しいなあ。下五の展開しだいでは次回兼題にしたかったくらい可能性秘めてると思います。レッツ推敲!
〈③に続く〉
“とてもいい“