俳句deしりとりの結果発表

第38回 俳句deしりとり〈序〉|「っか」②

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第38回の出題

兼題俳句

浮世絵の象ぐんにやりと往く立夏  弥栄弐庫

兼題俳句の最後の二音「っか」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「っか」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

っか」の音舌も伸ばして亀鳴けり

ひかりき

歳時記を見ると「亀鳴く」の解説には「実際は鳴かない」って書いてるものがちらほらあるんですが、昔テレビ番組で亀が鳴いてるVTR観た記憶があるんだよなあ……。まさにこんな感じで舌打ちするような音が出てた気がする。生物学的には鳴き声とは別、みたいな理屈なんだろうか。詳しい人いたら教えてください。
“良き”

っか立夏って葉ッパきらっきらっだ

納平華帆

強引な「っか」。前回の兼題「っと」でもありましたが、直前の音が省略されたような形です。この場合は「そっか」みたいな納得か、あるいは「りっか 立夏」と言葉を繰返し唱えて自分に染み込ませようとしてるんだろうか。全体的に強引な語りではあるんだけど、自分を取り巻く世界の美しさに気づく喜びには共感を覚えます。いいよねえ、自然って。

 

“ポイント”

っかりと「う」を書き損ね春の宵

うめやえのきだけ

っかりと「う」を忘れたる春の昼

令子

っかりと言われ名人春愁

松本厚史

っかり八兵衛「う」はどこへ春遅々と

中村すじこ

「っ」の前にどんな音が省略されているか? シリーズ。「うっかり」はわかりやすいですねえ。うっかり八兵衛懐かしいなあ。今回はなんだか時代劇に縁のある単語が多い気がするよ。「うっかり」の語感のせいか、悪気がなく小さな失敗を思わせるせいか、許しちゃってもいっか! となりそうな大らかさが「春」系統の季語との取り合わせに繋がるのかしら。

“とてもいい“

っかり!」の声からテレビ点くや春

充子

あー! 放送はじまってたー! の図。特に昔はほぼリアルタイム視聴しかテレビ番組観る手段がなかったから切実でしたね。今は自動録画や見逃し配信に頼れる部分も多くなって便利になりましたなあ。「春」が無理矢理二音の季語を押し込んだかと思いきや、相撲の春場所や春の甲子園など、春だからこその放送もあるし案外悪くない取り合わせ。

“ポイント”

っ火」の前は「し」か「れ」か「は」か「せ」さて夜長

江口朔太郎

失火、烈火、発火まではするっと字が思いつくけど……「せ」ってどんな単語だ? ファイナルファンタジー11のオタクとしては「石火」が思いつくけれど。「夜長」が読書の中での言葉との出会いを思わせます。ページや行のまたがりで直前の文字が目の前から失せる視覚体験、読書好きなら覚えがあるんじゃないかしら。
“とてもいい“

っかり」の頭に「に」あり姥柳

大地緑

「にっかりってなに? 変なの~」と思われる方もいるでしょうが、実はこういう名前の日本刀が実在するんです。「にっかり青江」といいまして、現在は香川県の丸亀市立資料館が所蔵しています。幽霊を切ったという逸話が有名な刀ですね。「姥柳」との取り合わせも幽霊のエピソードを念頭に置いてのものでしょうか。

ちなみに近年は『刀剣乱舞』からこの刀を知った方も多いでしょうが、僕が知ったきっかけはファイナルファンタジー11。当時、「変な名前の片手刀実装されたぞ!」ってプレイヤーに妙にウケてたんだよな、懐かしい。
“良き”

っかんの終わり」呟く春愁

冬野とも

「いっかんのおわり」。有名な言い回しではありますが、実際に口にする機会ってないよなあ。春愁が過剰な絶望を誘ってるのかしら。ちなみに「いっかん」ってどんな字を書くかご存知ですか? 一環? 一貫? と迷っていたのですが、実は「一巻」なんだそうです。物語の結末がついてしまうこと、転じて死ぬことやすでに手遅れであることを意味しますが、現代人の感覚としては「一巻で終わっちゃうのって早くない?」ってなるのが隔世の感。昔は一巻(ひとまき)からなる物語、の意味で使われてたから、現代の紙媒体が何冊も刊行される感覚とは全然違うんでしょうねえ。
“とてもいい“

っかっかー」緑児の指先を夕焼

感受星 護

夕焼を見ながら「まっかっかー」って言ってるんでしょうね。子どもらしいおしゃべりがかわいい。「緑児」は「みどりご」と読ませたいんだろうけど、一般的には「嬰児(みどりご)」の字になるんじゃないだろうか。赤との対比で緑にしたかった??
 
“とてもいい“

っかねえと躊躇ひの橋山笑ふ

鈴白菜実

っかなびっくりコレラ船の難破

翡翠工房

怖じ気づいてる「おっかねえ」。これも古典的といいますか、昔話などでは耳慣れたフレーズだけど日常的には使わない言い回しだよなあ。……と思ったんだけど、ひょっとしたら地域差があるのかもしれません。辞書によれば「おっかない」は関東や東北での言い方であると解説がありました。愛媛だとほぼ使わないけど、関東・東北では今も普通に使うのかな? それとも季語「コレラ船」のように絶滅寸前状態なんだろうか?
“とてもいい“

っか自分ここでアロハてなめとんか

藍創千悠子

っか待て赤信号だ二月尽

鈴木秋紫

ッカじゃね?と呟くギャルや畦青む

あみま

っかみたい春浅し日の呆れ顔

いまい沙緻子

「バカみたい」があれこれの思いで「ばっかみたい」に変化しております。叱責からなにやら青春っぽい呟きまで。本当に偶然だったんですけど、前回の兼題「っと」と今回の兼題「っか」が連続したのはなんの運命のいたずらだったのか。二つの兼題を比較してみると、今回の「っか」は特に口語の一音省略が多いんですよね。そうなると必然、少し荒っぽい言い回しだったり、気心の知れた雑な会話の一幕のような句が増えるんです。まだまだ他の例がありますよ。
“とてもいい“

っかれ~す」と送られ春暁に迎えられ

鳥乎

っかー!またカープ負けとる冷奴

雨野理多

っかさぁと大人ぶる子の酔うビール

野山めぐ

っかさぁなんてタメ語の新入生

蛙目

っかしいなここに置いてた春がない

くぅ

っかもういやんなっちゃった春の宵

秋月あさひ

っかヤバいっすバスの二人の大試験

香亜沙

「お疲れさまです」の挨拶、悲鳴? のような「っかー!」、「ていうかさあ」の会話調、困惑大きめの「おかしいな」、もうどうにでもなーれ感すら漂う「なんかもう」、などなど。うーん、気の毒な場面も多いんだけど、妙に作者の日常っぽさに一読者として近づけたような気になるのが新鮮。香亜沙さんの「っかヤバいっす」はどう読むのが良いのかなあ。「ていうか」の意味かもしれないし、試験の内容次第では……たとえば実技試験も併せて受けるタイプの試験なら「学科」だって読みは成立するかもしれない。なんにせよ、みんなこうして等身大に生きてるんだよな。いっしょに頑張ってこうな、みんな。
“とてもいい“

っからかんすっからかんぞ日記果つ

三浦海栗

っからかんのすってんてんよつくづくし

杏乃みずな

う、うーーーん……がんばろう、って言った矢先にがんばりにくい句が……。すっからかんですってんてんかあ、うーん……つらいなあ……。

言葉としては本来、からっぽで中身が何もない、何一つ残っていないこと、の意味になります。体力や気力がすっからかん、みたいな意味にだってなり得るはずなんだけど、「財布がすっからかん」「財産がすっからかん」のようにお金の尽きた状態を強くイメージするのはなぜだろう。どっちも気の毒ではあるけど、《三浦海栗》さんよりは《杏乃みずな》さんの方がしぶとく生き抜く強さを取り合わせから感じますねえ。土筆とってきて食えば飢え死にはしねえ! みたいな。好きよ、こういう生き残る力の強い人。
〈③に続く〉
“とてもいい“