俳句deしりとりの結果発表

第38回 俳句deしりとり〈序〉|「っか」③

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第38回の出題

兼題俳句

浮世絵の象ぐんにやりと往く立夏  弥栄弐庫

兼題俳句の最後の二音「っか」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「っか」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

っかっ飛ばせー夏予選の空に叫ぶ

牛乳符鈴

っかっ飛ばせ母校の春に声枯らし

UVA桜

っかっ飛ばせビール片手の外野席

美んと

っかっとばせ百重奏なり夏の空

鞠居

野球応援の「かっとばせ」。みんな声を涸らして叫ぶので自然と「っ」の息づかいが入るんですね。《美んと》さんはビール片手に応援するプロ野球観戦だろうけど、他のみなさんは言葉のチョイスが高校野球を思わせます。《鞠居》さんはプロ野球の可能性もあるけど、「百重奏」の賑やかさとあわせてブラスバンドの演奏も聞こえてきそう。夏の空に抜けていく大音量が迫力あります。
“良き”

ッカあっか悪化と梅雨の街宣車

泉楽人

リフレインの作り方からして省略されているのは「ア」でしょう。カタカナ・ひらがな・漢字で三回繰り返す「悪化」。街宣車が繰り返し述べ続けるマイナスの言葉を、はいはい、わかったから……とうんざり受け流す心が暗澹とした「梅雨」と結びつきます。

 

“ポイント”

っか」っとして投げてやろうかトマトでも

氷雪

心理的な「っか」。「っ」が一瞬我慢したけど爆発しかけてる微妙な心理を感じさせます。でも結局なかなか投げられないもんだよねえ……。「トマト」を選んでるあたりまだ穏便な方なんでしょう。卵とかだとべちゃっとひどい有り様になるし、南瓜とか投げると物理的に危険がアブナイし。

“とてもいい“

っか」と吸ふ無呼吸症候群の大朝寝

えりまる

っか」と鳴り目覚めて春の電車かな

円海六花

無呼吸症候群に電車の居眠り、そんなところにも「っか」の瞬間はありました。出題を見たときには「そんな単語ねえよ!」と思ったものですが、意外と身近な場面はあるもんですねえ。電車での居眠りはまだ「春」の取り合わせもあって穏やかそうですが、無呼吸症候群はけっこう危ないのでは? 「大朝寝」が本来心地良い季語のはずなんだけど、充実した睡眠がとれてなさそうで心配。

“ポイント”

っかっかっかヒールの音と蜩と

黒猫

ッカッカとヒール冷たきフラメンコ

骨のほーの

ッカッカッカ軍靴の響く雪の首都

佳辰

っかっかっか靴が歌ってカーニバル

砂糖香

靴が立てる音。これも身近な「っか」ですね。ヒールや軍靴など、靴の種類によって身近さが変わってきます。《佳辰》さんの軍靴は現代の世界情勢や、過去の戦争も踏まえての一句でしょうか。心理的な不穏さと「雪」の酷薄な冷たさが似合います。《砂糖香》さんは打って変わって明るいリズム。「カーニバル」は「謝肉祭」の傍題ですね。「謝肉」の字面の生々しさがない分、より陽気な響きを想像させます。
“とてもいい“

っかかかかちびた竹馬まえのめり

草深みずほ

竹馬は冬の季語。これも足音っていうんでしょうかねえ。「っかかかか」が勢いよすぎて、この直後にこけるんじゃないかしら……と心配になります。「ちびた」の使いこんでる感がグッドな描写。
“良き”

っかっかと撥の心音つくし生ふ

欣喜雀躍

ッカ、ッッカ、炎天を裏打ちのリム

胡麻栞

ッカッカドンッカカカドドン空高し

めいめい

っかっかとん ぷっパラパっとずんずん春ぞ行く

となりの天然水

音楽系の「っか」シリーズ。《欣喜雀躍》さんや《胡麻栞》さんはイメージしやすいけど、《めいめい》さんはもうかなり複雑なバチ捌きになっておりますなあ。太鼓の達人か?? 《となりの天然水》さんに至ってはトランペットやらなにやら音響でずんずんしちゃっております。フェス??
“とてもいい“

っかと睨み飛び六方の足袋猛し

海里

っか!と息絶ゆる野外劇のロミオ

明 惟久里

っかと瞠る仁王のごとき送り梅雨

高尾一叶

迫力のある「っか」。どの句もそれぞれの迫力を活かしております。《海里》さんの「飛び六方」は歌舞伎の演技の一つ。一足ずつはずみをつけて飛ぶように進みます。「足袋」が冬の季語なんだけど、歌舞伎の衣装の足袋だと季感は少し薄くなるかもしれません。《明 惟久里》さんはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』。物語のラスト、自殺するロミオですね。役者さんの熱演が「!」から察せられて好み。《高尾一叶》さんは「っかと瞠る仁王」が丸ごと「送り梅雨」への比喩になっています。仁王像の描写かと思わせておいてからの語順が上手い。終わらんとする梅雨がとびきりの勢いで打ち付けてきます。
“とてもいい“

っかっしゃん」父のライカや山笑ふ

ゆきのこ

っかたんと沈むどんちやう春深む

小山美珠

ッカーンと缶蹴り飛ばす雲の峰

ぞんぬ

音の感触をより忠実に捉えようと耳を研ぎ澄ませた三句。《ゆきのこ》さんの古いカメラ独特のシャッター音、リアルですねえ。「や」の詠嘆でカットを作り、写したであろう春の山の姿へと切り替えるのも的確です。《小山美珠》さんは舞台の緞帳。勢いよく降ろしても、舞台に当たる直前にはちゃんと減速させてるんですよね、あれ。観客側の目線にも思えるし、舞台さんや演者さんの目線にも思えてきます。「春深む」が一幕を終えてふぅっと息をつくようなしっとりとした取り合わせ。《ぞんぬ》さんは缶蹴り遊びかなあ。小気味良い音が童心を思い思い起こさせます。雲の峰のそびえる青空を背景にして、飛んでいく缶が見えそう。……場合によっちゃ、一緒に脱げた靴もふっとんでいったりするんだよなあ。子どもの頃やったよね、なつかしい。
“とてもいい“

○ッカレモン注ぐ居酒屋のアルバイト

紅紫あやめ

ッカ」だけのラベルやとくんとく梅酒

栗田すずさん

っか』残り壊れしネオン六花(むつのはな)

レオノーレ・オオヤブ

音ではなく映像の上で一文字が欠落してるシリーズ。《紅紫あやめ》さんはポッカレモンで、《栗田すずさん》さんはウィスキーのニッカかな? あれ? でも「梅酒」注いでるってことはニッカは違うかもしれないな……。

《レオノーレ・オオヤブ》さんはお店の看板ぽいですねえ。市販の商品ならともかくお店の名前となると、どんな一音なのか可能性は無限大。「六花」と掛けて「りっか」とか? 雪の降る印象からして「せっか(雪花)」なんて可能性もあるんだろうか。勝手に北国の飲み屋街を想像しておりまする。
“とてもいい“

「ッ」なのか表記悩みし吾の遅春

沖庭乃剛也

「ッ」かを迷う原稿台風来

玉響雷子

文章に携わる人間にとっては表記一つとっても悩む価値のあるものなのです。俳句作っててもあるもんな、こういう場面。《沖庭乃剛也》さんは「う~ん悩むなあ」と考える遅春も楽しんでそうですが、《玉響雷子》さんはもっと切羽詰まってます。台風が来るぞ! 入稿は間に合うのかっ!? もはや一刻の猶予もないッ!!
“とてもいい“

っかな。」と続く頁や日向ぼこ

落花生の花

っかんの目次に戻る夏休

亘航希

読書好きとしてうれしくなっちゃう二句。《落花生の花》さんの句、わかるなあ。小説を読んでると文字の段組の関係でこんなページのまたぎ方をしてること、ありますよね。口語の軽やかさを作中の台詞として「」で括りつつ、句としては文語の利点である切字の「や」をうまく使いこなしています。穏やかな日向での読書、憧れますねえ。

《亘航希》さんはぼかし方が上手い。促音で繋がる数詞といえば、一巻か、六巻か、十巻か……あるいは十一巻以降にも同じ法則は適用できますね。シリーズものの小説だと、あの場面どんなだったっけ? と再確認したくなることってあるんだよねえ。「夏休」が読書の楽しみに目覚めた子どもの熱中を思わせて微笑ましい。
“とてもいい“

わくまへは「つ」だつたからつかぜ

岡根喬平

表記上の大小の対比を活かした発想。なぜ大きな「つ」が小さい「っ」になってしまったかというと空っ風が乾かしちゃったからなのよ……なんて、そんなバカな! とツッコミをいれつつも、由来話の一節みたいで愉快であります。乾いた冷たい空っ風に縮こまっているのかもと思うと「っ」が妙にいじらしくみえてくるなあ。
“とてもいい“

っかぶかのズックふっかふかのたんぽぽ

東田 一鮎

オノマトペの対比が生み出す対句表現の一句。「ぶかぶか」と「ふかふか」。濁音のあるなしでまったく違うオノマトペに変化します。さらに「っ」を足すことでそれぞれの持つイメージをより強化していますね。強調した結果、「ぶっかぶか」の最初の「ぶ」が抜け落ちてしまったのも、いかにも大きすぎてすっぽ抜けてしまったかのような印象を強めます。幼稚園の新年度が始まった頃くらいかなあ。たんぽぽの咲く明るさと、大きすぎるズックをパカパカさせる小さな足たちが思い浮かびます。
“とてもいい“
第40回の出題として選んだ句はこちら。

第40回の出題

っかぽか ぽの音春に吸ひ込まれ

東風 径

頭の一音が省略されるというイレギュラーな出題に加えて、一文字分の空白を意図的に入れるという、二重に実験的要素を織り込みながらも破綻していない珍しい例であります。促音がなければ「ぽかぽか」なのでしょうが、ただのぽかぽかでは足りないくらいの「(ぽ)っかぽか」なのです。続く空白の一文字がうっとりと呆けたような間を作り出す配置もお見事。その陽気や心地良い呆けを生む源泉となっているのが「春」という大きな季語の力なのです。ぽっかぽかな空間も心理も、すべてを春という柔らかな時間が吸い込んで包んでくれました。実験的ではあるけど、しっかりと季語が主役に立った奇跡のバランスに拍手。

ということで、最後の二音は「まれ」でございます。 

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう! 
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

“とてもいい“