第55回「食卓に花瓶」《ハシ坊と学ぼう!③》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
霞草またも主役は薔薇のもの
一石 劣
夏井いつき先生より
「この場合は、季重なりも許容されるのではないかと思うのですが」と作者のコメント。
確かに、「薔薇」を主役と書いていますので、二つの季語における強弱を書こうとしているのは理解できます。ただ、中七「またも主役は」は散文的な書き方です。薔薇と霞草がどんなふうに飾ってあったから、そのように感じたのですか。それを描写してみましょう。
「この場合は、季重なりも許容されるのではないかと思うのですが」と作者のコメント。
確かに、「薔薇」を主役と書いていますので、二つの季語における強弱を書こうとしているのは理解できます。ただ、中七「またも主役は」は散文的な書き方です。薔薇と霞草がどんなふうに飾ってあったから、そのように感じたのですか。それを描写してみましょう。


江の島や焚き火の中に丸くあり
矢車のえ
夏井いつき先生より
「第25回『浜辺の焚火』の投句〈砂浜の焚き火に煙る江の島や〉が並評価でした。どのように推敲すべきか、ずっと頭のすみに陣取ってまして、下五に『や』を置いたことが推敲する箇所かな? と、作句しましたが、どうでしょうか」と作者のコメント。
下五「~や」の着地はバランスが取り難くてむずかしい型です。ここは改善の余地があります。原句の言葉を最大限に生かすのならば、〈砂浜の焚き火に江の島の煙る〉と語順をかえることも可能です。更に、もう一歩進めるならば、「砂浜の焚火」とあれば「煙る」と書かなくても想像ができますね。その音数があれば、光景として江の島を描写することもできます。
〈砂浜の焚き火や江の島の○○○〉この○の中に入る描写の言葉を考えてみましょう。俳句は言葉のパズルですよ。
「第25回『浜辺の焚火』の投句〈砂浜の焚き火に煙る江の島や〉が並評価でした。どのように推敲すべきか、ずっと頭のすみに陣取ってまして、下五に『や』を置いたことが推敲する箇所かな? と、作句しましたが、どうでしょうか」と作者のコメント。
下五「~や」の着地はバランスが取り難くてむずかしい型です。ここは改善の余地があります。原句の言葉を最大限に生かすのならば、〈砂浜の焚き火に江の島の煙る〉と語順をかえることも可能です。更に、もう一歩進めるならば、「砂浜の焚火」とあれば「煙る」と書かなくても想像ができますね。その音数があれば、光景として江の島を描写することもできます。
〈砂浜の焚き火や江の島の○○○〉この○の中に入る描写の言葉を考えてみましょう。俳句は言葉のパズルですよ。


針外し深紅の薔薇置くレース白
ミモザ育
夏井いつき先生より
「不器用なのに、何年かに一度レース編みをしたくなるのはどうしてでしょうね」と作者のコメント。
「薔薇」も「レース」も季語です。勿論、こういう場面を詠みたい時には、どちらも入れる必要があるので、絶対に季重なりはダメというわけではありません。ただ、どちらの季語を主役にしたいのか。そこは、しっかりと意識しましょう。
「不器用なのに、何年かに一度レース編みをしたくなるのはどうしてでしょうね」と作者のコメント。
「薔薇」も「レース」も季語です。勿論、こういう場面を詠みたい時には、どちらも入れる必要があるので、絶対に季重なりはダメというわけではありません。ただ、どちらの季語を主役にしたいのか。そこは、しっかりと意識しましょう。


出てきますをんなの文字や春の宵
藤原朱夏
夏井いつき先生より
「母が七十歳位の時に同級生とお付き合いを始め、人生二度目の春を謳歌していました。家族にはオープンでしたし、デートの打ち合わせも堂々としているのに、なぜかいつも出かけるときは書き置きがあり、先入観からか、その文字はいつもと少し違って、女であることを堪能しているような気がしていました。「出てきます」とカギ括弧にするか、出てきますと、と字余りになっても『と』を付けたほうが、余韻が残るような気もしながらこのまま出します」と作者のコメント。
書き置きの文言でしたら、やはりカギカッコで括るほうが分かりやすいですね。更に語順を替えるのも一手。
添削例
春宵や「でてきます」てふ女文字
「母が七十歳位の時に同級生とお付き合いを始め、人生二度目の春を謳歌していました。家族にはオープンでしたし、デートの打ち合わせも堂々としているのに、なぜかいつも出かけるときは書き置きがあり、先入観からか、その文字はいつもと少し違って、女であることを堪能しているような気がしていました。「出てきます」とカギ括弧にするか、出てきますと、と字余りになっても『と』を付けたほうが、余韻が残るような気もしながらこのまま出します」と作者のコメント。
書き置きの文言でしたら、やはりカギカッコで括るほうが分かりやすいですね。更に語順を替えるのも一手。
添削例
春宵や「でてきます」てふ女文字


春暁の窓学びの灯の食卓
マサオカ式ぉ村椅子
夏井いつき先生より
「7時過ぎたら寝て、朝3時に勉強開始。宅建、俳句、英語、……雑多に2、3時間やっています」と作者のコメント。
素晴らしい勉強ぶりですね! 「春暁の窓よ」と軽く詠嘆すれば、人選です。
「7時過ぎたら寝て、朝3時に勉強開始。宅建、俳句、英語、……雑多に2、3時間やっています」と作者のコメント。
素晴らしい勉強ぶりですね! 「春暁の窓よ」と軽く詠嘆すれば、人選です。


嫁ぐ日囲む朝食(あさげ)にはまぐり汁
文心美
孫を待つ夕飯(ゆうげ)のカレーみかんの香
文心美
夏井いつき先生より
二句共に、(あさげ)(ゆうげ)とルビが打たれていますが、そのように読ませたいのならば「朝餉」「夕餉」と書けばよいだけです。更に、一句目「はまぐり汁」の方は、音数を整えてみましょう。
〈嫁ぐ日の朝餉はまぐり汁○○○〉、○の三音で季語「はまぐり汁」を描写してみましょう。
二句共に、(あさげ)(ゆうげ)とルビが打たれていますが、そのように読ませたいのならば「朝餉」「夕餉」と書けばよいだけです。更に、一句目「はまぐり汁」の方は、音数を整えてみましょう。
〈嫁ぐ日の朝餉はまぐり汁○○○〉、○の三音で季語「はまぐり汁」を描写してみましょう。


ハンコ押すだけにしてあり春の果て
SEAN
夏井いつき先生より 評価 並
上五中七は、なかなか思わせぶりなフレーズです。この段階で並選は確保していますが、下五の季語によって、まだまだ化けそうな一句。


ピアスのこと聞けぬ食卓若布和
夏雲ブン太
夏井いつき先生より 評価 並
上五中七よいですね。この食卓が見えてきます。ただ、季語は「若布和」がベストかどうか。この段階では並選。さらに、人選を狙える良き季語との出会いがありそうです。


ボトル缶花見疲のイートイン
摂州黒うさぎ
夏井いつき先生より 評価 並
「花見疲のイートイン」はリアリティのあるフレーズです。上五「ボトル缶」は、それを飲んでますという程度の取り合わせ。ここまでは並選です。更に、上五を「○○○○や」と、すこし言葉の距離を離すと、一気に人選以上にいく可能性があります。


チーズケーキにトンカ豆の香春の昼
小鳥ひすい
夏井いつき先生より 評価 並
「『チーズケーキに』と『チーズケーキの』で迷いました。『チーズケーキに』だとチーズケーキの方に、『チーズケーキの』だとトンカ豆の香の方に感動の焦点がある気がします。この捉え方で合っていますでしょうか。(チーズケーキにトンカ豆の香がある感動を詠みたいです)」と作者のコメント。
作者の意図としては、「チーズケーキに」なのだろうと思います。ただ、下五の季語「春の昼」は、上五中七に負けています。この段階では並選。別の季語との出会いによっては、人選になる可能性はあります。
作者の意図としては、「チーズケーキに」なのだろうと思います。ただ、下五の季語「春の昼」は、上五中七に負けています。この段階では並選。別の季語との出会いによっては、人選になる可能性はあります。


草笛や配膳ロボの待つ通路
月季 紫
夏井いつき先生より 評価 並
「草笛」と「配膳ロボ」の取り合わせは、面白いです。「~の待つ通路」という背景が、季語にとってベストなのか。そこが、人選への壁になっています。この段階では、並選。


点滴のぽとりぽとりと金木犀
いともこ
夏井いつき先生より 評価 並
「入院しているときに、花も飾れず、何もできないから、点滴の落ちているところをじっと見つめていました。すると金木犀の香りが外からふわっと香ってきて、なんだかほっとしたことを思い出して詠みました」と作者のコメント。
「点滴」と「金木犀」の取り合わせ、佳いですね。この段階で、並選です。上五に「点滴」とあれば「ぽとりぽとり」は書かなくても見えてくる情報。上五を「点滴や」と詠嘆して、中七で季語「金木犀」を描写してみましょう。
「点滴」と「金木犀」の取り合わせ、佳いですね。この段階で、並選です。上五に「点滴」とあれば「ぽとりぽとり」は書かなくても見えてくる情報。上五を「点滴や」と詠嘆して、中七で季語「金木犀」を描写してみましょう。


火の山よ古覆う鬱金香
髙田 純佳
夏井いつき先生より 評価 並
「第53回『火の山公園のチューリップ』の投句〈火の山よ古の宴鬱金香〉の推敲です。夏井先生から、全体の調べがブツブツ切れているので、調べを意識して中七を推敲してみましょう、とのアドバイスでした。歴史を物語りたかったので、『古(いにしえ)』を分かりやすく『歴史を』に変えようか悩みましたが、『古』は残すことにしました」と作者のコメント。
中七下五「古(を)覆う(かのような)鬱金香(であるよ)」と、意味を繋げることで、三段切れは回避できましたね。ここまでくると並選が確保できました。これはこれで完成ですね。更に、人選を目指すとすれば、中七が少々観念的なので、「鬱金香」を描写する視点で新たな一句を作ってみることをお勧めします。
中七下五「古(を)覆う(かのような)鬱金香(であるよ)」と、意味を繋げることで、三段切れは回避できましたね。ここまでくると並選が確保できました。これはこれで完成ですね。更に、人選を目指すとすれば、中七が少々観念的なので、「鬱金香」を描写する視点で新たな一句を作ってみることをお勧めします。


木洩れ日や箸でつまめぬ夏料理
紀子
夏井いつき先生より 評価 並
「『木洩れ日』も季語になるそうですが、『夏料理』を季語にしました。穏やかな季節と、箸でつまめず、ちょっと焦ってる様子の対比を詠んでみました」と作者のコメント。
この作品としては並選ですが、「木漏れ日」は季語ではありません。時々、インターネット上で、「木漏れ日は季語」と書いてあるのを目にしますが、しっかりとした出版社の歳時記を一冊、お手元に置くことをお勧めします。
この作品としては並選ですが、「木漏れ日」は季語ではありません。時々、インターネット上で、「木漏れ日は季語」と書いてあるのを目にしますが、しっかりとした出版社の歳時記を一冊、お手元に置くことをお勧めします。

