写真de俳句の結果発表

第55回「食卓に花瓶」《ハシ坊と学ぼう!⑥》

ハシ坊 NEW

「食卓に花瓶」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

裏窓で紅茶占い小鳥来る

まこと七夕

夏井いつき先生より
「上五の助詞『で』は、『に』か『の』にするべきか迷いました。『で』は説明的で嫌われるでしょうか?」と作者のコメント。

この場合は、「で」が最も損。散文的な書き方になっています。「裏窓に」とすれば、場所に意味の軸足が残り、「裏窓の」とすれば「紅茶占い」に焦点があたります。あなたが表現したかったのは、どちらですか。
“ポイント”

入学式髪を編み込む母の指

龍の珠

夏井いつき先生より
「入学の」とすれば、人選です。その理由を考察してみましょう。
“ポイント”

すずらんやミニマリストの食事かな

へばらぎ

夏井いつき先生より
「や」「かな」と切字が重なりました。どちらかを外しましょう。
“ポイント”

パセリ刻む菜切り包丁に野原

ま猿

夏井いつき先生より
「『パセリ』を刻むには、少々大袈裟な菜切り包丁の広い刃。刻まれた『パセリ』の青さが、そこに夏の野原として存在している。ズームインした上で脳内に視界がぽんと広がる展開を面白いと感じています。自分の中では季語は動かないのですが、どうでしょう。他に〈パセリ刻む菜切や見霽かす野原〉等の案も考えましたが、切れ字以降が唐突過ぎて句意が伝わらないのではないかと迷い、結局この形となりました」と作者のコメント。

「パセリ刻む」から「野原」へ広がる感覚は、巧く表現できれば面白くなりそうです。「菜切り包丁」というモノが、中七に入ることで、損をしているのではないでしょうか。
“ポイント”

永き日や還暦の恋を待つスタバ

九月だんご

夏井いつき先生より
「夫が他界して20年が過ぎました。還暦ですが、まだ恋をしていたいものです」と作者のコメント。

中七の「を」は、省略できます。中七が七音におさまりますね。
“ポイント”

放逸を宥めて剪って活けし薔薇

夏椿咲く

夏井いつき先生より
「動詞のたたみかけは、リズムを作るのに成功したか? うるさいだけか? ちょっと心配です」と作者のコメント。

動詞のたたみかけは、今まさにそれが行われていてこその効果。中七の「し」は、過去の意味になるので、ここだけが疵です。
“参った”

食卓を映す銀匙蜂羽音

矢口知

夏井いつき先生より
句材、目のつけどころは良いです。語順で損しています。

添削例
蜜蜂や食卓映す銀の匙
“ポイント”

奏でらる雅楽の中の甘茶かけ

縦縞の烏瓜

夏井いつき先生より
「雅楽の中の」とあれば「奏でらる」はなくても伝わります。
“ポイント”

レンギョウや咲く季節(とき)だけの道しるべ

詠華

夏井いつき先生より
「季節」と書いて「とき」と読ませるようなルビの使い方は、オススメできません。たった十七音しかない俳句だからこそ、拘りたい一点です。
“ポイント”

首傾げ今日は何の日卓の花

和平

夏井いつき先生より
俳句で「花」といえば、「桜」を指す季語です。この場合は、桜ではないですね。
“ポイント”

色盲の目に赤き花は鳥雲

さえこ

夏井いつき先生より
第53回『火の国公園のチューリップ』の推敲です。先生が句の7割を直してくださったのに、どうしても季語が見つかりません。色とイメージから『鳥雲』を選びました。もっと、句全体を考えた方が良かったのでしょうか」と作者のコメント。

推敲句を再投句してくる場合は、必ず原句も書き添えて下さい。
さて、今回の句ですが、「色盲の目に赤き花」というフレーズを活かしたいのならば、「は」という助詞は不要です。季語は「色とイメージから『鳥雲』」を選んだとのことですが、そこの感覚がイマイチ掴めないのですが……あくまでも「鳥雲」を取り合わせたいのならば、語順は逆でしょう。

添削例
鳥雲や色盲の目に赤き花
“ポイント”

ご予約はプロポーズかも嫁菜摘む

万里の森

夏井いつき先生より
「兼題写真から店側の目線で詠んでみました。以前叔父が飲食店をやっている時に呟いた一言です。『この予約客はプロポーズかもね』と。常連の方なのか、いつもと違う雰囲気を悟ったのかもしれません。季語は『嫁菜摘む』にしてみました。ここからは想像で、うまくいった際に店主から『これは「嫁菜」という春の菜です。今朝実家の近くで摘んできました』なんて説明があったら素敵だなあと。ちょっと想像しすぎでしょうか」と作者のコメント。

上五中七のフレーズは、イケます。ただ「嫁菜摘む」では、場面が動いてしまいます。季語を再考しましょう。
“ポイント”

「道子の絵」見れば見るほど生ビール

カムヤ イワヒコ

夏井いつき先生より
「高島屋で田中道子さんの第一位の絵を見せていただきました。中華にはやはり生ビールが最高。絵を写真に撮り、自宅でゆっくりと見ながらついつい『生』を飲んでしまいました」と作者のコメント。

京都高島屋の「プレバト才能アリ展」に行って下さったのですね。作者コメントを読むと、なるほどと思いはするのですが、俳句の字面だけを押さえて読むと、「道子の絵」を見ながら生ビールを飲んでる? と。時間経過を俳句で表現するのは、とても難しいのです。
“ポイント”

食卓に走り書あり夜寒かな

翁愁

夏井いつき先生より
中七を「走り書きある」とすれば、人選です。なぜ、そうなるのか。理由を考察してみましょう。
“ポイント”

卒業の朝いつものクロワッサン

鈴聖湖

夏井いつき先生より
一音加えて調べを整えましょう。「卒業の朝の」がよいですか? 「卒業の朝や」がよいですか。考えてみましょう。
“ポイント”

花生けの口に踏ん張る蜘蛛居りて

ゆきまま

夏井いつき先生より
「あまり生花を飾ることはないのですが、頂いたお花を生けようと、納戸へ花瓶を探しに行った時、これくらいかなと思った大きさの花瓶の口に蜘蛛が巣を張り、踏ん張っていました。取ってしまうのも悪いなあ、と思ってしばらく蜘蛛とにらめっこしてました」と作者のコメント。

「踏ん張る」と擬人化するよりは、淡々と描写したほうがリアリティが高くなります。人選は目の前です。
“ポイント”