写真de俳句の結果発表

第55回「食卓に花瓶」《ハシ坊と学ぼう!⑧》

ハシ坊 NEW

「食卓に花瓶」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

染められて名前を捨てた青き薔薇

風蘭

夏井いつき先生より
「私は1960年から1995年ぐらいまで、自宅でバラを50~60本栽培してた薔薇狂であった。地球上に、もし青薔薇があれば奇跡といわれていた。当時、青薔薇『ブルームーン』があったがライラック色であった。最近は、サントリーのゲノム操作で作出された『アプローズ』があるが、青薔薇とは程遠い。今は花屋には“本物の生きた名前のある薔薇”に、人口の染料や顔料で着色された青薔薇が売られている。私にはそれは空しい」と作者のコメント。

お気持ちに強く共感します。この内容を表現したいのであれば、中七「名前を捨てた」という方向にいくのではなく、染められた薔薇を徹底的に描写すべきだと思います。是非、挑んで下さい。
“ポイント”

雪柳八岐大蛇めき揺るる

夏井いつき先生より
「花瓶の白い花に、裏庭の育ちすぎの雪柳を思い出しました。風に、まるで生き物のようにいささか不気味に揺れています」と作者のコメント。

「雪柳」の揺れ方を「八岐大蛇」に喩えるのはユニークな比喩です。下五の表現は「~めける揺れ」とでもすべきでしょう。
“ポイント”

蕎麦屋の窓辺さんしゅゆの花盛

しげ尾

夏井いつき先生より
調べを微調整すれば、人選です。

添削例
お蕎麦屋の窓辺さんしゅゆ花盛
“ポイント”

陽を集め草木で染むや春ショール

飯沼深生

夏井いつき先生より
「岡谷吟行句会(DAZZAさん主催、里山子さん案内、万里の森さん、髙田祥聖さんという贅沢なメンバー)で、アドバイスをいただき推敲した句です 蚕糸博物館で見た、草木染めのショールの美しさをなんとか表現したいと思いました」と作者のコメント。

楽しそうな吟行会。有意義だったようですね。
さて、この句ですが、「~で染む」が散文的な書き方になっています。この場合でしたら、語順を逆にすれば〈春ショール陽をあつめたる草木染〉となります。更に、ワンランクアップを目指すならば、春ショールのどんな様子が「陽を集め」たように感じられたのか、そこを描写できるとベストです。
“ポイント”

テーブルに病院食と花二輪

翠雨

夏井いつき先生より
「病院に勤めていた時に、時々見かけた光景です。きれいな形のまま落ちた桜の花が、テーブルの上に置かれていることがありました。拾ってきたのはご本人なのか、ご家族なのかは分かりませんが、日本人にとって桜は特別なものなのだと再認識する瞬間でした」と作者のコメント。

「テーブルに」と書かなくても、「病院食」とあればそれが置かれたテーブルは想像できます。「花」は確かに桜のことですが、「花」は伝統的な装飾美、「桜」は生身の植物としてのイメージがあります。「桜二輪」と書いたほうが、この場合はリアリティがあります。これらのことを踏まえた上で推敲してみましょう。
“ポイント”

叢を蹴るつま先から紋白蝶

紅玉

夏井いつき先生より
「実体験より」と作者のコメント。

まさに実体験ですね。音数を調整し、調べを作り直してみましょう。
“ポイント”

リハビリパンツ交換白桔梗へ水をやる

猪子石ニンニン

夏井いつき先生より
「夜の介護の風景を書いたつもりですが……」と作者のコメント。

リアリティのある一句です。下五の助詞「を」を外して、「水やる」とすれば、人選です。
“参った”

食卓に旦那が活けた花の香

たらお051646497

夏井いつき先生より
「いつも、花なんか買わない旦那が花を買ってくれて、活けてくれたことが嬉しかったです」と作者のコメント。

俳句で「花」といえば「桜」を指します。たぶんこの「花」は桜ではないのでしょう。花のほとんどは季語になっています。それを季語として、推敲してみましょう。
“ポイント”

チューリップ喧嘩別れの帰路に散る

砂芽里

夏井いつき先生より
第53回『火の山公園のチューリップ』に投稿した〈チューリップ喧嘩別れの帰路に咲く〉を推敲しました。朝は咲いていたチューリップが、帰りには散っている。人の気持ちも同じように、短時間で変わるものだなと思いました」と作者のコメント。

むしろ、気分が近くなり過ぎました……。
“ポイント”

卓越しの白木蓮清し土曜の朝

京蛍

夏井いつき先生より
中七は極力七音にするのが定石です。推敲してみましょう。
“ポイント”

ビーカーに投げ込むリケ女花あやめ

竹庵

夏井いつき先生より
「リケ女」と書かなくても、「ビーカー」というモノによって、読者は想像し始めます。推敲してみましょう。
“ポイント”

銀婚や重たき花瓶遅き春

青山楽夢

夏井いつき先生より
「銀婚や」の切字で切れ、「~花瓶」の名詞で意味が切れています。三段切れです。このような場合は、どちらか一か所意味を繋げれば問題は解消します。「銀婚の」とすれば、ひとまず三段切れは回避できます。今回ご投句のもう一句も三段切れになっています。推敲してみましょう。
“ポイント”

食卓にミモザ一輪パンうまし

阿呆鳥

夏井いつき先生より
「ミモザ」という花の特徴を思うと、「一輪」という書き方に違和感を持ちます。
“ポイント”

十三詣バケツのぞいて百面相

そーめんそめ

夏井いつき先生より
「お詣り後、『賢そうになった?』とバケツの水に顔を映してた孫でした」と作者のコメント。

可愛いエピソードです。が、俳句の字面だけだと、なぜ「バケツのぞいて百面相」をしているのか、そこが伝わりません。むしろ「賢くなったか」と訊ねる子を描いたほうが良さそうですね。
“ポイント”

そろそろよね静かに待つは白い薔薇

大切千年たいせつせんねん

夏井いつき先生より
「最初、『そろそろね』としてましたが、以前句会で『〜ね』は強い『ね』と言われたことがあり、『〜よね』にしました。声に出して詠んでみましたが、自分は『ね』でも優しく思えるのですが……」と作者のコメント。

俳句は常にケースバイケースです。句会で指摘されたことは、その句に対してのもの。一句一句、最もよい表現を探っていくのが創作です。
さて、この句ですが、「そろそろよね」と何を待っているのでしょう? 白い薔薇が咲くこと? あるいは白い薔薇を飾りつつ、何かを、誰かを待っているのかも? とも読めるのです。作者ご自身が何を表現したかったのか、自問自答した上で推敲してみましょう。 
“ポイント”

還暦の食卓赤い薔薇の花

凛ひとみ

夏井いつき先生より
「六十歳の誕生日。中国大連に単身赴任中の夫から、六十本の赤い薔薇が届きました。お一人様暮らしの食卓に花を飾り、一人還暦パーティをしました」と作者のコメント。

素敵なエピソードですね。「薔薇」とあれば「~の花」と書く必要はありません。むしろ、「六十本」という数詞を書いてみましょう。その数詞から「還暦かも?」と読者は、想像し始めてくれます。更に、「夫」からのものであることも入れられるといいですね。
“ポイント”

おぼろの夜猪口へつぎたる養命酒

キャロット えり

夏井いつき先生より
「おぼろの夜」と「養命酒」の取り合わせ、よいですね。中七は必要ですか? むしろ、養命酒の味とか匂いとかを描写するほうが、季語を活かせるのではないでしょうか。
“ポイント”

夕立やあなたにLINE厨より

画 喜多文

夏井いつき先生より
微調整するとこんな感じにもなります。違いについて、考察してみましょう。

添削例
夕立やあなたへ厨よりLINE
“ポイント”

偏つて分け合ふサラダスイートピー

立川猫丸

夏井いつき先生より
「偏つて分け合ふ」とは、どんな状況なのでしょう?
“ポイント”