写真de俳句の結果発表

第55回「食卓に花瓶」《ハシ坊と学ぼう!⑨》

ハシ坊 NEW

「食卓に花瓶」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

断食へ据ゑる陰膳花ぐもり

紫すみれ

夏井いつき先生より
「私の幼いころ、おなかの弱かった父は時々断食道場に行きました。父が留守の間、母は食事のたびに父の席に陰膳を据えていました。元気に戻ってくるまで、若い母は心配だったと思います」と作者のコメント。

内容が少々複雑なので、これを全て十七音に入れ込むのは難しいかと思います。このエピソードを全て入れるとなると、短歌ぐらいの音数は必要です。俳句としてできるのは、父のいない食卓に整えられる父のお膳を描くところまででしょうか。
“ポイント”

小綺麗な離婚の場面クリスマスローズ

松本厚史

夏井いつき先生より
中七は極力七音にするのが定石です。例えば、「~の場面」を取れば、句またがりで、音数が整います。

添削例
小綺麗な離婚とクリスマスローズ
“ポイント”

爽爽と春風撫づる花卓に

葛西のぶ子

夏井いつき先生より
「『爽爽』は、秋の季語の『爽やか』に通じるので、春に使って良いのかどうか悩みました。学びの為に投句してみました」と作者のコメント。

そうですね、一読、秋の気分を感じさせます。その言葉の選択の是非もありますが、以下二点についても考察してみましょう。
①「花卓」という言葉も少々気になります。花を飾ってあるテーブルという意味でしょうか? 花を飾るための家具?
②「春風」とあれば「撫づる」はなくても、優しく吹いている感じは想像できます。
“ポイント”

ブランチに彩り添える桜草

高橋 誤字

夏井いつき先生より
「ブランチ」と「桜草」を取り合わせれば、「彩り添える」は書かなくても分かります。中七が説明になっているのです。この七音をどう使うか。創作は、ここからです。
“ポイント”

積ん読の埃を払う春の風

のりのりこ

夏井いつき先生より
「積ん読の埃」と「春の風」を取り合わせれば、埃が払われるだろうことは想像できます。「~を払う」の四音の使いかたによって、人選に手は届きます。
“ポイント”

ヤクルトの瓶に蒲公英乳ボーロ

種月 いつか

夏井いつき先生より
「ヤクルトの瓶」と「蒲公英」だけで一句になる材料はあります。「蒲公英」と「乳ボーロ」の取り合わせでも一句になりますので、この句材は二句に仕立ててみましょう。
“ポイント”

卓の灯に笑まふ小瓶の犬ふぐり

せんかう

夏井いつき先生より
こう書きたいお気持ちは分かります。この光景も可愛いですね。ただ、以下二点について、考察してみましょう。
①「笑まふ」という擬人化がどこまで効果があるのか。
②いくら「小瓶」とはいえ、茎が短くて細い「犬ふぐり」の花を挿すことは、無理がないか。
再考してみましょう。
“ポイント”

肩肘をついて眺める春の午後

サリー

夏井いつき先生より
「肩肘」ではなく「片肘」ではないでしょうか? 更に、俳句において「眺める」「見る」などの動詞は不要のことが多いのです。敢えて書く必要があるのか、そこを再考してみましょう。
“参った”

惜春や画鋲の跡を撫でる朝

瑞風

夏井いつき先生より
「惜春」と「画鋲の跡」の取り合わせ、とても良いですね。「~撫でる」まで書くと、季語「惜春」の想いに近づき過ぎます。ここは淡々と「画鋲の跡」を描写するだけで、「惜春」の想いが読者にまっすぐ伝わってきます。佳い句になりますよ。
“ポイント”

びいどろの扶郎花一輪の安堵

舞矢愛

夏井いつき先生より
「びいどろの一輪挿し。一輪挿しが好きな理由は、周りの花とのバランスを考えなくて良いこと。たまにただその一輪を楽しめるところが、好きだなあと感じた時の一句です(『扶郎花(がーべら)』と読ませたいと思います)」と作者のコメント。

「ガーベラ」と読ませたいのならば、片仮名で「ガーベラ」と書くべきです。「扶郎花」と書けば「ふろうか」ですね。漢字で書く必然性がどこにあるのか。そこはしっかりと考えましょう。
“ポイント”

春愁や交換日記を破いた日

孤寂

夏井いつき先生より
中七下五のフレーズに対して、季語が少し近いです。心情的な季語ではなく、映像のある季語を試してみてはいかがでしょう。
“ポイント”

花曇猫に取られぬ考の椅子

出雲のたみちゃん

夏井いつき先生より
「考」は、亡くなったお父さんを表す漢字ではありますが、本来ならば普通に「父」と書き、嗚呼、このお父さんは亡くなっているのだなと読み手に分からせるような句にすることを目指してほしいと思うのです。今は、難しいかもしれませんが、そんな俳筋力を身に付けることを一つの目標にしてみましょう。
“ポイント”

麦飯のこぼるるフォーク聖五月

うーみん

夏井いつき先生より
「上五中七に、どの季語を取り合わせるかで悩みました。『半夏生』も使ってみたかったのですが、『聖五月』の方が映像が豊かに見えてくるのではないかと思いました」と作者のコメント。

うーむ……作品として成立はしていますが、季語は更に動きそうな予感がします。
“ポイント”

嫁ぐ日や庭のカラーを生けにけり

みえこ

夏井いつき先生より
「や」「けり」と、切字が重なりました。どちらか一つを外してみましょう。
“ポイント”

雨上がりアボカド屋根に落ちて春

日月見 大

夏井いつき先生より
「あまり共感してもらえるシチュエーションでは無いかもしれませんが、昔住んでいた家の裏庭に大きなアボカドの木があって、春先に雨が降ると、屋根に実がボコボコと落ちてきて近所にも配ったものです」と作者のコメント。

とても面白い経験ですし、挑み甲斐のある句材です。情報量がどうしても多くなるので、この出来事を十七音に入れるのは、なかなか難しいのですが、いつか俳筋力ががっしりと身に付いた頃に、再挑戦してみましょう。
“ポイント”

鬱金香祝の膳はハンバーグ

紅 珊瑚

夏井いつき先生より
「初歩の質問ですみませんが、この場合の『鬱金香』は、『チューリップ』ではなく『うこんこう』と音読されるのですか? 広辞苑には『うこんこう』とふりがながされておりますが、もしコメントに書くなり、ふりがなをふれば『チューリップ』と音読が可能なのでしょうか?」と作者のコメント。

「鬱金香」と漢字で書けば、「うこんこう」と音読されます。「鬱金香」と書いて「チューリップ」とルビをふるのはお勧めしません。その場合は、片仮名で「チューリップ」と書くべきです。更に付け足すと、同じ花でも「鬱金香」と書いた場合と「チューリップ」と書いた場合は、表記のイメージが随分違います。一句の内容に見合う使いかたを考える必要があります。 
“ポイント”

水仙の花や気持ちをまつすぐに

逍遥遥

夏井いつき先生より
「水仙」と書けば、花が咲いている状態を指します。「~の花」と書く必要はありません。
“ポイント”

三月尽手帳楽しく退職す

清水縞午

夏井いつき先生より
「兼題写真から家族の爽やかな1シーンを思いました。『楽しく』とするか、手帳が埋まっている様を描写すべきかとも思いましたが、Tのリズムも楽しく、こちらにしました」と作者のコメント。

中七下五のフレーズは、面白いと思います。季語が説明になっているのが損。
“ポイント”

花一樹全き威風となりにけり

感受星 護

夏井いつき先生より
「桜の景色と言えば、やはり並木や沢山の木々に迫力があるのですが、時々桜の木がポツンと一本だけ見事に咲き誇っているのを見かけます。全国でも有名な桜の大木もあるようですが、道端の中小木でも綺麗で立派なものがあります。そのような堂々とした桜を表現してみたいと思いました。風にそよぐ桜に花片が舞い、枝がしなり、堂々と風と一体になっているイメージですが、散った後の桜の堂々とした佇まいの感覚も含んでいます」と作者のコメント。

「威風」という言葉を借りると、手軽に書けるのですが、ここはグッと我慢してみましょう。その「花一樹」のどんな様子が、「威風」であると感じさせたのでしょう。その映像を描写するのが俳句です。今、それが出来ないとしても、黙々と俳筋力をつけて、来年またその桜を観に行って下さい。毎年、その桜に挑むことで、自分の俳筋力を計ることができるに違いありません。
“ポイント”

家族四人今年も共に桜かな

中島タカシ

夏井いつき先生より
「家族四人」と書けば、一緒にいることは分かるので、「共に」は不要です。場合によっては、「かな」も不要になります。そうすれば、五音分の節約になりますよ。
“ポイント”