写真de俳句の結果発表

第55回「食卓に花瓶」《ハシ坊と学ぼう!⑩》

ハシ坊 NEW

「食卓に花瓶」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

荷ほどきの疲れ癒さむ卓に薔薇

えりまる

夏井いつき先生より
「癒さむ」と書かなくても、「荷ほどきの疲れ」と「卓の薔薇」があれば、その気持ちは伝わります。「癒さむ」の四音をどう使うか。ここが最後のブラッシュアップです。
“ポイント”

きのふけふヴァレーニキ食む夏近し

老黒猫

夏井いつき先生より
「『ヴァレーニキ』はウクライナの餃子のような料理です。レシピを聞いて、続けて食べてます」と作者のコメント。

「ヴァレーニキ」と「夏近し」の取り合わせはよいです。が、「きのうけふ」と説明する必要はありません。上五を再考してみましょう。
“ポイント”

食卓で対峙している愚痴と芹

蛙目

夏井いつき先生より
「食卓は家庭という名の宇宙の中枢という深い役割があり、悲喜交々が集約される場所だと思います。そして美味しいものを囲んで、それを忘れるところでもあります。芹鍋が食べたいというので、それを囲んでいたら、会社での愚痴が始まり、良いこと悪いことを吐き出す夫婦の食卓を詠みました」と作者のコメント。

書き方はちょっと散文的に見えますが、発想が面白い。上五を「食卓に」とすれば、人選です。
“ポイント”

フリージア祖母の最後のくさや食ぶ

天雅

夏井いつき先生より
「八丈島出身の友達がいました。フリージア、くさやが名産でよく頂いていました。父と私は大のくさや好き。友達のおばあさんの絶品くさやでしたが、もう廃業といわれ、頂いた最後のくさやは忘れられません」と作者のコメント。

二つの名産を盛り込みたいお気持ちは分かりました。が、俳句として考えた時、「フリージア」と「くさや」はお互いを殺し合います。「祖母の最後のくさや食ぶ」というフレーズを生かしたいのであれば、季語を再考しましょう。
“ポイント”

花冷や墨痕清し挨拶状

佐藤ゆま

夏井いつき先生より
「~や」の切字で切れ、「~清し」の終止形で切れてしまう三段切れです。中七を「~清き」と連体形にすれば、人選です。
“ポイント”

新婚の食卓眺む水仙や

種月 いつ奥井宣風か

夏井いつき先生より
下五「~や」の着地は、バランスが取り難いむずかしい型です。「眺む」という動詞が必要かどうかも含めて、語順を再考してみましょう。
“ポイント”

この時期は湿気にすらも春感じ

勺子

夏井いつき先生より
これは散文です。「この時期は湿気にすらも春(を)感じ(ます)」という文章になっています。例えば、湿気を含んだ春の季語に「朧」という季語もあります。再考してみましょう。
“ポイント”

がらんどうの麵すする音春愁ひ

肴 枝豆

夏井いつき先生より
「むなしく一人夕食、がらんどうと化した部屋に麺のすする音が響く。いつもは君と食卓を囲むのに……自分の心も、ある意味がらんどうとなる」と作者のコメント。

語順を再考してみましょう。「麵啜る音」から始めてみると、どうなりますか?
“参った”

会話などない食卓や薄暑光

真夏の雪だるま

夏井いつき先生より
「何となく、兼題写真の食卓が幸せそうに見えず、完全に暑くなりきっていない不快の手前にある、明るい光である薄暑光がとても合うと感じたため、こう詠みました」と作者のコメント。

上五中七を「会話なき食卓」とすれば、二音節約できます。俳句のおける二音は、まだまだやれる音数です。
“ポイント”

花曇り妣(ひ)の炊飯器を譲りし日

三毛猫モカ

夏井いつき先生より
「タイマー機能だけが利かなくなった炊飯器を、知人にお譲りしました。この句では音読みで『ひ』と読ませていますが、辞書では『妣』の訓読みは『なきはは』としか書いてありません。この漢字は『はは』と読ませることも可能でしょうか? たしか以前『プレバト!!』の中で、夏井先生が『はは』と読むことも可能だと仰っていたような記憶があるのですが……」と作者のコメント。

「妣」を「はは」と読ませることは可能ですが、俳句として目指すべきは、普通に「母」と書いて、それが亡くなっている母親であることが分かるように表現することではないかと考えます。そういう視点で、再考されてはいかがでしょう。
“ポイント”

Lien(愛犬名)停しだれ桜舞台整う

凛絆

夏井いつき先生より
「Lien(愛犬名)」というような表記は、俳句には馴染みません。犬なのだろうと分かるような描写を工夫する必要があります。
“ポイント”

素数の物差し一輪竹の秋

空素(カラス)

夏井いつき先生より
この場合の「一輪」は、一体何なのか? 少々解読に迷いました。
“ポイント”

鈴蘭や三種の証拠並ぶ卓

蜘蛛野澄香

夏井いつき先生より
「鈴蘭が飾ってあるテーブルに、(浮気などの)証拠を、3種類も揃えてあるシーンです。〈鈴蘭の卓へ三種の証拠かな〉→〈鈴蘭の卓へ三種の証拠投ぐ〉→〈鈴蘭の卓や証拠は三種類〉などと推敲しました。 提出句は、三段切れのタブーに該当するのでしょうか? 中七下五を一気に読むイメージです」と作者のコメント。

中七「三種の証拠」のあとに助詞が省略されているケースなので、三段切れという意味ではセーフです。「鈴蘭」と「証拠」という言葉の取り合わせはいけると思います。「三種」に拘る必要がどこまであるのか。そこは一考の余地がありそうです。
“ポイント”

マーガレット雨の予報や白き朝

すみだ川歩

夏井いつき先生より
三段切れになっているので、上五を字余りにして「マーガレットに」とするか、中七を「雨の予報の」とするかの二択でしょうか。
“ポイント”

無動作に活ける野花と珈琲と

津木 百合

夏井いつき先生より
「無動作」とは? 「無造作」の入力ミスかな?
“ポイント”

食卓の花であらます朝餉かな

野イチゴ

夏井いつき先生より
「花」は桜を指す季語です。食卓に飾った花は、なんでしょう。ほとんどの植物は季語になっていますよ。 
“ポイント”

陶芸体験の花瓶桜買う

風羽

夏井いつき先生より
語順を逆にすると調べが落ち着きます。

添削例
桜買う陶芸体験の花瓶
“ポイント”

祖母の椅子や春塵ひかる窓辺に

市子

夏井いつき先生より
「祖母の定位置だった窓辺に、椅子だけが今でも残っています」と作者のコメント。

語順を入れ替えると、調べが整います。

添削例
春塵のひかる窓辺に祖母の椅子
“ポイント”

蠅帳の浮くやおかずを並べ替え

折田巡

夏井いつき先生より
「食卓に花瓶のある風景が思い出せず、浮かんだのは幼い頃の蠅帳(折りたたみ式)の記憶。それも、端の小鉢が入りきっておらず、一部が浮いている蠅帳。押し込もうにも入らないので、おかずの小鉢や皿を並べ替えて入れた記憶です。『俳句は因果関係を嫌う』と夏井先生から教えていただきました。この句は因果関係でしょうか? 〈浮く蠅帳なかのおかずを並べ替え〉ならば大丈夫なのか。これも因果といえば因果のような気もします」と作者のコメント。

「蠅帳の浮くや」と映像を切り取り、後半で動作を描写していますので、この書き方ならば因果関係はそんなに臭いません。作者コメントからの言葉を借りるならば、「おかず」ではなく「小鉢」とすれば、更に映像的になりますね。
“ポイント”

夏暁や競ひてかほる白き花

円海六花

夏井いつき先生より
「夏の朝は、庭の花がよく香る気がして作った句です。草花を『白き花』として桜とは区別したかったのですが、やはり無理があるでしょうか?」と作者のコメント。

「夏暁」と主たる季語が置かれているので「白き花」は、桜ではないと読めます。惜しいのは「競ひて」という擬人化。ここは、描写に徹することで、季語「夏暁」をより主役として表現できます。人選を目指して、挑戦してみましょう。
“ポイント”