第55回「食卓に花瓶」《ハシ坊と学ぼう!⑪》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
竜天に登るや開幕の東京ドーム
ヒロヒ
夏井いつき先生より
「1分季語うんちく『竜天に登る』から作句しました。野球好きの正岡子規へ捧げる野球俳句第二弾です。ちなみに、ジャイアンツファンやドラゴンズファン向けに見えますが、私はタイガースファンです」と作者のコメント。
「竜天に登る」という季語の短いバージョンがあります。こちらを使うと、調べがよくなります。
添削例
開幕の東京ドーム竜天に
「1分季語うんちく『竜天に登る』から作句しました。野球好きの正岡子規へ捧げる野球俳句第二弾です。ちなみに、ジャイアンツファンやドラゴンズファン向けに見えますが、私はタイガースファンです」と作者のコメント。
「竜天に登る」という季語の短いバージョンがあります。こちらを使うと、調べがよくなります。
添削例
開幕の東京ドーム竜天に


汕頭のテーブルクロス新茶かな
はっしん
夏井いつき先生より
中七で意味と調べが切れてしまうので、下五の「かな」が生きていません。むしろ、「かな」を諦めて、調べを整えてみましょう。
中七で意味と調べが切れてしまうので、下五の「かな」が生きていません。むしろ、「かな」を諦めて、調べを整えてみましょう。


春愁モデルルームに造花五輪
琥幹
夏井いつき先生より
「兼題写真の、整い過ぎたテーブル、生活感のない様子からモデルルームかと思いました。外からの外光もあまり生気を感じられない、そのままを詠みました。『モデルルーム』を主としたかったので。助詞『に』にしました」と作者のコメント。
句材は良いですね。この場合は、「五輪」という数はあまり効果的ではありません。モデルルームに飾られている花が造花であるという事実だけで、十分に詩となります。最後のブラッシュアップに挑んで下さい。
「兼題写真の、整い過ぎたテーブル、生活感のない様子からモデルルームかと思いました。外からの外光もあまり生気を感じられない、そのままを詠みました。『モデルルーム』を主としたかったので。助詞『に』にしました」と作者のコメント。
句材は良いですね。この場合は、「五輪」という数はあまり効果的ではありません。モデルルームに飾られている花が造花であるという事実だけで、十分に詩となります。最後のブラッシュアップに挑んで下さい。


テレワークテーブルに一枝の梅
樋ノ口一翁
夏井いつき先生より
「テーブル」でも勿論、光景は描けるのですが、例えば「食卓」とするか「デスク」とするかで、より具体的になりますね。あとは、音数の微調整で完成します。俳句は言葉のパズル。挑んでみて下さい。
「テーブル」でも勿論、光景は描けるのですが、例えば「食卓」とするか「デスク」とするかで、より具体的になりますね。あとは、音数の微調整で完成します。俳句は言葉のパズル。挑んでみて下さい。


そつぽ向く薔薇ども鎮む一升瓶
馬風木瓜子
夏井いつき先生より
句材が面白いです。下五の「一升瓶」に薔薇を挿している? あるいは、「薔薇ども」の傍らで、酒を飲んでいる? そのあたりが少々曖昧なのが、惜しいです。
句材が面白いです。下五の「一升瓶」に薔薇を挿している? あるいは、「薔薇ども」の傍らで、酒を飲んでいる? そのあたりが少々曖昧なのが、惜しいです。


好きな子を聞いてみる春の子供食堂
安久愛 海
夏井いつき先生より
「もう少し若かったらやってみたいことの一つが子供食堂。子供たちがご飯を食べている間、得意科目はなに? 好きな子はいるの? などと話しかけるのかしらと妄想しています。色々作り直しましたが、どうしても字余りになってしまいました」と作者のコメント。
「子供食堂」のような七音の言葉を一句に入れる場合、中七にうまく入れるのがベストですが、それが無理な場合は、上五に字余りで入れるのが、ベターな選択です。その場合、中七下五で調べをきっちりと取り戻すのがベストですが、それが難しい場合は、十二音を守るのがベターな選択です。
添削例
子供食堂好きな子を聞いてみる春
「もう少し若かったらやってみたいことの一つが子供食堂。子供たちがご飯を食べている間、得意科目はなに? 好きな子はいるの? などと話しかけるのかしらと妄想しています。色々作り直しましたが、どうしても字余りになってしまいました」と作者のコメント。
「子供食堂」のような七音の言葉を一句に入れる場合、中七にうまく入れるのがベストですが、それが無理な場合は、上五に字余りで入れるのが、ベターな選択です。その場合、中七下五で調べをきっちりと取り戻すのがベストですが、それが難しい場合は、十二音を守るのがベターな選択です。
添削例
子供食堂好きな子を聞いてみる春


揚雲雀宝剣を早鞆瀬戸に
西瓜頭
夏井いつき先生より
「第53回『火の山公園のチューリップ』《並》〈春愁や早鞆瀬戸に宝剣〉この句を投句した瞬間に季語が違うんじゃないかなと思って、悔しかったので早速推敲しました。季語は『揚雲雀』がぴったりのような気がするのですが、どうでしょうか?? 最近は俳句を作っても何が正しいのか迷走中です。辛口で大丈夫ですので、ズバっと添削をお願いします」と作者のコメント。
季語が違うと感じた点に、共感します。「揚雲雀」を配すると、一句の世界に空間が生まれますね。佳い判断だと思います。後の微調整について、アドバイスを二つ。
「第53回『火の山公園のチューリップ』《並》〈春愁や早鞆瀬戸に宝剣〉この句を投句した瞬間に季語が違うんじゃないかなと思って、悔しかったので早速推敲しました。季語は『揚雲雀』がぴったりのような気がするのですが、どうでしょうか?? 最近は俳句を作っても何が正しいのか迷走中です。辛口で大丈夫ですので、ズバっと添削をお願いします」と作者のコメント。
季語が違うと感じた点に、共感します。「揚雲雀」を配すると、一句の世界に空間が生まれますね。佳い判断だと思います。後の微調整について、アドバイスを二つ。
①「宝剣」のアップから始めたほうが、最終的に季語が生きます。
②「宝剣を」となっているので、「早鞆瀬戸に」ではなく「早鞆瀬戸へ」かも? 「早鞆瀬戸に」が正しい意図ならば「宝剣は」となるのでは?


春愁や懐メロ聞こゆ椅子の上
ねこぱんだ
夏井いつき先生より
「~や」で切れて、「聞こゆ」で切れる三段切れです。下五「椅子の上」という表現も、座ってる? 何かが置いてある? ……と少々曖昧です。
「~や」で切れて、「聞こゆ」で切れる三段切れです。下五「椅子の上」という表現も、座ってる? 何かが置いてある? ……と少々曖昧です。


食卓に花と居座る花瓶かな
もっさん
夏井いつき先生より
俳句で「花」といえば、桜を指します。花の咲く植物は、季語になっているものが多いので、作者のイメージに合った季語を探してみましょう。
俳句で「花」といえば、桜を指します。花の咲く植物は、季語になっているものが多いので、作者のイメージに合った季語を探してみましょう。


御荼毘所や隅にひそめる牡丹百合
ひな野そばの芽
夏井いつき先生より
「第53回『火の山公園のチューリップ』でハシ坊に取り上げていただき、ありがとうございました。私自身は、四段活用自動詞の『ひそむ』に存続の『り』を接続したつもりでした。けれど、一目瞭然、とならないということは、だめということかと納得しました。が、口語と古語の混在、ということで取り上げていただいたのだとすると、自動詞四段活用、だとどうなのでしょうか。……と思い、改稿なしで再度投句してみます」と作者のコメント。
「口語と古語の混在」ということを指摘したわけではありませんが、なるほど「牡丹百合が隅にひそんでいる」ということを書きたかったということですね。作者の意図を理解した上で、更にアドバイスをするならば、この擬人化はあまり得策ではありません。「御荼毘所」の片隅に咲いている? 献花されている? 牡丹百合を描写することに徹底されてはいかがでしょう。
「第53回『火の山公園のチューリップ』でハシ坊に取り上げていただき、ありがとうございました。私自身は、四段活用自動詞の『ひそむ』に存続の『り』を接続したつもりでした。けれど、一目瞭然、とならないということは、だめということかと納得しました。が、口語と古語の混在、ということで取り上げていただいたのだとすると、自動詞四段活用、だとどうなのでしょうか。……と思い、改稿なしで再度投句してみます」と作者のコメント。
「口語と古語の混在」ということを指摘したわけではありませんが、なるほど「牡丹百合が隅にひそんでいる」ということを書きたかったということですね。作者の意図を理解した上で、更にアドバイスをするならば、この擬人化はあまり得策ではありません。「御荼毘所」の片隅に咲いている? 献花されている? 牡丹百合を描写することに徹底されてはいかがでしょう。


風光るびーどろの影万華鏡
和草雪月
夏井いつき先生より
「テーブルに置かれた津軽びーどろの一輪挿しの影が、万華鏡のようにきれいだったので詠んでみました」と作者のコメント。
「万華鏡」と書きたい気持ちはよく分かります。が、このような光景を万華鏡に見立てる句は、よくあるのです。その「影」のどんな様子が万華鏡に見えたのか、そこを描写してみましょう。ここが、踏ん張りどころですよ。
「テーブルに置かれた津軽びーどろの一輪挿しの影が、万華鏡のようにきれいだったので詠んでみました」と作者のコメント。
「万華鏡」と書きたい気持ちはよく分かります。が、このような光景を万華鏡に見立てる句は、よくあるのです。その「影」のどんな様子が万華鏡に見えたのか、そこを描写してみましょう。ここが、踏ん張りどころですよ。


走馬灯一人となりし椅子の主
金魚
夏井いつき先生より
「椅子というのは素敵な句材ですね」と作者のコメント。
そうですね、「椅子」という句材は詩になりやすい言葉ですね。「一人となりし椅子の主」という中七下五のフレーズですが、「一人」も「主」も人物の意ですから、このあたりの言葉の重複が少々損です。例えば、「○○○○○○○椅子ひとつ」として、椅子の存在によって人物を思わせる書き方をすることもできます。どんな椅子なのかを描写することで、その椅子の持ち主=座っている人がどんな人物なのかを想像させることも可能です。中七、楽しんで考えてみて下さいね。
「椅子というのは素敵な句材ですね」と作者のコメント。
そうですね、「椅子」という句材は詩になりやすい言葉ですね。「一人となりし椅子の主」という中七下五のフレーズですが、「一人」も「主」も人物の意ですから、このあたりの言葉の重複が少々損です。例えば、「○○○○○○○椅子ひとつ」として、椅子の存在によって人物を思わせる書き方をすることもできます。どんな椅子なのかを描写することで、その椅子の持ち主=座っている人がどんな人物なのかを想像させることも可能です。中七、楽しんで考えてみて下さいね。


花曇り今は運ぶ膳二つ
長谷川しゅるた
夏井いつき先生より
「子供たちが巣立ち、二人きりになりました」と作者のコメント。
中七が字足らずです。中七は、極力七音にするのが定石。中七下五の言葉の選択から、再考してみましょう。
「子供たちが巣立ち、二人きりになりました」と作者のコメント。
中七が字足らずです。中七は、極力七音にするのが定石。中七下五の言葉の選択から、再考してみましょう。


家元の家の前まできて涼し
野野あのん
夏井いつき先生より
「家元の家」と「涼し」の取り合わせは、妙なリアリティがあります。中七がやや説明的。さて、この句材を生かすために、最後の工夫とは!? ここが思案のしどころです。

