第55回「食卓に花瓶」《ハシ坊と学ぼう!⑫》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
事実婚粗卓も楽し百日草
あるがままん
「初めて同棲を始めた頃の部屋の景を想起しました」と作者のコメント。
「粗卓」と書かなくても、「事実婚」と「百日草」の取り合わせで、ある程度想像ができます。「事実婚の卓」と素直に書けばよいと思います。


終バスを人待ち顔のひこばえ花
ミワコ
「停車場近くの桜の木。満開を尻目に脇芽に咲く二、三輪に目がいきます」と作者のコメント。
「ひこばえ花」という言葉は少々強引です。「ひこばえの桜」とでも書くべきでしょう。中七「人待ち顔」の擬人化は陳腐になりがちですから、ここも含めて音数を整えてみましょう。


春眠しニセモノといふガレの壺
乃咲カヌレ
「友人がお祖母さんの相続品に、多くのガレの花瓶があったと話していました。その花瓶は本物のようですが、贋物も多く出回っていると聞きました」と作者のコメント。
中七下五のフレーズは出来ています。季語が動く可能性はありますが、上五の季語を「春眠」にしたいのであれば、「春眠や」「春眠す」と、切れをいれたほうが良いでしょう。


鶯や新し白き嫁の椅子
藤康
「息子が結婚し嫁がきました。同居ではないですが、居間に嫁の椅子を用意したことを描きました。〈鶯や嫁様の椅子新調す〉とも迷いましたが、椅子に焦点を当てたかったので、こちらを投句しました」と作者のコメント。
「新し」は「嫁の椅子」に掛かっていくのだと推測しますが、「新し」と終止形になっています。意味を繋げていくためには、「新しき」と連体形にする必要があります。そうなると、中七の音数が溢れてしまいますね。さあ、どうする?


くたくたてふ名の宇宙食みどりの日
白沢ハジメ(旧白沢ポピー)
「野菜をよく煮た『〇〇のくたくた』という料理が最近、美味しいと思えるようになりました。昔からある調理方法なのだろうけれど」と作者のコメント。
「宇宙食」と「みどりの日」の取り合わせは面白いと思います。作者コメントにある「野菜をよく煮た『〇〇のくたくた』」という視点は、また別の句として生かしてみてはいかがでしょう。


アムゼルもセンメル探す春日向
花乃香
「アムゼル」は、鳥? 人物? 一句としての評価を測りかねております。


つくばうや成人の日のきな粉棒
太刀盗人
夏井いつき先生より
「第52回『ハイカラ横丁』〈成人の日きな粉棒は当たり二度〉を推敲しました。六六五の調べはもたつくので、二句に分けてとのご指導いただきましたので、再考しました」と作者のコメント。
中七下五はフレーズとして落ち着きましたね。上五「つくばう」は、蹲う? ちょっとここが分かりません。


子らは発ち共に春愁老夫婦
静岩
下五に「老夫婦」とあれば、「共に」の三音は節約できますね。季語をゆったりと使うとすれば、こんな方法もあります。
添削例
子ら発ちて春の愁ひの老夫婦


花だより遠くに住む父想い出す
藤華靖麿
「遠くに住む父」と書いた段階で、想い出していることは分かります。俳句における五音は、一句の約三分の一。この五音をどう使うかが、作品の成否の分かれ目になるのです。


父の椅子空けて揃ふや春の暮
三日余子
「父が亡くなり、実家に家族が集まったものの、父の空いた椅子がいっそう淋しさを感じさせた光景を詠んでみました」と作者のコメント。
「揃ふ」が、少し分かり難くさせています。家族が集まるという意味を、はっきりと書いてみましょう。
添削例
父の椅子空けて集ふや春の暮


腹満たし母いぬ食卓春眠や
蛙手
「両親なき実家の掃除をして、食卓で持参したおにぎりを食べましたが、光の具合は育ったころと同じ安心感に包まれ、思わずこっくりこっくりした思い出です」と作者のコメント。
下五の「~や」は、バランスの取り難い難しい型です。更に、作者コメントには、三~四句の内容が書かれています。もう少し小さくちぎって、一コマ一コマ俳句にしていきましょう。例えば、こんな感じ。
添削例
父母おらぬ実家に春をうたたねす


緩和病棟のラウンジ春めきて
キッチンハイカー
「私の一番身近な、花が飾ってある場所です。しかし、音数が取られて漠然とした内容になっている気もして、心配しています。もう少し何の花なのか、どのような状況なのかを描写した方がいいのか? とも思いましたが、病棟に春の気配がきて、外になかなか出られない方々も楽しんでいる様子を詠みたく、投稿してみます」と作者のコメント。
「春めく」という時候の季語は、映像を持たない季語です。気配と気分は伝わりますが、漠然とした感は否めません。「緩和病棟」も「ラウンジ」も場所に関する情報なので、これを二つ入れると、十七音が窮屈になります。ここは「緩和病棟」だけにして、具体的な花を取り合わせると、春めいた気分が伝わりますよ。字余りになりますが、「緩和病棟」を上五に置いて、中七下五を考えてみましょう。


剪定す梅枝拾い暖の部屋
雪うさぎ
「剪定」を季語とするのならば、屋外の光景のほうが季語を生かせると思います。が、作者が表現したい意図が、イマイチ掴めない句になっています。何を主役にしたかったのでしょう?


休日の新婚のランチ愛でる花
永順
「まだお料理もうまく出来ないけど、頑張って作ったランチは見た目は良くない。花を見ながら幸せな食卓。季語が無い……」と作者のコメント。
俳句で「花」と書けば、「桜」を指します。この句、季語はあるといえばあるのですが、そういう光景を書きたかったわけではなさそうです。前半のフレーズを「新婚の休日」あるいは「新婚のランチや」として、後半を季語を含んだフレーズにしてみましょう。例えば「卓の○○○○○」、この○の部分に植物の季語を入れると、感じよい一句になります。


約束の道に胡蝶と我ひとり
柳翠
「第53回『火の山公園のチューリップ』の〈山の師の一周忌菜の花蝶に化す〉を、ハシ坊にて取り上げて頂きました。形骸的な印象とのご指摘でしたので、より具体的な場面で考えました。登山関係の言葉は季語が多く、蝶と合わせにくかったので、『道』として約束した頂きへ一緒に行けない悲しさと、いつもどこかで見守ってくれているような気持ちを詠みました」と作者のコメント。
原句の問題は、「菜の花蝶に化す」という季語が生かされてない点にあるだけなので、季語を替えることから考えて下さい。「山の師」は登山を教えてくれた方なのですね。推敲句は、どういう種類の「約束の道」なのか、読者には想像の手立てがありません。「山の師」という言葉は生かしたほうがよいので、「山の師の忌日や」を前半のフレーズにして、後半のフレーズに季語を入れてみましょう。


片付きて部屋の広さよ花一華
砂月みれい
俳句で「花」は、「桜」を指す季語です。「部屋」の中に飾った桜を「一華」と表現することに、ささやかな違和感を持ちます。

