俳句deしりとりの結果発表

第39回 俳句deしりとり〈序〉|「んご」③

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第39回の出題

兼題俳句

ットちゃんの破れ帯の本花林檎​  星埜黴円

兼題俳句の最後の二音「んご」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「んご」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

ンゴーーール!」とチリのアナ春暑し

あみま

んゴーーール」の肺活量後の涼し

マサオカ式ぉ村椅子

ンゴーール!沸き立つサポの桜咲く

慈庵風

ンゴールニッポン』号外打つ驟雨

うーみん

サッカー中継のアナウンサーさんの叫び。あの叫びの勢いがいいよねえ、興奮が迸ってる感じで。長音の数で音数を調節してるのがそれぞれ芸が細かい。
“良き”

んご んろく んななでしなる大縄の中へ

澤村DAZZA

こちらは大縄跳びの縄を回す感覚を一文字分の空白で表現。不思議と長縄って「ごーお ろーく……」じゃなくて「んごっ んろくっ……」て感じになるよね。音数的には「しなる」がなければぴったり十七音になるんだけど、あえてここは「しなる」映像を明文化しておきたかった、ってことなのかしら?

 

“ポイント”

んごめんね泣いて謝る春休み

クスノさとみ

んごめんほんとにごめん遅き春

牛乳符鈴

んごめんね水まく草にカエル飛ぶ

小川多英子

めん長々語る店うらら

しせき

ごめんねのバリエーション。《クスノさとみ》さんと《牛乳符鈴》さんは何回も「ごめん」を繰り返した、あるいは消え入りそうな「(ごめ)んごめんね」。二人とも取り合わせが「春」なあたり気が合いますね。出会いと別れの季節からくる発想なんでしょうか。一方《しせき》さんは軽い「ん、」の一拍。あら、と気づいたニュアンスですね。この読点を使った「ん、」シリーズは使いやすかったようで、他にもいろんなパターンが届いております。

“とてもいい“

格」居残りの跳箱へと西日

西川由野

格」母直伝の桜餅

瀬央ありさ

どちらもようやく合格~! って感じはあるんですが、片やへとへと感、片や達成感が色濃く感じられるのは取り合わせた季語の力でありますねえ。親からなにかしらの料理を教えてもらう場面は永遠の定番な類想ではありますが、下五で「桜餅」の鮮やかな桃色が提示される語順は的確。

“ポイント”

苦労。ボスより花の夜のプリン

千夏乃ありあり

プリン差し入れてくれるなんてめっちゃいいボスじゃん……! 「花の夜」をお花見の夜だと解釈すれば華やかだし、単純に花の盛りの頃の夜と解釈すればしっとりと労いが染み渡ります。個人的には後者の解釈をしたいなあ。世間では文末に「。」をつけることをマルハラなんていうらしいですが、この句では一言を率直に言い切る端的さが良いのよ。

“とてもいい“

ん五点っ?ずれた答案春暑し

あねもねワンヲ

ちょっと前にちいカワの草むしり検定模試でこんな話あったよな……。後半でずれちゃうならまだしも、五点となるとほぼ冒頭からずっとずれてたんだろうなあ……南無三!!
“良き”

敵庭の桜を見てをりぬ

キャロット えり

桜にはたくさん傍題がありますが、そのひとつに「家桜」というものがあります。いつきさんが『絶滅寸前季語辞典』で「家桜」について書いてるんですが、「庭の桜」もその一種と考えて良さそうですね。堂々たるお庭を構えたお宅の縁側で碁を打ってる場面を想像します。ふと気づくと、相手は勝負の最中だというのに物思いに耽るように庭桜を眺めている……なんて、それこそ明治時代の文学に登場しそうな場面じゃありませんか。シブいねえ。
“良き”

んごがねじゃ(動かないな)」佞武多の山車の車輪みる

伊沢華純

んごかねえ電ノコざけんなよ春日

かときち

んごきゃしねぇ花見渋滞てやんでえ

UVA桜

んごくなよ仔猫転がし毛玉梳く

真秋

んごくんじゃねー!とピストル リラの雨

杏乃みずな

訛りや方言っぽく「動く」が「んごく」と発音されてるシリーズ。《伊沢華純》さんは佞武多だけに青森の方言なんだろうか。正しい「う」ではない発音の荒々しさというか粗雑さに納得感を持たせるの難しそうだけど、佞武多は迫力ある取り合わせ。《杏乃みずな》さんの叫びは邦画の一場面っぽくて良いよね。強盗か、あるいは警察に包囲されてる犯人が人質とってる感じ。本当にこんな映画あるんだろうか。実は「リラの雨」がヒントになってたり?
“良き”

NGOと書く空港コード知多の春

蜘蛛野澄香

各空港には空港コードという識別名が設定されています。羽田空港だとHNDみたいなやつね。NGOってどこだろう、外国かな? と思ってたんですが、正解は中部国際空港だそうです。「知多」は愛知県の地名で、中部国際空港のある常滑市もこの知多半島の一部なんですね。「知多の春」が新しくこの地での生活を始める人の感慨を思わせます。
“良き”

ンゴちゃんとスペイン村と夏始

白発中三連単

んごちゃんや歌うスペイン村の蝶

欣喜雀躍

ンゴちゃんの両手にチュロス風光る

細川 鮪目

ンゴちゃんのお手柄薫風のパーク

七瀬ゆきこ

ンゴちゃんの出で立ち全て草萌ゆる

詠野孔球

ンゴちゃんの声は全てをうららかに

コンフィ

ンゴちゃんの声朗らかや桃の花

梅田三五

うーむ、ナニモノだ、ンゴちゃんって? なにやらスペインとかチュロスとかの単語から察するとスペイン関係の有名人なんだろうか??

調べてみるとVTuberの方だそうで、正しくは「周央サンゴ」さん。配信中に志摩スペイン村への愛を熱弁した結果、公式プロモーションやコラボイベントの実現までしてしまったという逸話が。すごいな!? 冥利に尽きるってもんだねえ。《詠野孔球》さん、《コンフィ》さん、《梅田三五》さんはスペイン村フィーチャーではなく普段の活動されてる姿を句にしようとした感じかな。いずれも春ののどやかな季語が選ばれているあたり、未視聴の僕にも人柄が伝わります。これもまた推し活冥利に尽きるというものでありますねえ。
“良き”

んごんきゆきゆワイパーゴムの冴返る

津々うらら

オノマトペの再現度が高くて好印象。ワイパーの微妙なひっかかり具合というんでしょうか、日々の聞き逃しそうな音の変化を捉えて記憶してるのがナイス俳人根性です。「冴返る」が雨を伴った寒気であると同時に、心理的な不快感も伝える取り合わせとして機能しています。
“良き”

んごっおっと気合い春山のチェーンソー

舞矢愛

このオノマトペも良かったなあ。紐を引いてエンジンを始動させる瞬間の力みと勢いが伝わってきます。「んごおっ」じゃなくて「んごっおっ」って促音がひとつ入るのがリアリティを強めてますねえ。春の山に轟くチェーンソーの音は気合いのままに何本の樹を切り倒していくのでしょうか。
“良き”

んごににほ足せば言葉の海に出る

ちえのわ

言葉遊びに強引に引込むような歌い出しが愉快。「んごにほ」……? あ、「にほんご」か! とわかると、普段日本語を操って俳句を楽しんでる我々俳人としてはニヤリと嬉しくなるのです。まあ、季語こそ入ってはおりませんが、この小粋さは買おうじゃあありませんか。
“良き”
第41回の出題として選んだ句はこちら。

第41回の出題

◯んご のヒントに知恵の実とある焼野かな

髙田祥聖

ここ三回ほど難儀な兼題が続きさぞかしみなさま苦心されたかと思いますが、その過程で頭の一音を巡る様々なテクニックが発見されていきました。《髙田祥聖》さんが使ったのは頭の一音のさらに前に省略された一音が存在する、と認知させる技。クロスワードパズルを思わせる「○んご」の表記や、続く一音分を明確な区切りとするための空白のスペースなど、通常の句作だと使わないような手法がちゃんと機能しております。

知恵の実で「○んご」とくれば、このクイズの答えは「りんご」でしょう。旧約聖書では知恵の樹の実を食べたことによって、アダムとイヴは善悪の知識を得たとされています。害虫を駆除し次に萌え出る草木の生長のために野を焼く、残酷ともいえるその火を眺めながら「知恵の実」について思いを馳せる状況が皮肉な詩として胸に刺さります。「かな」の詠嘆は作者自身の心にも、読者の心にも、抜けない棘のように感慨を残すのです。

ということで、最後の二音は「かな」でございます。 

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう! 
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

“とてもいい“