写真de俳句の結果発表

第56回「百日紅の名所」《ハシ坊と学ぼう!⑨》

ハシ坊 NEW

第56回のお題「百日紅の名所」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

紛争の止めば始まる百日紅

多数野麻仁男

夏井いつき先生より
「世界のあちこちで紛争が起きています。株立ちの百日紅の写真を見たとき、爆弾の爆発を連想し、悲しくなりました」と作者のコメント。

「紛争」と「百日紅」の取り合わせは、佳き詩を発生させます。中七、「止めば」は「紛争」ですが、「始まる」は……また紛争が始まることを言いたいのか、何か別なものが始まるのか。はたまた、百日紅が咲き始める? のか、微妙に曖昧です。中七を再考してみましょう。
“ポイント”

ハッカーも諦めたらし百日紅

雪椿

夏井いつき先生より
「ハッカーから、二か月続いて送金するようメールがあり、気味悪く思いながら無視していましたら、三ヶ月目には、メールがきませんでした」と作者のコメント。

「ハッカー」と「百日紅」の取り合わせは、意表を衝かれます。中七が説明の言葉になっているのが勿体ない。是非、推敲してみましょう。
“ポイント”

さるすべり四週間の口チャック

和脩志

夏井いつき先生より
「なお、今回のお知らせは『おウチde俳句大賞贈呈式』当日まで他言御無用に願います。この注釈がいと辛し」と作者のコメント。

ははは~! コメントは、受賞のお知らせメールの文面ですね。第七回「おウチde俳句大賞」部門優秀賞に入っていましたね。おめでとう! 参加者の皆さんと、今年も佳き時間を過ごしました。この日の模様は、YouTubeのアーカイブで視聴できます。来年も、松本楼で会いましょう!
“ポイント”

転宅や胴吹きの花指の上に

古乃池 糸歩

夏井いつき先生より
「『胴吹きの花』とは、桜の太い幹からいきなり咲いている花のこと。胴花。老木に多い。70年近く住み慣れた家を離れます。庭の桜の老木が、力をふりしぼり胴花を咲かせてくれました。屋敷も人も木も、皆年をとりました」と作者のコメント。

下五「指の上に」という状況が、イマイチ分かり難いです。
“ポイント”

百日紅フリルのドレスで零れ花

飯島寛堂

夏井いつき先生より
「百日紅」の咲き方に対して、「フリルのドレス」はよくでてくる比喩です。比喩に頼らず、描写する練習をしてみましょう。この花のどんな様子が、そのように見えたのか。そこを描写するのです。
“ポイント”

御巣鷹の白き朝の来百日紅

青田道

夏井いつき先生より
上五を「御巣鷹に」とすれば、人選です。
“参った”

水洟斬る真っ直ぐに姑娘の指

感受星 護

夏井いつき先生より
第49回『ブルガリアの道路』の投句〈姑娘(クーニャン)の指が切り捨てし水洟〉〈垂る水洟斬るは姑娘(クーニャン)の指〉〈水洟斬る姑娘(クーニャン)の指が指揮めく〉に対し、『指揮めく』という比喩は蛇足。描写に徹しなさいとのことでした。ありがとうございました。最後まで頑張ろうと思い推敲しました。『比喩が蛇足にならない』ためのアドバイスを頂けたら幸いです」と作者のコメント。

よくここまで辿り着きましたね。現状の句に使われているのは、描写の言葉。ここまでくれば、あとは語順の問題です。「姑娘の指」から始めてみましょう。中七「真っ直ぐ」は「真直ぐ」と促音を省きましょう。

添削例
姑娘の指が真直ぐに斬る水洟
“ポイント”

夫の名を墓石になぞり百日紅

睦花

夏井いつき先生より
「二月に夫を亡くしたので、しばらくは、その複雑な感情を俳句にこめて詠もうと思います。自分の気持ちとしっくり合う季語を見つけて、読み手に伝わる俳句を作りたいです」と作者のコメント。

一句一句詠んでいくことが、供養であり、残されたご自身の心の回復にもつながっていくことと思います。一つ一つ丁寧に言葉にしてください。中七ですが、「~なぞり」と動作に軸足をおくか、「なぞる墓石や」と焦点を絞るか。まずは二択が考えられます。
“ポイント”

講和果つ日の傾くや百日紅

閑陽

夏井いつき先生より
「講和果つ/日の傾くや/百日紅」 斜め線のところに意味の切れ目があるため、三段切れになります。(「果つ」動詞の終止形、「~や」詠嘆の切字)どこか一カ所を繋ぎましょう。
“参った”

九十九句目に散り尽きし百日紅

えりまる

夏井いつき先生より
「百日紅」の「百」に対して、「九十九句目」とする意図は分かるのですが、「百日紅」という花の性格を考えると、中七の表現には多少の違和感があります。
“ポイント”

百日紅や出窓に眠る白き猫

長谷部憲二

夏井いつき先生より
「上五は、『百日紅』だけだとぶつ切り感が強いので、敢えて『や』を入れました。百日紅の紅と猫の白との対比は気に入っていますが、もう一つ突っ込んだ表現ができないかと……」と作者のコメント。

敢えて「や」を入れたとのことですが、「百日紅(さるすべり)」なら五音、「百日紅(ひゃくじつこう)」と読めば六音。「百日紅や」としたほうが、ぶつ切り感が強くなります。たぶん、ここに書かれた情報は全て入れたいのだとは思いますが、「もう一つ突っ込んだ表現」を模索したいのであれば、
① 一単語削る。
②「白き猫」から始める等、語順を一考する。
この二点について考察してみましょう。
“ポイント”

百日紅読み方初めて知りました

小林弥生

夏井いつき先生より
読み方が分かったら、次は、季語の現場に出て行きましょう。実際の「百日紅」を観察するところから、季語との付き合いが始まります。
“ポイント”

百日紅紺の影揺れ雨傘に

天橋立右彩

夏井いつき先生より
「雨の日に傘がガサガサと何かに当たる。傘の中から振り返れば、紺の傘に映る百日紅が雨に揺れている」と作者のコメント。

なるほど、そういう映像を切り取りたいのですね。ならば、語順が逆かな。「百日紅」は下五でしょう。
“ポイント”

寄る影に振りむくたびの百日紅

鳥乎

夏井いつき先生より
「公園で来ないかも知れない人を待っている。百日紅が風で大きく揺れるたび、その影はもしやと……」と作者のコメント。

「寄る影に振りむく」動作と「百日紅」の取り合わせは佳いですね。残りの音数の微調整が、成否を分けます。
“参った”

陽疲れを秘して咲き継ぐ百日紅

前田いろは

夏井いつき先生より
「百日紅」が太陽に疲れている、という把握は面白いです。「~秘して」「咲き継ぐ」が必要かどうか、再考してみましょう。
“ポイント”

百日紅脱皮の土産いちメーター

銀髪作務衣

夏井いつき先生より
「以前、お隣の百日紅に見事な蛇の脱け殻が紐のようにぶら下がっていたのを思い出しました」と作者のコメント。

主役にしたいのは、「百日紅」でしょうか、一メートルに及ぶ「蛇の衣」でしょうか。自問自答してみましょう。
“ポイント”