第40回 俳句deしりとり〈序〉|「まれ」①

始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。


第40回の出題
兼題俳句
っかぽか ぽの音春に吸ひ込まれ 東風 径
兼題俳句の最後の二音「まれ」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「まれ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
マレーシアオオカブト対はたた神
三浦海栗


馬来西亜のブーゲンビリアよ影青し
真夏の雪だるま
マレーシア何もない首都仏桑花
みなごん
マレーシア高二の夏のひとり旅
へばらぎ
マレーシア産のカヤジャム朝涼し
有海無音
マレーシア椰子の実ランチの生ビール
みそちゃん
マレーシアキャラメルいっぱい買った夏
宙海(そおら)
マレーシアのとある食堂大夕立
金魚
マレーシアの果実熟す夏兆す
日進のミトコンドリア
マレーシアの婚礼甘蔗高し
常磐はぜ
マレーシアの地神の寝息めく雲海
江口朔太郎
そんな甘やかな熱気のイメージを備えたマレーシアですが、《江口朔太郎》さんは高所から俯瞰して描いています。調べてみるとマレーシアにはキナバル山という有名な山もあるようですが、登ってきたのかしら。地神の寝息のような雲海であるよ、と比喩することによって、マレーシアの木々と山とが放つ無数の水蒸気が生き物のようにうごめく様を想像させます。


マレーグマおっさん座りの春の昼
北川茜月
マレーグマおっさん座り盛夏の檻
有川句楽
マレーグマのあくび夏の日の揺らぎ
あなぐまはる
馬來熊の欠伸移るや雲の峰
木村弩凡
マレーグマの舌伸びやかに春の夕
小川さゆみ
熊は季語だけど、動物園にいるマレーグマは季感が薄いと考えて良いかしら。まさか日本に野良のマレーグマなんていないだろうしねえ。ヒグマなどにくらべてすらっとした体型や仕草が妙に人間くさく見えるのがマレーグマの持ち味であります。《北川茜月》さんと《有川句楽》さんは愛すべきおっさん座り姿がもろ被りしましたなあ、わはは。あくび勢では《小川さゆみ》さんの描写が特に魅力的。べろんと長い舌の動きがのどやかな「春の夕」に似合います。


マレーバクの鼻伸ぶ黒南風を嗅ぎて
泉楽人
マレーバク初夏の風知る丸き耳
岸来夢
マレーバクの白きひづめや春の泥
もりたきみ
白黒はっきりわかれた体色といい、伸びた鼻のもそもそ動く様といい、なにかとユーモラスな姿形が魅力的な句材になる「マレーバク」。耳やひづめってあんまり注目したことなかったけど、こうして身体の部位に焦点を絞った句を見ると新しい発見があって嬉しいなあ。初夏の風にぴくっと動く耳、春の泥に汚れていくひづめの白、どちらも良い取り合わせであります。


マレー象のぐわしやりと噛みくだく西瓜
にゃん


マレー語でlimaは5なんだ夏なんだ
佐柳 里咲
マレー語のコピはコーヒー夏の旅
ルージュ
マレー語のララは蛤ラララララ
片山千恵子


マレー対ジョコ炎帝の芝コート
ガジュマル新山
マレー対錦織若夏の全仏
風輝
マレー年間一位確定冬銀河(2016年)
たきるか


マレー沖海戦の夜初時雨
不二自然
マレー沖海戦十二月の波硬し
ノセミコ


マレーの虎や春の海見えずとも
オカメのキイ
マレーシアハリマオの夢夏の日差し
のぐちゃん
一人は陸軍大将である山下奉文。太平洋戦争時代にマレー攻略作戦を指揮した人物です。もう一人は「ハリマオ」の別名も持つ男、谷豊。マレー半島で惨殺された妹の仇をとるためにマレーで盗賊団に入り「ハリマオ(虎)」の異名で恐れられる首領となっていった、とのこと。うーむ、映画みたいな壮絶な話だなあ……。《のぐちゃん》さんの句は明確に後者だけど、《オカメのキイ》さんは判断に迷うところです。マニラで山下奉文が処刑されたのが2月23日であることを踏まえると、前者の可能性が高いかな?
〈②に続く〉

