俳句deしりとりの結果発表

第41回 俳句deしりとり〈序〉|「かな」②

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第41回の出題

兼題俳句

◯んご のヒントに知恵の実とある焼野かな​  髙田祥聖

兼題俳句の最後の二音「かな」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「かな」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

かなづちの派手なる浮き輪砂遊び

はなぶさあきら

カナヅチの子の二メートル風光る

鹿達熊夜

槌の克服へ先ず行水を

ガジュマル新山

こちらは泳ぎが苦手な人を意味する「かなづち」。ひらがな・カタカナ・漢字、と表記のバリエーションも様々です。《鹿達熊夜》さんの句はカナヅチの子が頑張って二メートル泳げた! という喜びの句でしょうか。「風光る」が見守る目線を思わせて優しい。
“良き”

カナヘビとトカゲしらべる夏休み

となりの天然水

かなへびとにいちゃんだけがみえるみち

青水桃々

かなへびを眺める撫でる夏休み

さく砂月

蛇のしっぽぽろんと花柘榴

藻玖珠

蛇の衣からませたまま走る

織部なつめ

蛇は蜥蜴か守宮か季語もなし

砂月みれい

かなへびも表記が分かれることの多い単語な気がします。それに加えて、季語として扱うかどうか? も歳時記によって差があるようで、歳時記に載ってないことが多いビミョーな存在。並んだ句にも迷いの片鱗が見てとれますねえ。
“ポイント”

カナリアの喉のやはらか薄暑光

翡翠工房

カナリアの高きトレモロ支倉忌

末永真唯

カナリアは憧れ薔薇の白屋敷

松本厚史

糸雀の饒舌に薔薇くづれさう

にゃん

俳句を始めたばかりの頃、読めない単語や漢字のオンパレードに驚いた人も多いんじゃないでしょうか。「金糸雀(かなりあ)」も俳人に愛される句材としてよく見かける単語ですが、その描かれ方はやはり印象的な声・音に焦点を合わせたものが多いようです。高音の美しい鳴き声がどのように発されているのか、その喉元へ焦点を絞る《翡翠工房》さんの描写+淡い光をもたらす季語の斡旋も上手い。「薔薇」との取り合わせが二句あるのも、季語との接点を考える上で興味深いですね。カナリアの気品ある姿が詩の接点となるのでしょうか。《にゃん》さんの句は音の波が薔薇を震わせて崩していくのではないか、という詩性が繊細で美しい。

“とてもいい“

沢のカナリア鉄鈷雲を鳴く

真夏の雪だるま

かなとこ雲の上で小鬼ら運動会

あなぐまはる

床雲の突起触れたし恋したし

広島じょーかーず

床の雲が雷鳴雹降らす

風花

こちらも様々な表記がありますが、いずれも同じもの。「鉄鈷雲(かなとこぐも)」は積乱雲が発達したものであり、季語としては「雲の峰」の傍題として扱います。Youtubeの夏井いつき俳句チャンネルにて、雲研究者の荒木健太郎先生とのコラボ企画・荒木健太郎杯を以前開催したのですが、兼題が「積乱雲または鉄鈷雲」でした。見応えのある鉄鈷雲の秀句が揃っておりますので、ぜひYoutubeにてご覧下さいませませ!(宣伝)

“ポイント”

沢の天守なき城夏の空

そうわ

沢の敷石濡らす夏の雨

大久保一水

沢は雨や天道虫円し

白沢ハジメ(旧白沢ポピー)

神奈川沖浪裏寒濤騒ぐ

白石ルイ

神奈川沖浪裏払い平野水

吉野川

金沢に神奈川、日本の地名に「かな」を発見した人たち……かと思いきや、実は後者は別物ネタ!? 「神奈川沖浪裏」とは葛飾北斎による冨嶽三十六景の内の一枚なのだそうです。遠くに描かれた富士の手前に、海の大波がそそり立っている図柄、といえばピンとくる人もいるんじゃないでしょうか。調べて画像見た瞬間にリアルで「これかー!!」って声でちゃったわ。毎度ながら、みなさんほんっとうに幅広い知識を武器にしりとりに挑んで下さるので僕の方が勉強になります。マジ感謝、ありがとう。
“とてもいい“

カナートの花嫁立ちて三日の月

鍋焼きうどん

これも今まで生きてきて、見たことも聞いたこともない風習でありました。「カナートの花嫁」とはイランで見られる風習で、カナートと呼ばれる地下水路の水量が減った際、カナートに花嫁を差し出して水量の増加と安定を図る、いわば雨乞い儀式の一種なのだそうです。日本の風習にも河川を鎮めるために人柱を捧げた記録が残されていますが、カナートの花嫁は水路に寝そべる、座る、などの任を果たした後は無事に共同体へと帰れるそうです。「立ちて三日の月」はまさに務めを終えたその場面かなあ。
“良き”

canal cafe - waiting in vain - fading rainbow

真秋

カナルへと続く細道夏の風

三日月なな子

まさかの英語俳句がきたな……。直訳すると、運河のカフェ-無駄に待つ-消えていく虹……って感じでしょうか。描きたい詩のエッセンスは悪くないと思うんだけど、英語俳句の評価って専門に学んだことないから自信が無いなあ。《三日月なな子》さんも「カナル」の光景。細道を抜けた先に広がるであろう運河の大景への期待が潜んでいるのが取り合わせの魅力。細い道に流れる夏の風は前方から吹いてくるのか、それとも背を押すように吹いてくれているのか。
“とてもいい“

しくて悲しくてなほ秋の朝

不二自然

しくてやりきれなさそうなのに春

砂糖香

しさはただそこにあり朧月

音睦

しみの心拍満ちて朝の凪

ぐわ

しみはゼロにならない金盞花

窪田ゆふ

しみをあやなす日々よ夏薊

細葉海蘭

「かな」の二音から「かなしみ」を連想した人も多かったようですね。「かな」の二音を繰り返す工夫に走る人もいれば、ザ・フォーク・クルセダーズっぽい人もいたりして。ネガティブマンな自分としてはこういう句材にはつい心惹かれちゃうというか共感しちゃう部分があるなあ。
“良き”

しみが金魚だつたら良いのにな

嶋村らぴ

しみは折りたたみましょかすみ草

江口朔太郎

しみはコーヒーゼリーの闇の中

千暁

しみは沈み目高の餌となる

九月だんご

しみの沈んで澱む底に鮫

馬場めばる

かなしみがしやらしやら積もりかき氷

梵庸子

かなしみに対しての独特な把握が魅力な秀句たち。実体を持たない概念に対して、自らの手で触れたり形を与えたり、具象化しようと試みています。いやあ、僕自身もなかなかだと思うけどさあ、みんな病んでない? 大丈夫? そのままの俺たちでいような!

《梵庸子》さんの句は「かなしみ」に対して光の分量や温度を備えさせる言葉の斡旋が魅力的。かき氷機が一回りするたびにしゃらしゃらとかなしみが削り取られて降り積もっていくのです。そして器に盛り上げられたかなしみへと甘いシロップがかけられ、透明だったかなしみは鮮やかに彩られる。美しいような、酷薄なような、味わい深い「かなしみ」の姿であります。
“とてもいい“

カナッペのパンを切り続ける遅日

コンフィ

カナッペの銀盆ならぶ夏館

巴里乃嬬

カナッペの麺麭の乾きや花氷

ゆりかもめ

パンを薄く小さく切ったものに様々な具材を乗せた料理が「カナッペ」。コース料理の前菜などに出されることが多いですね。《コンフィ》さんは厨房での仕込み、《巴里乃嬬》さん、《ゆりかもめ》さんは供される側からの描写であります。それぞれの臨場感があっていいねえ。特に《ゆりかもめ》さんは中七の詠嘆が上手い。手をつけられないまま時間が過ぎてしまったのかしら。飾られた「花氷」が華やかな空間を想像させると同時に、乾いた麺麭(パン)との取り合わせが空疎さも思わせます。    
“とてもいい“

かなちゃん家の洋酒の菓子と薔薇の庭

だいやま

花菜」てふ名の初孫遠く散らし鮓

実相院爽花

かな子には通じぬ誠意落ち葉散る

小川多英子

加奈と彼見つけし夏の失恋日

虎有子

佳奈じゃなく茉奈がレギュラー夏近し

鷹見沢 幸

リアルか架空か、人名シリーズ。人名も固有名詞の一種でありますが、架空の人名を考え出して句の登場人物にさせてしまう、というのもひとつのテクニックといえましょう。「かな」さんは表記のバリエーションも豊富だし「かな○」と一音足して違う名前にしたりするのもやりやすそう。《鷹見沢 幸》さんの句は双子で女優の三倉佳奈さん三倉茉奈さんかな? 昔連続テレビ小説『ふたりっ子』や『だんだん』が話題になりましたねえ、懐かしや。    

〈③に続く〉
“とてもいい“