俳句deしりとりの結果発表

第41回 俳句deしりとり〈序〉|「かな」③

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第41回の出題

兼題俳句

◯んご のヒントに知恵の実とある焼野かな​  髙田祥聖

兼題俳句の最後の二音「かな」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「かな」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

かなんかなん」逃げる子の背に水鉄砲

ひろ笑い

かなんなーミルクおまけのかき氷

小笹いのり

わんわ非売品値切るアロハ男

あねもねワンヲ

かなわんな夕立降って濡れネズミ

みなごん

かなわんわやんちゃ坊主と流しそうめん

つきみつ

口語の「かなわん」。「かなん」「かなんなー」は関西弁かな? お商売の値切りの場面で使ってるイメージですねえ。状況はわかるけど、そもそも非売品で売ってないものなのに売れと迫る、その上値切ってまできやがるのはさすがに無法だと思うの……バッシュ30円で買おうとした桜木花道じゃないんだからさ……。
“良き”

かなえられる夢はいっぱい吾子の夏

千代 之人

かなえるは少年の夢雲の峰

ねこじゃらし

うことなき夢や河骨へ雨

藍創千悠子

えてなお持て余す夢星涼し

瀬央ありさ

こちらは「叶う」。叶うとくれば、「願い」や「夢」とセットで登場することが多いのですが、どんぴしゃ「夢」の四句であります。抽象的で扱うのが難しいんだよねえ、夢とか願いとかってさあ……「夢」を使って名句作ってみろ! っていわれたら甚だ自信がない……。その点、《瀬央ありさ》さんの発想は意外性のあるものでした。叶えたあとの状況を句材にする手もあるのか、なるほどなるほど。「星涼し」が達観ともどかしさを良い塩梅にブレンドした心情を推察させる良い取り合わせ。
“ポイント”

カナを振る名簿入学式の朝

東風 径

かなもじのちらばるはるのつくえかな

ノセミコ

かな文字の筆のびやかに年明くる

日永田陽光

かな文字の命名札へ青葉風

ユリノキ

かな文字の連綿たどりつく新樹

ときちゅら

かなもじのふでのながるるごと蛍

那乃コタス

仮名をふる地球の本を蟻渡る

百瀬はな

仮名書きの遺言沙羅の花白し

清瀬朱磨

仮名振りて音読春の夜間校

友鹿

仮名文字の句に紛るるや昼の蝉

長楽健司

仮名だらけ子供に化けた春句会

かたじん

仮名文字の「ぬ」に宿るらし春愁

うめやえのきだけ

仮名の「め」の女めきけり立葵

日進のミトコンドリア

かな手本春雷「い」の字ふるわせて

海里

かな文字・仮名文字にまつわる発想も多かったですね。小学校や幼稚園を思わせるものから、雅やかな筆跡で綴られていそうなものまで、様々。《那乃コタス》さんのように、かなもじそのものではなく、蛍の軌跡への比喩として使った例もありました。《長楽健司》さんと《かたじん》さんは句会あるある? 意図的にひらがなだけの句を作った時にこどもの句と思われたりすることあるよね。《うめやえのきだけ》さん、《日進のミトコンドリア》さん、《海里》さんは文字の形そのものに注目した例。カギ括弧を句中に使うのは賛否ありますが、これらの句においては描く特定の対象を示すために必要な措置といえるでしょう。「ぬ」のくにゅっとした形って妙に心惹かれるものがあるよね。

“とてもいい“

切り声汗の親子は日常で

水間澱凡

切り声柱を羽蟻出でにけり

ゆすらご

切り声聞こえたような溽暑かな

閏星

切声から始まる火サス缶ビール

小川野雪兎

切声油虫殺り雄叫びへ

太井 痩

切り声炸裂海の記念日

どゞこ

再び金の字から始まるシリーズ。「金切り声」は六音なのが難しいところですねえ。多くの句が上五を字余りにして、中七下五で定型のリズムを取り戻していく型を採っています。唯一トータル十七音に収めているのは《どゞこ》さんの十音+七音からなる破調の型。「海の記念日」は「海の日」の傍題です。いったい金切り声をあげるなにが起こったのやら。海の記念日殺人事件、みたいな火サスばりの事件じゃありませんように。

“ポイント”

網や一発逆転のナイター

渥美こぶこ

網越しミスターの夏帽子舞ふ

感受星 護

網の食い込む両手沖縄忌

苫野とまや

網の中の兵士のサングラス

西村小市

網の大きく捲れ日の盛

森野みつき

網へ自転車倒れ油照

すそのあや

網を脊椎として濃紫陽花

千夏乃ありあり

それぞれの生活環境次第ではありますが、金網も身近な句材のひとつになり得るでしょう。《感受星 護》さんの句は、2025年6月に他界されたミスタープロ野球こと長嶋茂雄監督に捧げる追悼句でしょうか。ご冥福をお祈りいたします。描き方が特殊なものとして《千夏乃ありあり》さんの句も気になる存在。蔓性の植物が金網に巻き付いている取り合わせは時々目にしますが、「金網を脊椎」としている発想には初めてお目にかかりました。金網際で育っている紫陽花が自らの形成する毬形の内側に金網を取り込みつつあるんだろうか。金網、脊椎、濃紫陽花、と主張の強い三つの単語がお互いを殺し合わない形で一句に同居しているのが興味深い。
“とてもいい“

釘の錆びて棚落つ梅雨深し

佐々木棗

釘は使わぬ初夏の隅櫓

佐柳 里咲

釘流のメニューを壁に山開

もりたきみ

《佐々木棗》さんと《佐柳 里咲》さんは「金釘」、《もりたきみ》さんは「金釘流」。前者は金属製の釘を意味しますが、後者は罵倒の一種。金釘のように折れ曲がったへたな筆跡を意味します。金釘流とあざけりながらも、山開と同時に活況を呈し始める店への愛着が伺えます。《佐柳 里咲》さんの句には実在のモデルがあるのかなあ。隅櫓は文字通り、城郭の隅に立てた櫓のことで、物見や防御のための役割を果たしたようです。釘を使わず木組みで建造物を造る技術は存在しますが、お城マニアの人なら○○城の△△櫓がそうです! ってわかったりするんだろうか。もし心当たりある人いたら教えてください。
“良き”

仏のやはらかき膚山法師

くさもち

「金仏」は金属製の仏像を意味します。比喩的に、心が冷たくて感情に動かされない人を指す言葉でもあるようですが、この句はシンプルに金属の仏像と読んだので良いでしょう。山法師は街路樹にも植えられますが、個人的には山のお堂の側に生えた山法師を思います。山法師は花の頃を迎えているのかなあ。本来硬い金属であるはずだけど、経年による変化か仏像の姿が柔和な印象を与えるのか、「やはらかき膚」であるよ、という把握に対して「山法師」がなんとも穏やかな取り合わせ。
“とてもいい“

葎ただ一本の踏みし跡

はるを

葎破れしままの牧の柵

茂木 りん

葎妻の小言に眠れぬ夜

閑陽

葎実家じまいの見積書

めいめい

葎退院を待つ庭の夫

古み雪

葎フェスのシャツ着て来るカテキョ

うーみん

夏の季語「金葎」は野原や荒れ地に生える蔓性の草で、茎などにトゲを持ちます。夏には旺盛に茂りますが、冬に枯れた姿の哀れさは「枯葎」となり、こちらも季語になります。いろんなものに絡みつく生態のためか、あまり歓迎されるイメージの植物ではないですねえ。そのせいか並ぶ句も侘しさやもの悲しさを含んだ句が多い……のですが、《うーみん》さんの句だけは明らかに異質。自由だなあ、家庭教師! 案外こういう人の方が学校然としたやりかたじゃない方法でうまく教えてくれたりするのかしら。
“良き”

屑に鼻腔灼かるる油照り

ひな野そばの芽

一読、状況が伝わりにくいんだけど、妙に心惹かれた句。小学生の頃、通学路の脇になにかの工場があったんだけど、よくその敷地に鉋屑みたいな金屑が捨てられてたのを思い出しました。金属加工工場かなにかでの労働の実感でしょうか。「金屑」から始まる語順が、金属を削るけたたましい音をまず想像させます。湿度を含んだ油照りのじっとりとした太陽が照りつけ、散乱した金屑は足下でてんでばらばらに太陽を反射させるのです。鼻腔へ侵入してくる煮えたぎった工場の空気の震えまで感じられる迫力がお見事。
“とてもいい“

梃やぐぢりと軋む夏の果

平本魚水

この句も迫力があるなあ。「ぐぢり」が秀逸なオノマトペ。「金梃」は重量物の設置や移動に使われるそうですが、個人的に連想したのはなにかをこじ開ける場面。たとえば実家の壁や床板を解体のために剥がしたり、あるいは遺品の金庫をこじ開けたりだとか。体重をかけて破壊をもたらす瞬間の、まさに「ぐぢり」という感触が自分の腕の先に再生されてくるようです。物体だけでなく「夏の果」という時間と空間自体が後戻りできない一歩に軋んだかのような、読者の心にいや~な後味を残してくれる(※褒めてます!)秀句であります。
“とてもいい“
第43回の出題として選んだ句はこちら。

第43回の出題

糸雀の美しき黙かな女の忌

爪太郎

季語は「かな女の忌」。高浜虚子の弟子であり、女流俳句隆盛の先駆けとなった俳人・長谷川かな女の忌日です。金糸雀といえば、鳴いたり歌ったりといった動詞が登場するのがセオリーですが、この金糸雀は沈黙しています。鳴いてしかるべき鳥が黙っていることで、かえって金色の羽に包まれた喉元の静謐が美しく見えるのでありましょう。情緒的で瑞々しい句を多く残したかな女の忌に対して、金糸雀の喉がまた美しい音を奏でる瞬間を心待ちにするかのような「静」を描いたのが魅力でありました。

ということで、最後の二音は「のき」でございます。 

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう! 
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

“とてもいい“