第4回 俳句ラボ テーマ×季語で一句|ペットボトル×二百十日①
俳句ラボへようこそ
皆さんようこそ、俳句ラボへ。
各回に提示されるテーマと季語の発想をかけ算して俳句を生み出す研究所です。
組み合わせからどんな化学反応が起こるかは、あなた次第。
さぁ、実験を始めましょう。
第4回のお題
はじめに
俳句ラボでは三つの観点から見て、それぞれの分野ごとに上位句の称号を贈ります。
題して、俳句ラボの三つのフラスコ。
最もテーマに優れた句に贈られるのが「輝けるテーマのフラスコ」。
最も季語を際立たせた句に贈られるのが「輝ける季語のフラスコ」。
そして最もわけのわかんない未知の展開を果たした句に贈られるのが「珍奇なる謎のフラスコ」。
毎回、それぞれのフラスコを一句以上選んでいこうと思います。
さぁ、それでは実験結果を見ていきましょう。
輝ける「ペットボトル」のフラスコ
空にしてペットボトルを打つ厄日
ひかり棲む二百十日のペタロイド
「ペタロイド」とは、ペットボトルの底の形状のこと。炭酸飲料などのペットボトルに使われる特殊な形状で、炭酸によってかかる内圧を分散しつつ、安定して立つことができるそうです。こういう工学的な知識って大好き! 「ひかり棲む」は個人的にはペットボトルを掲げて、ペタロイドをのぞき込んでいる状況を想像しました。複雑な曲線を透かして見上げる二百十日の空の高さに秋を感じます。

七年のはじまる二百十日かな
一見「ペットボトル」を連想させる言葉がどこにもないけど、どこに出題との接点があるのか? 実は、今回の出題に対して、水の備蓄を描いた句がたくさん届いていたのです。中でも情報の思い切った省略の仕方が効いていたのがこちらの句。おそらくは防災備蓄の水を新しく交換したのでしょう。普通だったら「保存用の」とか「ペットボトルの水」とか、いろんな言葉を盛り込みたくなるものですが、説明の言葉を大胆にそぎ落として「七年」という数詞に託したのが効果的。「七年のはじまる」の淡々とした言い回しからの「二百十日かな」の決然とした着地、静かな迫力があります。
ちなみに通常の飲料水はもっと賞味期限が短いのですが、防災用の長期保存水は容器の工夫や充填方法の強化によって七年以上の保存が可能になっているそうです。たまには見直しましょうね、防災グッズ。

ペットボトルへ尿なまぬるき厄日かな
ゴミは尿厄日の高速出口ゆく
うーん、生々しい……(笑)。育児中のハプニングとしてはままある話だし、自分が子どもの頃にもやった気がしますわね。子どもの頃、愛南町にあるいつきさんの実家に帰るのに車で2時間半~3時間くらいかかったんだけど、幼児にはトイレに行くタイミングをちゃんと把握できない時があってデスネ。
《伊藤映雪》さんは方向を示す助詞「へ」の効果、ペットボトルごしに感じる「なまぬるき」のリアリティ、どちらも抜群に効いてます。一方、《佐藤儒艮》さんは「ゴミは尿」の即物的な把握が魅力。中途半端に液体の入ったペットボトルのぶれる重心が手の中に蘇ってくるようで。

濾過の砂利重たき二百十日かな
ペットボトル、切断さる! 面白い描き方を思いつきましたねえ。ペットボトル、切り分けられて濾過装置へと姿を変えております。小石、砂利、綿、木炭などを使ったお手製濾過装置の作り方、いざという時のサバイバル知識として覚えておいて損はないですね。発想の順序としては、台風の多い頃である「二百十日」から連想を広げていったのかと推察します。二百十日→台風→災害→災害時に役に立つ濾過技術……みたいな感じでしょうか。連想の結果に対して、砂利のリアルな重みへと思いを巡らせられるのが鍛えた俳人の俳筋力ってやつですねえ。

「ペットボトル」の試験管
タグ揺れるフリース二百十日かな
サマッケニコ
噴き上ぐる二百十日の炭酸水
沢 唯果
二百十日炭酸の泡ヅキヅキと
種月 いつか
二百十日の鳥よけとたとたとまはる
海色のの
二百十日や水の銘柄見比ぶる
みそちゃん
二百十日PETで作る浄水器
鹿達熊夜
猫除けや二百十日の糞糞糞
みずくらげ
備蓄せよ二百十日の水十本
中島 紺
ポカリ飲む二百十日のシャトルラン
咲葉
畔に置く二百十日のコカ・コーラ
藻玖珠
株元に転がる厄日の空ボトル
狐狸乃
みづとなる二百十日のウィルキンソン
明日ぱらこ
キャップはプラ二百十日の痴話げんか
坂本 乙女
二百十日一つ二つとモグラ除け
投野槍太郎
二百十日コーラの占める備蓄棚
和花
あらがえぬ二百十日に飛ぶボトル
つな山つな子
炭酸が暴れる二百十日かな
緑いんこ
二百十日いろはす一箱で生きる
留辺蘂子
二百十日のペットボトルは魚を吐く
内藤羊皐
棒立ちや二百十日のボルヴィック
うに子
水1トン二百十日の避難所へ
にゃん
備蓄する二百十日のみづ昏し
笑笑うさぎ
二百十日バファリンには天然水
加納ざくろ
カルピスごくごく二百十日の空
竹田むべ
二百十日柔きボトルの固き蓋
トウ甘藻
二百十日ペットボトルの中に雲
岸来夢
ペブシ飲む二百十日の不眠症
百瀬はな
二百十日の水のボトルがよく凹む
あなぐまはる
二百十日ぬるいコーラの甘ったる
立田鯊夢
生温きコーラあふるる厄日かな
武井保一
二百十日カレーに使う備蓄水
藤本花をり
いろはすと二百十日を飲み干して
雨野理多
二百十日経口補水液甘し
横山雑煮
厄日過ぎペットボトルの供花白し
白秋千
二百十日の備蓄に加ふ自句のお茶
窪田ゆふ
コーラ手に二百十日の夜に発つ
めいめい
二百十日ペットの中のレモン味
池田義昭
湧き水を二百十日のボトル受く
紫すみれ
給水や二百十日の新人戦
天風さと
ボトル鉢二百十日の根っこかな
山本八角
なまぬるき茶ボトル凹む厄日かな
佐藤さらこ
玄関に二百十日の水の箱
となりの天然水
ペットボトルのマラカスじゃじゃじゃじゃと厄日
三浦海栗
二百十日ペットボトルの渦ひとつ
ちょうさん
二百十日ペットボトルに空の色
日光月光
蓋固き二百十日のコカコーラ
句々奈
エヴィアンと二百十日の調印式
佐藤ゆま
ペットボトル跳ねた二百十日の坂を
卯之町空
十七ダース半のペットボトル洗ふ厄日
明 惟久里
二百十日ペットの蓋の縁間際
光猫ふう(早霧ふう改め)
けふ二百十日ボトルの中の雲
ひな野そばの芽
コーラの激しき氾濫二百十日
森ともよ
二百十日炭酸ボトルは手に温し
十合百合
二百十日ボトルの蓋を猪口として
白沢ポピー
あいさつ運動二百十日の温ポカリ
ズッキーニン
《②に続く》


スポーツの応援でこういう光景見かけますね。いまや日常生活に欠かせないペットボトル飲料。どこでも調達でき、比較的安価。手にしやすいからこそ、こんな使い道もあるんですねえ。会場の応援団が歌や音楽に合わせてガンッガンッガンッガンッ! とペットボトルを打ち鳴らす迫力は、初めて立ち会うとちょっと面食らうほどであります。自分自身が打ち鳴らしているならばペットボトルの触覚の印象が強くなりますし、応援団を観察した句だと読めば膨大な「ペットボトル」の物量がみえてきます。「空にして」だから飲み干したペットボトルで自分も応援に参加してると読みました。二百十日の傍題「厄日」が天候的にも試合の趨勢的にも不安な影を落としておりますなあ。