写真de俳句の結果発表

第71回「芒野と風車」《地》

地 NEW

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

第71回「芒野と風車」

地

第71回

切り岸の風しほはゆし芒の朱

巴里乃嬬

「しほはゆし」は「鹹映ゆし」という字が当てはまる形容詞。塩気が多い、塩の味がする、という意味になります。

「切り岸」は海へ面した崖でしょう。そこから吹き上がってくる風を、なんと「しほはゆし」ことかと吸い込んでいるのです。中七の軽い切れから、下五「芒の朱」と映像に展開するあたりが、さりげない巧さ。芒の艶々と赤みを帯びた穂の美しさに、見惚れてしまいました。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

紛い金溶く金臭き手の芒

若山 夏巳

「紛い金」が分からなくて調べました。純金泥は高価なため、安い代用金泥を使う場合があり、それを「紛い金」と呼ぶのだそうです。純金そのものには匂いがありませんが、紛い金には金属特有の匂いがするものもあると知りました。

「紛い金溶く」ですから、絵の具を溶いているのです。「紛い金」独特の金属臭が残る手で、美しい「芒」を折っているのでしょうか、どう描こうかと触れているのでしょうか。画学生か、貧しい日本画家か。「金臭き」手で愛でる「芒」は、どんな絵として描かれるのか。そんな想像も広げてくれる奥行きの深い作品です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

温かき骨に酸の香花芒

万里の森

親族の「骨」を拾う行為は何度か経験したことがあります。が、掲出句に出会うまで、あの場面でのこの感覚が「温かき骨に酸の香」であったとは、全く気づいていませんでした。今になって納得というしかない上五中七の措辞です。 

下五に取り合わせた季語「花芒」が、ほのかな風をも思わせて、巧み。故人を思う心にそよぐ花芒です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

鉄塔の放電音や曼珠沙華

田畑 整

鉄塔の近くを歩いていると、「ジージー」という音を聞いたことがあるなと思い当たりました。あれが、「放電音」なのですね。調べてみると、「小さな火花が発生する場合」もあるのだそうです。

足元に赤い花を掲げる「曼珠沙華」と、無機質な色合いにそそり立つ「鉄塔」。中七「放電音や」という詠嘆が、聴覚の楔のように効いています。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

放棄田のソーラーパネル大豆干す

理恵にゃん

もう作ることが出来なくなった「放棄田」には、「ソーラーパネル」が敷き詰められているのです。この地で、ずっと稲作を続けてきた人たちにとって、その光景は心に痛いものに違いありません。

自然の中に設置された人工物「ソーラーパネル」を横目に、今年収穫した「大豆」を干す。地方の農業の現状を、たった十七音で切り取った作品になりました。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

マチュピチュの石ころ倭の国の芒

水鏡新

「マチュピチュ」は、ペルーにあるインカ帝国の遺跡。対する「倭の国」は、日本を指す古い国名。世界の反対側にある二つの国を取り合わせるという発想も然る事ながら、「マチュピチュの石ころ」は、遺跡の石垣として積み上げられたものであり、「倭の国の芒」は日本人の美意識の象徴のようでもあります。悠々たる対句表現は、悠久の時間を讃えるような調べです。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

芒揺れる友が受け子で捕まった

右端ぎゅうたん

昨今の若い人たちが巻き込まれている詐欺事件。頻繁に報道されていますから、実際に「友が受け子で捕まった」という事実に遭遇してもおかしくないだろうなと受け止めました。

上五の「芒揺れる」は、一見ベタな取り合わせのようにも見えるのですが、案外、動きがたいものとして座っているのではないかと判断しました。口語のリアリティが一句を支えます。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

美浜原発の温排水に釣る小鯵

深草 空

「美浜原発」は福井県にある原子力発電所。「温排水に」の「に」は、それが排出されている辺りにという意味でしょうが、下五「釣る小鯵」によって、場面が展開します。淡々とその場のありさまを書いているだけですが、釣り上げた小鯵を眺めつつ、胸中に複雑な思いもあるのだろうなと想像させる点が巧みな作品です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

脱稿の手を秋風に冷ましをり

かときち

長編小説でしょうか、同人誌の類いでしょうか。「脱稿の手」と具体的に書いたことで、映像が確保できました。その「手」を「秋風」に「冷まし」という行動が、書き続けた苦労や筋肉のこわばり等を想像させます。「をり」は、ささやかな時間の経過を含む表現。その時間と空間に吹く「秋風」は、書き上げた爽快感そのものでありつつ、終わってしまったというささやかな淋しさも入り交じっているのかもしれません。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

名ばかりの国道秋の風強し

ボイス&フィンガー

「名ばかりの国道」という表現で、この国道の貧相な幅や整備状態がありありと伝わってきます。「秋の風」を上五か下五に置いて、「名ばかりの国道」の部分を十二音にふくらませる選択肢もありはしますが、むしろ「秋の風強し」と、季語に軸足を置いた表現を工夫したのも的確な判断です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき