第5回 俳句ラボ テーマ×季語で一句|無人駅 × 金木犀④
俳句ラボへようこそ
皆さんようこそ、俳句ラボへ。
各回に提示されるテーマと季語の発想をかけ算して俳句を生み出す研究所です。
組み合わせからどんな化学反応が起こるかは、あなた次第。
さぁ、実験を始めましょう。
第5回のお題
珍奇なる謎のフラスコ
自己犠牲たとへば岨の金木犀
木犀やカミミハナシタ公衆便所
この文字面、いったいなに……? カムサハムニダ的なことば? 韓国語よくしらないしわかんないよ……。
と、あれこれ検索することしばし、ふと閃く。これひょっとして「カミ ミハナシタ」=「神見放した」……ってコト!? わかんないよ! わかんなかったよ!!
たぶん、誤解を招くのは「や」の部分だけはひらがなだからなんでしょうねえ……。時々、独特のニュアンスを表現するためにカタカナ書きする句にはお目にかかりますが、意図をもってカタカナ書きする部分と、それ以外のひらがな書きとが連続するとこんな困惑が生まれるとは。これはこれで興味深い実験結果(?)。

金木犀きつぷ金木犀きつぷ
内容自体には謎はないんだけど、単純なリフレインで構成された句を堂々とお出しする思い切りの良さが個人的に好き。金木犀がぽろっと落ちて。きっぷがぽとんと札箱に落とされて。次の人も、その次の人も……ってな感じの光景でしょうか。単純ながら、これはこれで一連の場面が動画化されていて味わいがあります。
じゃあなんで謎のフラスコに? って話なんですが。理由を言語化するとしたら……表現したい内容の軸足がどっちにも傾いていないから、でしょうか。作句意図も文字面も、「無人駅」にも「金木犀」にも等分に力が分散されていて、どちらか片方の分類に仕分けてしまうと反対側からの齟齬が出てしまうのです。こんな天秤を完全に中央で止めるような真似ができるとはねえ。盲点を突かれた思いでありますよ。

「謎」の試験管
人ひとり食われる駅や金木犀
紅紫あやめ
木犀に酔うてきさらぎ駅の夜半
句々奈
金木犀あの駅で人消えるらし
馬場めばる
線路の音金木犀の周波数
蔵豊政
透明人間になる駅金木犀霏霏
苔間きい
金木犀虚無の器と二人きり
柑青夕理
手がかりは最後のことば金木犀
いまい沙緻子
電車賃貸してしまひぬ金木犀
小林浮草
金木犀バキュームカーは年に一
投野槍太郎
無人駅木犀こぼれ愚者を引く
嗚呼 みこえ
金木犀改札ぬける半魚人
藤井士南樹
妖怪を背に途中下車金木犀
右乃浜風
金木犀小惑星に町の名が
ジュクトマト
育休の初日のマフィン金木犀
坂野ひでこ
取引は0時に駅や金木犀
小笹いのり
切符売らぬ猫金木犀いかが
立田鯊夢
キセルせし小鬼のあくび金木犀
帝菜
金木犀香る無人駅の伝説
源五郎
姑娘とはぐれ彷徨ふ金木犀
長良くわと
木犀の花>駅利用者
藤本花をり
明日こそはごめんと言はむ金木犀
ゆきみ
暗闇か恋か金木犀の香か
亘航希
ロボットのけふの体臭金木犀
水越千里
金木犀夜の本殿すでに閉ぢ
佐藤さらこ
エウロパの駅舎へ金木犀降れり
三浦海栗
駅近は三キロ先の金木犀
欣喜雀躍
駅員は金木犀の精らしく
田原うた
金木犀あの台むかしむかしの切符切る
沼野大統領
あの人は行った金木犀香った
一井かおり
午後四時の決闘金木犀の風
ひな野そばの芽
金木犀記憶にひとりヘッセ読む
清水ぽっぽ
タクシーは遅し金木犀遠し
頭痛餅
東京は義眼ばかりぞ金木犀
白沢ポピー
ということで、第5回俳句ラボはここまで。
さあ、次回はどんな輝きに出会えるでしょうか。来月もまたお会いいたしましょう。



個人的に自己犠牲って概念は好きというかなじみ深いというか、受け入れやすいんだけど、謎なのは中七以降。金木犀って自己犠牲にたとえられるものなんだろうか? 特にこの句においては「岨の」って条件付けが重要そうなんだけど……愛でられずに岨の下に落ちていくばかりの金木犀が不憫、とか? それに無人駅ってテーマとの関連は?? だれか山岳駅を拓くにあたって人が犠牲になったとか、そんな逸話でもあるのかなあ。うーん、明確な答えにはたどり着けないんだけどなんだか気になる句。