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【第3回 おウチde俳句大賞】贈呈式 レポート・当日投句の部 特別賞

2021年9月18日 東京・日比谷の松本楼。

第3回「おウチde俳句大賞」の贈呈式が行われ、約
50名の皆さまにご参加いただきました。

夏井いつき先生より選出された、 部門別優秀賞
24作品・最優秀賞6作品が発表され、
参加者による鑑賞や議論を経て「大賞」が決定しました。

また「クローゼット」をテーマに当日投句、 特別賞を贈呈しました。
 
 
 
 



西田月旦:父は2年前に亡くなったのですが、晩年は、病院とかに行くぐらいしか用事がありませんでした。実家に行くと、父が薬局に薬を取りに行くときに辛夷が咲いていると話すわけです。また散っていく辛夷の様は汚くてね……ただ、その言葉がずっと心に残っていたので詠みました。

夏井:「薬屋」「辛夷」「父」という質素な材料ですが、この句が皆さんの共感を集めるというのが、まさに「おウチ俳句大賞」だと思います。作者の実感がちゃんと字面の中に入っているから、多くの人の心を打つんですね。薬屋や病院に行くぐらいしかやることがない父。母は、なんだかんだお買い物をしたり、近所のお友達とかとつるんだりできるんだけど、父というものは、静かにそこに居るものですね。そういうことがしみじみと胸にくる作品です。

 

 

しみずこころ:受賞が嬉しすぎて、句を作ったときの記憶がとんでしまいました(笑)!

夏井:はい、良いと思います(笑)! この作品には、どこにも冷蔵庫情報が書いてあるわけではないけれど、「右の下」から「麦茶」が出てきて、その「場所」が伝わらないというだけで、映像が浮かんできます。麦茶の位置と、そこに(使えない)人物がいるという、ただそれだけのことなんですが、人間関係から作者本人の日常のモヤモヤまで、きちんと伝わってきます。「おウチde俳句」は、まさにこれで良いのです。こういう日常のささいなことが目に留まり、それを書くことを覚えたら、一生、家の中だけで楽しく俳句が作れますから。

 

 

夏井:「靴べら」という物のリアリティですよね。確かに玄関出たときに、土がカピカピだと思って、指でかき混ぜたり草をひいたりするときがあるけれど、靴べらを使うということで、作者の出で立ちが見えますね。ある男性が自分でこの動作をしたのか、それとも送り出す奥さんとかが「また靴べらでかき混ぜて……」と見ているシーンなのか、わからないけれど、実際に見た人でないと作れない句です。しかも「建国日」をよく選んだなと思います。

石井一草:投句の中で一番、実体験が込もっている句なので、受賞できて嬉しいです。子供の頃の体験です。祖父が農家で、父が造園業だったので、玄関前に空いている鉢がたくさん転がっていました。土いじりの真似事のように、よく遊んでいたんです。近くにあった靴べらがスコップに似た形なので、代わりにひっくり返せそうだなと思ったときのことを詠みました。なぜ「建国日」にしたかというと、最初に実体験からの12音はできたんですけど、似た形のもので代用できるというところから発想がとんで、ちょっとした発想やアイディアがいろんな発明につながって、そういう積み重ねで、この国ができているんだろうなというイメージから、取り合わせました。

 

 

 



夏井:「子規の句」であることの意味合いを、きちんと皆さんが読み解いてくださっていて嬉しいです。あみま一家は、いつき組の中では有名なご一家ですね。お嬢さんの幸の実ちゃんのおかげで、あみまさんも俳句を始めたんですよね。私の印象だと、一番父ちゃんが下手でしたが……今回よく受賞できましたね。この作品は本当のことなの?

あみま:この句は事実です。やはり実体験は大事だなと思いました。僕が家族の中で下手なのは間違いないですね……。松山に住んでいると俳句が身近にあるので、ラジオを聞いたりして俳句を始めるようになりました。松山に「子規さん俳句かるた」があるんですけど、せっかくなので子規の句を覚えたいなと思って、それを大きな紙に出力して、トイレの壁中に貼っています。さらに、俳句には娘の幸の実と奥さんのめぐみの樹と一緒にイラストを描いて、トイレに入るたびに眺めながら、楽しく覚えています。

 

 

雪うさぎ:5年ほど前に、肺の病気で45日ほど入院して、体重が7キロぐらい落ちました。退院し、酸素ボンベを引っ張りながら生活したときの実感句です。夏井先生が出演されている「プレバト‼︎」や、NHKなどのテレビ番組を初回からずっと見ていて、自分なりに勉強はしていたのですが、作句も投句もこの句が初めてです。

夏井:本当に実感として説得力のある強い句です。「癒えし身に」という状況だけでなく、「湯の圧力の」と続く……本人の体験がないと出てこない言葉です。最後の「ずしり冬」の思いが、読み手にも乗っかってくる感じがします。 初めての俳句とは、スゴイです。雪うさぎさんは「プレバト俳人」ですね。ぜひこれから「おウチde俳句くらぶ」でも、一緒に頑張っていきましょう!

 

 

おこそとの:この句は友人の話です。久しぶりに会ったときに、シングルだと聞いて……なかなかうまくいかないね、と話していたのを思い出して詠みました。

夏井:「シングル」はベッドだけではなくて、おひとりさま、という意味も含めると思うと、「枯野」がなおさら悲しみに満ちてきますね。「ダブルからツインシングル」という、詩の言葉でも何でもないものを長々と続けておいて、最後に「なほ枯野」。その言葉だけで、人生が一気に現れてくるようです。「枯野」という季語の力はすごいですね。

 

 

 

特別
  • 喪の服は父の肩幅けふの月

    小池令香

  • ぺしやんこの喪服秋気へさらしをり

    田中木江

  • 箪笥より出づるポルノよ子供の日

    多喰身・デラックス

  • スリップでかけるアイロン朝寒し
  • シュリ

  • 被服室のトルソー紅葉且つ散る

    東京堕天使

  • ハンガーへかけた秋思は不言色
  • 小川さゆみ

  • 秋桜や行く宛のない旅鞄

    たまのねこ

  • クローゼットに仕舞ふ昨日のオリオン座

    衷子

  • 龍淵に潜む今日着る服がない
  • 山本先生

  • 月の雲ナルニア国のぼうけんへ

    原水仙

  • 十六夜やブラのたたみかた 検索

    後藤麻衣子

  • ネクタイはエルメスばかり暮の秋

    小だいふく

 

特別賞の賞品は、夏井いつき先生の生まれ故郷・愛媛県愛南町様よりご提供いただきました、
河内晩柑ストレートジュースと湯あがりゼリーセット(株式会社季節園)を贈呈いたしました。

ありがとうございました。

■ 愛媛県愛南町 HP

■ 株式会社季節園 HP

 

第2部は公式YouTubeにてアーカイブ配信中です。
 

 

昨年に引き続き、 新型コロナウイルス感染症対策を講じての開催となりましたが、 皆さんと楽しい時間を共有できたことをありがたく思います。 

第1回目の「おウチde俳句大賞」表彰式は、 令和元年5月1日に開催しました。 
まさに令和が始まるその日に、 ここ、日比谷・松本楼で集いました。 

その時の日比谷公園の花壇には、 青いネモフィラの花が一面に咲いていて、 それはそれは素敵な場でした。 

そして毎年、その青いお花が咲く頃に、 皆さんとお会いする会にしたいと願っていました。 

このような会のことを、 私の師・黒田杏子は「定点観測」と呼んでいますが、俳人たちは、毎年、同じ時期に、同じ場所に来ても、同じものを見るわけではないのです。 来るたびに、新しいものをちゃんと見つけて、俳句にする。 

ぜひ来年も、またこの場所で「定点観測」をしたいと思います。 

そのためには1年かけて、おウチで俳句を作るしかありません。
抽選参加券はなかなか当たりません。 抽選は確率ですが、入賞は実力です。 
自分の頑張った分だけ確率は高くなりますから、 また1年、「おウチde俳句くらぶ」でコツコツ学び、俳句とともにある人生を、一緒に楽しんでまいりましょう。 

私も皆さんの投句を真剣に受け止めています。 本当にありがとうございました。

夏井いつき

 

 

たくさんのご感想、お便りをいただきました! ありがとうございます。

いつき組長、正人さん、夏井&カンパニーの皆様、朝日出版社の皆様、先日の「第3回 おウチde俳句大賞贈呈式と懇親の集い」へ出席させて頂きありがとうございました。会場では、弱視の私をスタッフの方が優しく席までご案内して下さり、他にもお心にかけて頂きました。重ねてお礼申し上げます。そして同じテーブルの方々(俳号をいつもお聞きしたり目にする方々)にも、優しく接して頂き大変嬉しかったです。コロナ渦の中で、この会を安全に開催して頂いた皆様のご尽力と楽しい時間を頂戴したことに、感謝申し上げます。今後も「おウチde俳句くらぶ」で俳句を勉強して参りますので、よろしくお願い致します。今は「チーム裾野」ですが、いつか優秀賞の句が作れますように。

小川さゆみ

おウチde俳句大賞、YouTubeで楽しく拝見させて頂きました。実は私、贈呈式の当日に日比谷・松本楼まで行ったんです。5月に入会するまで、おウチde俳句大賞の存在さえ知らなかった私ですが、先生やお仲間の皆様にお会いしたく、7月の参加募集に応募しましたが、抽選に外れてしまい、それでもせめて当日、松本楼でお茶でもしたいと行ったのですが、まさかの改装休業中。おまけに超雨女の私、松本楼に着いた時には、バケツをひっくり返した様な雨。立ち去り難く、暫く松本楼に入って行かれる方を羨ましいなあと眺めていました。完全に不審者ですね(-.-); 日比谷公園を出た途端、雨が小降りになりました。俳句を始めて凄く楽しいのですが、周りに誰も俳句やってる人がいないので寂しいです(◞‸◟) 句会等に参加すると良いと言いますが、先生の句会ライブは人気で、なかなか抽選に当たりそうにないですよね。来年は頑張っておウチde俳句大賞に応募します!まだ俳句と言える様なものを作れない私ですが、入賞された方の中には、経験の浅い方もいらっしゃり勇気を貰いました。入賞するまで頑張るぞ〜と大それた目標を立てた1日でした。という訳で、夏井先生、くれぐれもお体に気をつけて、この先何十年もご指導よろしくお願いします(^人^)

三月兎

いつき組長、おウチde俳句くらぶの皆様、いつもお世話になっております。先日の第3回 おウチde俳句大賞にて、〈右の下麦茶の場所も伝わらぬ〉で、二位という素晴らしいプレゼントを皆さまからいただいたにもかかわらず、句について語る事ができず、すみませんでした。ここならば、語れる(笑)実は大賞発表の日、いつも、組長の出演されている「ギュッと!四国」の俳句コーナーを楽しみにしている主人の両親に「今日、夏井先生が選ぶ俳句大賞があって、私も出るからYouTube見てね!」と喜んでもらえると思って、始まる前に連絡をしたのです!私は、まさか麦茶の句が入選しているとは思わず、前日からお風呂部門と寝室部門に投句した句についての語りを反復練習してました(笑笑)だから、麦茶の句がしかも、最終六句(部門別最優秀賞)に選ばれているのを見て、麦茶俳句の主役である旦那ではなく、義父、義母のガッカリした顔が浮かんできて、ギャー!ワー!ヤバ〜‼︎とあたふた。そしてなんとかYouTubeで語る事を回避できないかと必死で考え、あんな事になってしまいました。それでは、麦茶の句についてですが……主人に「麦茶どこ〜」と聞かれた時に、私は子供達の喧嘩を止めていたので、「右の下〜」と答えました。そうすると主人から「右の下ってどこ〜」と聞かれたので、子供達と喧嘩してた勢いそのままに「はぁ〜⁇ 逆に聞くけど、どこの右下探したら麦茶出てくると思う⁇冷蔵庫以外に無いやろー‼︎」と言い返してしまった。という場面です……もちろん、普段なら麦茶くらい私が入れてあげます!でも、麦茶が入れてあげられる状態では無かったのです‼︎なのでこの句を作る時に、いつものモヤモヤを「も」という言葉に託し、作った勢いで投句しました。組長に上手になったね、と言っていただけて、皆さまに温かい拍手をいただけて、本当に幸せでした。俳句始めて良かったです。

しみずこころ

夏井先生、家藤先生、こんにちは。おウチde俳句大賞贈呈式のライブ配信を拝見致しました。コロナ禍での状況下にあったおウチde俳句は、想像以上のスケールを超えたものが選出され、感動を覚えました。作品を囲み、読み手により、吟味され、付け加えられてゆくストーリーに、巧みなスキルを放つオーディエンス。次々と塗り替えられていく心の動きを実感しました。そして、大賞の《西田月旦》さんの作品に涙が溢れました。それは、自分だけでは感じ取れなかった、他者からの選評があったからこそだと思います。愛媛の地で、昭和の時代を生きたお父様と作者の知り得ない日常を垣間見れて、己に置き換え、今となって、親子の会話をこの胸に思い返したいと思います。季語と愛する御家族を併せ持った、素敵な句に出逢えました。受賞者の皆様、本当におめでとうございました。普段、目にする俳号の方々のキラキラとしたお顔を拝見出来て、清々しい気持ちになりました。

小山美珠