写真de俳句の結果発表

第56回「百日紅の名所」《天》

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評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

第56回「百日紅の名所」

56

 

早退の記憶が百日紅だけだ

ぞんぬ

 

「早退」は学校でしょうか。小中学生ぐらいならば親が迎えにくるのでしょうが、それ以上の年齢ならば自力で家に帰ろうとしたのかもしれません。勿論、職場からの早退も考えられます。

何か具合が悪い。ひとまず早退を、と思っているうちに急に高い熱が出てきたのかもしれません。一体どうやって自宅に戻れたのか、はたまた病院に辿り着けたのか、全ての「記憶」がぼんやりとしているのです。振り返ると、途上で一瞬見た「百日紅」の花だけが記憶に残っているのだ、と。

この手の句について、季語が動くのではないかという指摘は当然きます。が、一読して、季語「百日紅」が強いリアリティをもって置かれていることに感じ入ります。

「記憶」に残るあの日、枝の先端に群がり咲く「百日紅」のちりめん状の花は、ゆわんゆわんと熱風に揺れていたのでしょう。幹はてらてらと暑い太陽に濡れていたのでしょう。己の体温と己の周りの空気が同化するほどの温度だったのかもしれません。

「~が~だけだ」という口語の呟きは、作者の心の中でリフレインされる記憶の断片。「百日紅」を見る度に、蘇ってくるあの「早退の記憶」。作者にとって抜き差しがたい季語として「百日紅」という花が存在していることが、この作品の動かしがたい魅力となっているのです。

“夏井いつき”