俳句deしりとりの結果発表

第40回 俳句deしりとり〈序〉|「まれ」②

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第40回の出題

兼題俳句

っかぽか ぽの音春に吸ひ込まれ​  東風 径

兼題俳句の最後の二音「まれ」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「まれ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

典の切手の褪せて終戦忌

中岡秀次

典の名を持つ祖父の敗戦忌

東九おやぢ

典忌あめつちむすぶ鎖樋

白猫のあくび

マレスケの虹」を子らへと終戦忌

小鳥ひすい

不思議と「まれ」から始まる単語では戦争と関わりのあった単語が多く出てきまして。「希典」は陸軍大将乃木希典でありますね。松山市民には馴染みの深い小説『坂の上の雲』(著:司馬遼太郎)にも描かれた日露戦争・旅順攻略の司令官を務めました。なお《白猫のあくび》さんが使っている「希典忌」は九月一三日。「あめつちむすぶ鎖樋」の淡々とした描写が静かで硬質な悼みを思わせます。

ちなみに《小鳥ひすい》さんの「マレスケの虹」は乃木希典に関係するのかはちょっと現時点で僕にはわかりません。というのも、これは2018年に出版された森川成美さんによる小説のタイトルのようで、ハワイに移住した日系二世の少年「マレスケ」を主人公にしたお話しなのだそうです。第二次世界大戦期の話のようですが、乃木希典とは関係があるんだろうか? いつか読んでみたいなあ。
“良き”

人の手を引く春の眠りかな

亘航希

人の猛る囲炉裏の昏きかな

星埜黴円

人(まれびと)のゐるらし風の麦畑

古都 鈴

人を追い出し一人食む氷菓

松虫姫の村人

人は蜘蛛の囲の界抜け光る

納平華帆

まれびとの網戸にすけておはしけり

西野誓光

まれびとや仮面へ首夏のうすぼこり

山内彩月

まれびとや白き小さき花榊

宮古綟摺

来客あるいは訪れる神を表す言葉であります。稀人、客人、まれびと、表記によっても多少印は変わりますが、特に「客人」は咄嗟に脳が「きゃくじん」と読み替えてしまうと神々しさが八割減。《松虫姫の村人》さんの句なんて完全に厄介払いした直後の空気ですもん。《西野誓光》さんの句は人間か非人間かの絶妙なわからなさを「網戸」の遮りが見せてくれてて好感触。
“ポイント”

に見る好青年ね夏料理

湯屋ゆうや

まれにみるかさばらぬ愛青嵐

うに子

まれに見るまともな助言ソーダ水

田原うた

「まれに見る」=そうそうお目にかからないもの三選。「好青年」はやや安直ではあるけど「夏料理」との取り合わせは状況を推察させる力が十分あって気持ち良い。《うに子》さんと《田原うた》さんは、「かさばらぬ愛」「まともな助言」という実態のない概念の捉え方がそれぞれちょっと皮肉で個人的に好み。季語もそれぞれにからっと爽快でグッド。

“とてもいい“

まれまれの花びら刺繍春日傘

幽香

造語かと思いきや、本当に「稀々(まれまれ)」は辞書に載ってる言葉でした。きわめてまれであるさまを表す形容動詞・副詞だそうです。知らない日本語ってまだまだ山のようにあるんだなあ。「花びら」は刺繍の模様とも読めるし、主たる季語は「春日傘」と考えるべきでしょうか。

それはそれとして、「花びら」「春日傘」で俳号が《幽香》さんとくると、某シューティングゲームシリーズを彷彿とさせますな。花映塚、全キャラクリアするまでがチュートリアル感あるのすごいよな。

“ポイント”

府の駅舎吹きぬく風青し

つきみちる

府の廃校の庭枯柏

青井季節

府岳検索してみる立夏かな

夏の町子

北海道伊達市の町で、南稀府町、中稀府町、北稀府町が存在しているようです。アイヌ語の「イマリマリフ」を由来とする名だとか。また、「まれふ」ではなく「まれっぷ」と読む場合もあるようで、「稀府岳」を調べると「まれっぷだけ」と出てきました。《夏の町子》さんの句では音数的には「まれふだけ」と読んだ方が上五には収まります……が、中八になってることも鑑みれば、あまり厳密に音数を意識してはないのかもしれません。「まれっぷだけ」って名前の響きが楽しげ。スキップしたくなる軽やかさ。
“とてもいい“

まれ血追う鬼に一太刀鬼走

どこにでもいる田中

ふふふ、僕の趣味狙いだね? 届いてるよ、その気持ち! 「鬼」が入ってる季語探して無理矢理「鬼走」ってくっつけた気持ちも全部伝わってる、うん。

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』、2025年7月18日(金)上映開始!! みんな絶対観に行こうな!!! 煉獄さんの映画こと『無限列車編』しか観てないんだけど、って人も大丈夫! 一緒に劇場で情緒をぐっちゃぐちゃにされよう!
“良き”

マレフィセントの報われぬ愛竜の玉

家守らびすけ

マレフィセントの翼の行方五月雨

天風さと

マレフィセントの恋知る茨の花

のなめ

マレフィセントは悪くないのだ榾焚べる

ぞんぬ

マレフィセント涅槃図の右下にゐる

コンフィ

こっちは鬼じゃなくて魔女。「マレフィセント」はディズニー映画『眠れる森の美女』に登場する悪役として有名……ですが、2014年にはそのマレフィセントを主役にした『マレフィセント』(ロバート・ストロンバーグ監督)が発表されています。一回しか観てないから記憶があやふやですが、マレフィセントという人物を別の角度から描く新解釈だった気がする。句の内容からすると、この2014年版以降のマレフィセント像を元にみなさん句を作ってる感じでしょうか。……それはいいんだけど、涅槃図の右下にゐるのはさすがにウソじゃない!? あんなでっかい邪龍みたいなのいたら釈迦驚いて飛び起きるわ!
“とてもいい“

マレットのリズムほよよん目借りどき

ぴん童子

マレットの憩ふ木琴愛鳥日

翡翠工房

マレットの糸八十回巻き夏来る

草深みずほ

マレットの重さ知らずや夏の蝶

内藤羊皐

マレットの弾む軌跡や夏来る

松本厚史

マレットの転げてシへとそぞろ寒

甲斐杓子

マレットの撓り薄暑のビブラフォン

梅田三五

マレットはシロフォンを跳ね春を跳ね

雨野理多

マレットを2拍子で巻く毛糸かな

ユリノキ

「マレット」は木槌のこと。クロッケーなどのスポーツでも球を打つのに使いますが、一般的には打楽器を打つ道具としての認識が強いでしょうか。並んでいる句も音楽系の物が多い。《梅田三五》さんの「ビブラフォン」などはドンピシャですね。個人的には《翡翠工房》さんの意外な方向への取り合わせと、《松本厚史》さんの演奏中の映像をスローで収めたような描写が好きだなあ。
“とてもいい“

マレンコフの任期短し時計草

一生のふさく

なんとかコフっていうとソ連のイメージ。調べるとビンゴでした。「マレンコフ」はソ連の政治家で、スターリンの死後1953年に首相となったものの、55年に辞任、57年に政治的に失脚したそうです。ふーむ、たしかに任期短しでありますなあ。上五中七に対して「時計草」が近くはあるのですが、へたに感傷的な季語に流れるよりは、後世の人間が俯瞰して評価しているような淡々とした効果はあるのかもしれません。仮に「大夕焼」とか「夏の星」みたいな方向にしちゃうと未練がましく感情移入しちゃいそうだもんなあ。
 
“とてもいい“

マレーヴィチの四角の白き冬来る

留辺蘂子

マレーヴィチの正方形に冬の蠅

うーみん

マレーヴィチの肖像冬の蠅死ぬ

はしま

ソ連の画家……と紹介していいのかなあ……キーウ近郊の生まれであり、ウクライナ・ソ連(当時)の画家と表現するのが正しいのかもしれない。抽象絵画を多く残しており、代表作に『黒い正方形』などがあります。『白の上の白い正方形』という作品もありまして、《留辺蘂子》さんや《うーみん》さんがイメージしてるのはこれかなあ。取り合わせとして三人中二人が「冬の蠅」を選んでるのが興味深い。晩年は不遇の時代を過ごしたらしく、そのやりきれなさからくる季語のチョイスなんだろうか。画家を題材にした句って読み解き方が難しいなあ。

〈②に続く〉
“とてもいい“