写真de俳句の結果発表

第64回「砂漠のホテル」《地》

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評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

第64回「砂漠のホテル」

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瓜食むや火焰山まで五十キロ

坂野ひでこ

「瓜」は食料であり、水分補給の目的もあるのでしょう。「瓜食む」というある意味日常的行動に対して、「や」と詠嘆する意味が、中七下五の状況によって分かってきます。

このような句材に巡り会ったのも、作者の実体験とのこと。
「三十年前に中国・ウルムチとトルファンを旅したことを思い出しました。どこに行ってもお茶ではなくて、瓜でもてなされ、バスの休憩でも瓜が出されました。甘い瓜でした」

瓜を食べ終われば、残り五十キロを無事にたどり着けるよう願いつつ、再び出発するのです。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

月蝕へ漏るる駱駝のげっぷかな

井納蒼求

「月」と「駱駝」の取り合わせは、非常に沢山ありました。どうしても「月の沙漠」の歌の世界を脱けきれないものが多い中で、リアルな「駱駝のげっぷ」を描いたのが、凡人を脱出できた最大の理由。しかも、空では月蝕が始まっているのです。「月蝕に漏るる」という詩語が、妖しい気配を醸し出します。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

春愁に飢ゑて駱駝の瘤硬し

トウ甘藻

「駱駝の瘤」を句材にしたものも多数ありましたが、この句は「瘤」の硬さの理由を詩的真実に求めました。

言われてみると、駱駝の貌ってどこか愁いを含んだ感じがしますが、「春愁に飢ゑて」いるから駱駝の瘤は硬いのだという詩的因果関係が、作者ならではの発想として生きています。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

海市の火追ひかけて又このホテル

ま猿

「海市」とは「蜃気楼」のこと。海市に点る灯を追い、あそこまで行けば町があるのだとひたすら歩いて辿り着いてみると、「又このホテル」の前に立っているという、ファンタジーホラーのような一句です。「又」の一語がこの位置におかれて、上五からの展開を意図通りに結着させる。作者の力量を褒めたい作品です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

キャラバンの駱駝もしゃもしゃ月を喰う

ヒマラヤで平謝り

「月」と「駱駝」を取り合わせた句は、それはそれは沢山ありましたから、「キャラバン」「駱駝」、さらに「もしゃもしゃ」とくれば、このまま凡人の穴に吸い込まれていくのだろうと、読み手としても油断してしまいました。ところが、下五でいきなり「月を喰う」とくるのですから愉快。ひょっとすると、駱駝たちは夜のうちに水分を含んだ月を食べているから、砂漠でも生きていけるのかも。そんな詩的妄想も楽しませてもらいました。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

月光をくちゃくちゃ駱駝は夜笑う

ノセミコ

「月光をくちゃくちゃ」とありますから、月光を食べているのでしょうか、反芻しているのでしょうか。一体誰が? という読者の疑問には答えず、後半は「駱駝は夜笑う」と呟く展開に、強い独自性があります。

言われるみると、「駱駝」って夜にひそかに笑ってそうな貌付(かおつ)きに見えてくるから不思議。言葉の魔力に納得させられた一句です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

沢蟹の這い出すホテル水のにおい

六月風マンダリン

「沢蟹」は夏の季語。沢蟹が這い出してくるホテルですから、近くに谷川か水場があるような場所なのでしょう。ホテルのロビーや廊下を沢蟹が歩いている。こんな山のホテルであれば、「水のにおい」もしているのだろなと実感できます。

今回の投句の大多数が砂漠や熱砂の句でしたので、こんな涼やかなホテルの句にも惹かれました。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

バスタブに巨大ががんぼゐるホテル

佐藤レアレア

述べているのはバスタブのことだけなのに、どんな場所にあるどんな感じのホテルなのかが、手に取るように分かる。これが、俳句という表現の醍醐味ではないかと思います。

「バスタブ」を覗いてみると、「巨大」な「ががんぼ」がいることに気づいて、ハッと息を飲んでいるのか、叫び声をあげているのか。季語が存分にその力を発揮しています。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

炎帝に灼かれたやうなナンを裂く

かときち

擬人化された季語「炎帝」をまさに人であるかのように「炎帝に灼かれた」と使った点にも工夫があるのですが、そこから更に「やうな」と比喩に展開。それが眼前の「ナン」に対するものだと分かった時のリアリティ。個人的には、こんがり焼けたというよりは、パサパサに焼けた粗末なナンを思いました。比喩をどう受け止めるかによって、「裂く」時の感触も変わってきそうな作品です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

ラマダンや熱砂は乳香放ちをり

乃咲カヌレ

「ラマダン」とはイスラム教徒における断食月。「ラマダンや」と詠嘆したあとの展開に、詩的実感を受け止めました。「熱砂」の匂いなど想像したこともありませんでしたが、「乳香」の一語が私たち読者の虚の嗅覚を刺激します。砂漠に住む民の、しかも断食を行う時期ならではの特殊な嗅覚なのかもしれません。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき