第1回 俳句ラボ テーマ×季語で一句|「名刺」×「梅」②
俳句ラボへようこそ
皆さんようこそ、俳句ラボへ。
各回に提示されるテーマと季語の発想をかけ算して俳句を生み出す研究所です。
組み合わせからどんな化学反応が起こるかは、あなた次第。
さぁ、実験を始めましょう。
第1回のお題
湯島の梅や競売の朝出す名刺
落札や梅の香強き夜なりき
源平梅お名刺頂戴致します
「源平梅」とは一本の木に紅白の花が両方咲く梅のこと。源氏と平氏になぞらえての呼び名のようですが、名刺交換の場面に取り合わせると両者の確執を思わせてピリッと緊張感が走るのが面白い。こういった、歴史や言葉の背景を踏まえたりして機転を利かした句のことを「機知の句」と呼んだりもします。

梅が香やまた担当の名に紀の字
これもまた機知の一句でありますねえ。名刺の交換相手の名に何度も同じ字が出てくる、それくらいの出来事は起こり得るでしょうが……それが梅の産地・紀州の「紀」の字ってのはさすがに話が出来すぎでないかい!? 機知の句は受け取る人によってかなり許容範囲に差があるので、用法用量を守って正しく楽しんでまいりましょう。個人的にはこれくらいの企み具合はわりと好きなんですけどねえ、粋でもあるし知的でもあるし。

葬儀まで担当します夜の梅
式場の人の名刺と梅の花
より職業の種類を絞り込んだ描き方の二句。《みづちみわ》さん、葬儀「まで」って言い回しが出てくるのは人生経験の強みだなあ……。「名刺」というテーマから連想し、葬儀という人生の幕引きの場面の些細なリアリティを汲み取ってきたのがお見事。夜の静けさのなかに沈む梅も良い取り合わせ。夜という時間は悲しみと向き合う時間でもあるのでしょう。
《春那ぬくみ》さんは「式場」だから、葬儀というよりは結婚式の可能性が高そうですね。まだ関係性の薄そうな「式場の人」って表現からすると、式場の下見とかの場面かなあ。

顔合はせ襞も豊かに梅開く
なみなみと決め盃や夜の梅
「顔合はせ」に「決め盃」、一単語の工夫によって結婚にまつわる場面だとわかります。複数の人間が集まっている状況、寿ぎの雰囲気、交わされているであろう言葉の方向性や声のトーン、読者の想像を補うための多くの情報をもたらしてくれています。いつきさんはこういう一単語あたりの情報量の多さを「言葉の経済効率」と表現しています。身内を褒めるのもなんですが、わかりやすいよな、この言い回し……僕も積極的に使っていこっと。

当選の朝の辻立ち梅ふふむ
その声は名刺代わりよ梅ふふむ
名刺から連想して、政治家、って職業にきましたか。「当選」に「辻立ち」、開き始める梅の姿、とイメージの重ね方が上手いですね。選挙期間中に辻立ちしてる姿はよく見かけるけど、終わったあとも感謝の辻立ちとかってするのかなあ。声が印象的だと、その辻立ちを好意的に眺める人からは《飯村祐知子》さんの句のように描かれるのかもしれないねえ。

梅園を皿数ふる音一枚二枚…
ある意味これも声が名刺代わりになってる例なのか? 有名な怪談・皿屋敷のお菊さんです。いちまーい、にまーい……ってくだりは有名だから知ってるけど、物語の舞台には梅咲いてたりしたんだろうか。こういう、テーマからかな~り離れたかもしれない……って発想も、面白かったり興味を惹かれればガンガン紹介していく所存です。

蝋梅やこの番号は通じるか
寒梅や東は父の好きな文字
探梅や降格願ふ認印
探梅行退職のわけありてなし
探梅や名刺のいらぬ日のノオト
梅見してケーキピックのルノワール
同じ靴これで五足目梅二月
活版の名刺あつらへ梅二月
梅の候資料名刺に一筆箋
季語の扱いが微妙なグループ。梅の字は入ってるんだけど、春の季語じゃないものが混じっております。「蝋梅」「寒梅」と「探梅」は冬の季語。「探梅」は植物じゃなくて人事・生活に分類されるのもポイントです。「梅見」も人事・生活に分類されますが、これは春になって咲いた梅を見に行くことなので春の季語。「梅二月」や「梅の候」も植物というよりは時候の季語と考える方がしっくりくるかなあ。
出題に「梅」としか書いてなかったしそれぞれ悪い句じゃないしなあ……と悩みつつ、やはり原則としては春の植物の「梅」を選んでいきたいところであります。次回からは別の季語だと選外になる可能性もあるのでご注意を。
《③に続く》



インターネットオークションはやったことあるけど、会場に集まって参加するような競売って経験ないなあ。高価な盆梅の市なんかだとこんな光景もあるのかしら。梅の名所である「湯島」の地名が格調高く効いております。
《豆くじら》さんの「落札や」も言葉の経済効率に優れています。ネットオークションのおかげで我々一般人にも競売や落札という概念が身近になりましたねえ。「なりき」の重々しさから察すると、そんじょそこらの落札物じゃなさそうだけど……いったいなにがあったやら。