第49回「ブルガリアの道路」《ハシ坊と学ぼう!②》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
季重なり
夕焼けや白線上の熊の足
アツヒコ
生きてる熊? 死んでる熊? そこらあたりは、表現して欲しいかと。「熊」も季語ではありますが。
季重なり
山粧う霧と枯れ木と幻想と
そうわ
季語が三つ。歳時記を開いて、確認してみましょう。
季重なり
春の瞬センターラインの熊二頭
べにりんご
「熊」は季語ではありますので、いっそ「春の熊」とでもすれば、よいか。コメントには「五月」とあるので、実際は夏ではありますが。
季重なり
秋うらら空の牛舎にステテコ干す
朝野あん
「すててこ」も季語ではあります。
季重なり
ペーチカや長き吐息の寒立馬
理佳おさらぎ
「ペーチカ」も「寒立馬」も季語ですね。
季重なり
黄金の稲穂と私と秋の空
ふじっこ
「稲穂」「秋の空」それぞれ季語ですね。
季重なり
寒立馬放牧の尾をやませ吹く
久えむ茜咲
「寒立馬」と「やませ」どちらも季語ですね。
季重なり
秋の道暮るる早さよこぼれ萩
ミワコ
「秋」と「萩」どちらも季語ですね。
季重なり
牛のどか動かぬ車冬木立
ゆうき
「のどか」は、春の季語でもあります。
箆鹿の横断リハビリの遅々
王朋亡
こんなふうに迷って考えるのが、俳句の楽しいところです。うーむ……私なら後半を「リハビリは遅々と」にするかなあ。勿論、原句どおりでも人選です。
挨拶は仔牛の数や春の牧
一寸雄町
このままでも人選ですが、悩まれた中七は「仔牛の数よ」を推したいですね。優しい感じになります。下五は「春の牧」だと牧場の光景に軸足があり、「牧の春」だと季節のほうに意味が傾きます。ここは、作者の意図によって、選ばれたらよいかと。
牛飼ひの角笛はるか冬木道
藤本花をり
そうですね、ここは下五の季語勝負。「角笛はるか」の音を、どんなふうに聞かせたいか。そのニュアンスにもかかわってきます。「冬木道」は、ひとまず人選ですが、ここの季語の可能性はまだまだあると思います。しばし、寝かせておきましょう。佳き季語との出会いがあるかもしれません。
ジュリーのバラード深秋の婦人科
とひの花穂
コメントを書きたいので、ハシ坊にチェックしましたが、この推敲は立派な人選です。確実な成長の証です。俳筋力がついてくると、いとも簡単に推敲ができたりするのです。ハシ坊や並選の句を、今やっきになって推敲に頭を悩まさなくても、俳句の筋肉がつけば簡単に飛び越えられます。長い目をもって、自分を育てていきましょう!
春の草崖ゆく細き脚の牛
海色のの
牛は尾に落ち葉絡めてふりんふりん
三日月 星子
「牛の尻尾に絡んだ落ち葉、落ち葉と共に振る牛の尻尾。そのまんまを詠みました。最近、俳句がなかなか詠めません。スランプに落ちてしまいました。先生、解決法を教えて下さい」と作者のコメント。
さて、この句ですが、目の付け所はよいです。作者コメントには「牛の尻尾に絡んだ落ち葉、落ち葉と共に振る牛の尻尾」とありますね。それをそのまま書けばよいです。「牛は尾に~絡めて」だと、牛が主体的に絡めた感じになりますが、そこが言い過ぎ。そのまま書いて下さい。
添削例
牛の尾に絡める落葉ふりんふりん
渋滞をすり抜け下る飛色葉
星 秋名子
「『飛色葉』は私が作った造語です。季語として通用しますか? ちなみにネット歳時記では『色葉』が季語として 載っているのですが、角川の『合本歳時記(ソフト)』には載っていません。そもそも『色葉』は季語(傍題)なのか心配になりました。(本は読めません)」と作者のコメント。
「色葉」は季語ですが、「飛色葉」は無理があります。
大角や神山仰ぐインバネス
老蘇Y
「奈良の春日大社に立つ大きな角を持つ鹿は凛々しく、インバネスを着た偉人のようでした」と作者のコメント。
季語「インバネス」が比喩に使われているのかな? だとしたら、季語の鮮度は落ちます。
国会の牛歩戦術真葛原
松芯
「野次の飛び交う殺伐とした光景の中、見ていると議員の頭が風をいなすように思えて仕方ありません」と作者のコメント。
この書き方だと、下五の季語「真葛原」は比喩に使われているのではないかと読めます。季語を比喩に使うと、季語としての鮮度が落ちる。そこは一考したほうがよいかと。
アイラ凛烈スコッチ寒灸のごと
よっけ
「寒灸」を比喩として使っているので、季語としての鮮度は落ちます。が、「アイラ凛烈スコッチ」あたりの調べの作り方はよいので、さらりと季語を入れる工夫をしてみましょう。
冷ゆ朝の草食む牛の白い息
おかぴん
「冷ゆ」は終止形なので、「朝」に接続する場合は「冷ゆる」と連体形になります。中七下五のフレーズを生かすのであれば、「草食む牛の息白し」とすれば、「息白し」は冬の季語として機能します。全体を再考してみましょう。
テンノウメ勢子の声吉(よ)き闘牛よ
田に飛燕
「闘牛の島に咲く、白いテンノウメに惹かれました。闘牛のYouTubeでは、勢子の太い声がよいと思いました」と作者のコメント。
語順を一考してみましょう。主たる季語「闘牛」から始めるほうが得策かと。
秋晴るるお遍路さんの杖かるし
こりゆばんばん
「四国八十八ケ所を歩き、遍路している人をお見かけしますが、麗らかに晴れた清々しい秋の日には、お遍路さんの足取りも軽くなるのではと思いました。季語を『秋麗』と迷いました」と作者のコメント。
「遍路」は春の季語ですが、「秋遍路」も季語。こちらの季語で再考してみましょう。