俳句deしりとりの結果発表

第42回 俳句deしりとり〈序〉|「ちょう」②

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第42回の出題

兼題俳句

まれびとをもてなす皿いっぱいのちょう  三浦にゃじろう

兼題俳句の最後の二音「ちょう」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「ちょう」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

文のLINEの返事夜半の夏

chizumi

文は生成AI天狼星

加里かり子

文のダメ出し鹿の鳴きやまず

梅野めい

文へ「はい」とだけ青林檎噛む

帝菜

長文書きがちマンのワタクシとしては耳に痛いお話。人とLINEすることほとんどないからゆるしてクレメンス。

《梅野めい》さんと《帝菜》さんの句はそれぞれ実感があって胸にずーんときますなあ。実体験かしら。「鹿」の切々と訴える聴覚、歯にガリッと響く「青林檎」の味覚と触覚、どちらも良い取り合わせです。ダメ出しや素っ気なさ過ぎる対応に対して、作者の心がどのように反応したのか(?)を取り合わせた季語が推察させてくれるわけですね。
“良き”

座体前屈励む夏の子ら

有海無音

座った状態で前に腕伸ばすやつでしたっけ、懐かしい。「長座体前屈」だけで九音という長い単語を採用する思い切りに拍手であります。「夏の子ら」は状況はわかるんだけど、描写としては大雑把になってしまってるのがもったいないポイント。
“ポイント”

打なし炎天の地区決勝戦

ルージュ

野球でしょうか。カキーン! と大ヒットが出るとわかりやすく盛り上がるんだけど、手堅く打ち取って淡々と進んでいく試合だと地味なんだよなあ。「炎天」がじりじりとしんどい。「地区決勝戦」の絶妙な規模の小ささもリアリティを増しております。

“とてもいい“

さんいざ頂上戦や虎が雨

ズッキーニン

さんのバット逆さに持つ良夜

紫黄

さんのあの声短夜に恋し

東田 一鮎

内容からするとミスタープロ野球こと長嶋茂雄監督の可能性が高いかな? 《ズッキーニン》さんと《紫黄》さんは「頂上戦」「バット」などから推察しやすいんですが、《東田 一鮎》さんはちょっと悩ましい。「あの声」といわれると、いかりや長介さんの可能性もあるよなあ。句に固有名詞を詠み込む場合、組み合わせる言葉によってどの人物かを明確にするのもひとつのテクニックです。特に、複数の人物が候補に挙がる可能性がある場合は要注意。

“ポイント”

野ならケンカキックやサングラス

桐山はなもも

おお、丁度良い例が登場だ! 「ケンカキック」「サングラス」と重ねられると、詳しくない僕でも有名なレスラーだな! と想像がつきます。「蝶野」こと蝶野正洋さんはプロレスラーであり、「ケンカキック」は代名詞にもなった得意技だそうです。画像検索したら画面の圧がすごいんよ。……しかしトレードマークでいつもしてる「サングラス」はこの場合、季感薄いんじゃないか、と気にならなくもない。
“とてもいい“

戦者まさかの裸足で登場だー!?!?

嶋村らぴ

いきなりなんの入場なんだ!? 漫画でいったらバキかタフあたり? 現実の興行にはあんまり詳しくないからわかんないんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ。
“良き”

江堂忌水洟や海のいろ

⑦パパ

江堂忌ダイバーシティーってなんだ

二城ひかる

澄江堂忌は小説家・芥川龍之介の忌日。傍題としては河童忌や我鬼忌が有名ですが「澄江堂忌」は字面が涼やかで印象が変わりますね。《⑦パパ》さんの句は芥川龍之介の「水洟や鼻の先だけ暮れ残る」と「木がらしや目刺にのこる海のいろ」を踏まえた上でのオマージュだろうか。《二城ひかる》さんは「ダイバーシティー」=多様性との取り合わせ。「ってなんだ」が自己探求のようでもあり、社会への皮肉のようでもあり。どっちの読みでも「澄江堂忌」との取り合わせはほどほどの鬱屈具合が似合います。
“とてもいい“

空忌子の友五人東より

山羊座の千賀子

空忌コミケ帰りに貴腐ワイン

東風 径

迢空忌は9月3日、国文学者・民俗学者・歌人である折口信夫の忌日です。日本文学や古典芸能を民俗学の観点から研究した方らしいのですが、僕自身の知識不足のせいで読みを深めきれず不甲斐ない……。「子の友五人東より」ともあるし、周囲に人がたくさん集まってた方なのかしら。「コミケ」との取り合わせは研究系の同人誌も世の中にはあるし、そのへんが取り合わせの接点?
“良き”

宗我部元親っぽい百目柿

ヒマラヤで平謝り

宗我部元親伝読むハンモック

青屋黄緑

曾我部の島をかはほり覆ふなり

沼野大統領

「長宗我部元親(ちょうそがべもとちか)」は戦国・安土桃山時代の武将で、高知に縁のある人物。現在も高知市長浜には銅像があり、地域でも愛されているそうです。土佐を平定して一時は四国全域を支配下に収めたとのこと。へー、知らなかった。《沼野大統領》さんの句、瀬戸内海にも「長曾我部の島」みたいな謂れのある島が本当にあったりするのかな。かはほり=蝙蝠の量感を表して動詞「覆ふ」の斡旋がお見事。
“とてもいい“

十郎剥ひて収まる痴話喧嘩

小田毬藻

十郎カフェの壁にはあしたのジョー

咲山ちなつ

これも人名かと思いきや、梨の品種名でした。そうだよな、《小田毬藻》さんの句だと剥かれてたりするもんな。人間だったら子どもに見せられない場面が始まっちゃうよ。いやーアブナイアブナイ。ちなみに「剥ひて」の仮名遣いは間違いで、正しくは「剥いて」または「剥きて」となりますのでご注意をば。

《咲山ちなつ》さんは渋めな漫画のチョイスが良いバランス感覚。人名、しかも若干時代がかった雰囲気の名前だからこそ往年の名作との取り合わせが効いてきます。
“とてもいい“

安の春はまぼろし長恨歌

氷雪

恨歌の墨の掠れや栗の花

翡翠工房

中国の長編叙事詩「長恨歌」。唐の詩人、白居易によるもので、玄宗皇帝と楊貴妃との愛と悲しみをつづった七言古詩であります。《氷雪》さんが長恨歌の世界に入り込んだような十七音になっている一方、《翡翠工房》さんは長恨歌を書いた筆跡の描写に徹するという対照的な二句。「栗の花」が現実の嗅覚を刺激してくる分、季語の効き方としては後者が一枚上手でありましょうか。
“とてもいい“

陥ちて野は一面のてふ・てふ・てふ

ひな野そばの芽

中国の戦国時代の国、趙ですね。漫画『キングダム』(原泰久・著)を思い出した人も多いんじゃないかしら。歴史を元に描かれてるから趙が滅びるのはわかってるんだけど、それでも今後の展開が気になっちゃうんだからすごいよな。国破れて山河あり、って詩も後の時代に詠まれていくわけですが、国が滅びたあとの空虚な野を飛び交う「てふ・てふ・てふ」が無情にものどやかであります。
“とてもいい“

陽を駱駝のバリカン雲の峰

骨の熊猫

日常的には「あさひ」と読むところですが、兼題の影響もありここでは「朝陽(ちょうよう)」です。駱駝と日常的に接する地域での朝の一場面でしょうか。中七の名詞止めでしっかり切れが生まれてるのが好印象。バリバリバリッと毛を刈る音が聞こえてきそうです。下五で「雲の峰」が悠々と現れる語順も効果的。
“とてもいい“

上に見上ぐ秋天青深し

白羊

上に誰か居るらし夏の山

葉山さくら

上へドライブウェイの明易し

のりこうし

上を振り返りつつ初登山

尾長玲佳

頂上シリーズ。多くは見上げる形を取ってるんですが、《尾長玲佳》さんは珍しく降りてると思しき描写になってます。頂上まで登った感動を名残惜しく抱えながら振り返っているのか、それとも頂上間近まで迫りつつもなんらかの事情で途中撤退せざるを得なくなったのか? 初登山が良きものであったことを祈りたいですねえ。

〈③に続く〉
“とてもいい“