俳句deしりとりの結果発表

第42回 俳句deしりとり〈序〉|「ちょう」③

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第42回の出題

兼題俳句

まれびとをもてなす皿いっぱいのちょう  三浦にゃじろう

兼題俳句の最後の二音「ちょう」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「ちょう」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

刻の眼のこちら向く夏の暮

赤味噌代

像の馬の嘶く炎暑かな

田原うた

金のクラスの彼や花南天

小川さゆみ

工の指なめらかに七変化

くさもち

彫るものあれこれ。《赤味噌代》さんと《田原うた》さんは物体、《小川さゆみ》さんと《くさもち》さんは人物、それぞれに描こうとしているものが違います。不思議と取り合わせられている季語も前者は厳しさを伴った夏の事項の季語、後者は植物、とそれぞれのグループで共通点を持っていて興味深い。「七変化」は紫陽花の傍題ですが、物事がくるくる変わることを意味する言葉でもあります。語順によっては、狙いすぎ、とも受け取られるリスクがあるので注意しておきたいポイントです。
“良き”

活に良いものだからかき氷

砂糖香

活のザクザクキャベツ七年目

美んと

活の塩麹漬け小暑かな

東京堕天使

活は明日からにして生ビール

玄子

活やキムチ納豆ヨーグルト

千暁

活やめかぶとろろを飯に乗せ

源早苗

活にサプリあれこれ秋の雲

つんちゃん

近年よく聞くようになった「腸活」。みんなの腸活レシピを紹介するぜ! なかには投げだしてビール飲んでる人もいるけど! 概ね、野菜と酵素っぽいもの食べてればいいんだろうなって感じは伝わる。でもぉ……正直ぃ……めんどくさいっていうかぁ……サプリとかでどうにかなりませんかねぇ……。(ものぐさ)
“ポイント”

微妙味噌ホイップのかき氷

のりのりこ

腸がチクチクするやかき氷

虎有子

ヤバいアイスの味はいかばかり

風奏 祥音

美味しくなさそうな超シリーズ。味噌ホイップはさすがにキツイ。腸活的には酵素が取れて良かったりするのかもしれないけど、味想像すると前向きになれないよぉ……。《風奏 祥音》さんの下五は「いかばかり(如何ばかり)」ね。烏賊味オンリーって意味じゃないぞ! ……じゃないよな…?

“とてもいい“

音波エコーは不調秋の雨

あねもねワンヲ

音波吾子覗き見て盆提灯

舞矢愛

音波検査のジェルの冷ややかに

ゆりかもめ

超音波シリーズ。産婦人科での胎児の検査でしょうか。検査結果を画像で見られるんだけど、日が経つ毎に姿形がハッキリしていくの感動しますよね。《ゆりかもめ》さんは時候の季語「冷ややか」によって自らの肉体感覚を詠み込んでるのが特徴。人間ドックの腹部超音波検査っぽくもあり。

“ポイント”

診の間の無言秋気満つ

あなぐまはる

診器胸間の汗にへばりつく

気仙椿

診器笛の音する春の風邪

白石ルイ

診器当てし翁(おきな)の日焼けかな

鍋焼きうどん

診棒でポンプ点検する極暑

鹿達熊夜

身近な場面として共感度の高い聴診シリーズ。《あなぐまはる》さんのや《白石ルイ》さんの句は特に患者側の実感として身に覚えがありますなあ。「聴診」や「聴診器」はわかるけど《鹿達熊夜》さんの「聴診棒」ってなに? 調べたところ、モーターなど回転する部分を含んだ機械の点検・検査に使われる道具だそうです。聴診器とは構造も似ているみたい。聴いている対象は違えど、聴覚に集中している間に自分を取り巻いている季語の存在を知覚しているという意味では《あなぐまはる》さんの句と表現したい内容は似てるのかもしれない。ただ、音の激しさは聴診棒の方がずっと騒々しいだろうなあ。その辺が取り合わせる季語の選択にも影響してそうで興味深い。
“とてもいい“

ちょうほうにスパイとルビやマーガレット

かみん

報戦ハニートラップアッパッパ    

オカメのキイ

報部員は新人花煙草

木村弩凡

《かみん》さんに《オカメのキイ》さん、なんだか妙に間の抜けた「ちょうほう」の句が並んで笑えるというか肩透かしというか……(笑)。謎めいた職業として創作物にもよく登場するスパイ。仕事としては重大だしえげつないことも多いんだけど、逆にそれを茶化すような描き方でコミカルに仕上げるやり方もあるよねえ。一方、《木村弩凡》さんは硬派な味わい。「花煙草」は煙草の花のことで、秋の季語。淡い紅色の可愛い花なんですが、煙草の原料になる葉を収穫するためにさっさと摘み取られてしまうそうです。失われていくなにかへの哀惜がほのかに匂う良い取り合わせであります。
“良き”

官のきのこ派を知る花見かな

雨野理多

なんの長官だかはわかりませんが、ちょうほうに続いて「長官」が登場。愛すべき緩さに笑ってしまいましたわ。無礼講でたけのこ派ともお酒注ぎ合ったりするのかな? ちなみに僕はたけのこ派です。
“とてもいい“

面はExcelとなり汗ばむ夜

団塊のユキコ

尻を合わせ施錠や虫の闇

森野みつき

面(ちょうづら)に残る疑念追う夏暁

太井 痩

消しの二重帳簿や鳥兜

とひの花穂

面の数字が化ける有無日

里山まさを

世の中の経理担当の皆様、本当にお疲れ様です。まじめに仕事してるかと思いきや、ところどころ不穏な単語登場してるんだけどダイジョウブカナ? 鳥兜的な毒がありそうで陰謀の臭いがするぜぇ……。

ちなみに《里山まさを》さんの句の季語は「有無日」。初めて聞いた季語だったんですが、陰暦5月25日のことで、村上天皇の忌日だそうです。平安時代には急を要する場合を除いて政治を行なわない日と定められてたんですって。お上の目がない時に数字を化かしてる……のか……?
“良き”

戒処分下る日の油照

信茶

戒免職青葉の闇へ落つ

栗田すずさん

戒はグランド五周風青し

紫すみれ

罰房三度目にして色鳥来

爪太郎

ほら、人間悪いことすると良くない結果になるんですって……。と言いたいところだけど、《紫すみれ》さんだけやたらと処分が軽微で解せぬ(笑)。それにしても気になるのは《爪太郎》さんよ。「懲罰房」だけでも二度見するレベルのショッキングワードなのに「三度目」て。呑気に色鳥来とか言ってる場合じゃなくないか!?
“とてもいい“

調査団へようこそと注ぐビールかな

ぞんぬ

つい『進撃の巨人』を連想しそうになるけどあれは調査兵団だし別物だよなあ。どっちかというと発掘などの調査をする団体の姿を想像するのが適切かしら。映画でもよくあるもんね、ピラミッド調べに行ったり古代文明の遺跡調べに行ったりするお話。多少荒っぽくジョッキを打ち鳴らす響きも聞こえてきそうで、「ビール」の爽快さが効いております。
“とてもいい“

鞭に汗散りぬ青鹿毛の牡馬

明 惟久里

命の馬の毛柔し秋の風

津々うらら

類に竜骨突起大西日

佐柳 里咲

類の骨はからつぽ沙羅の花

日永田陽光

生き物あれこれ。生きて疾駆する馬と、死んで残される鳥の骨、それぞれ魅力的な句材であります。前者がはじけ飛ぶ「汗」の躍動や「長命」「柔し」と愛しむ目線で馬そのものを活写しているのに対し、後者は淡々とした事実の描写を述べたあとで「大西日」「沙羅の花」と生死や無情を感じさせる季語との取り合わせによって詩情を増幅させています。これらの例をお手本にして他の生き物を描くとしたらどんなやり方があるか? 挑戦してみたくなりますね。
“とてもいい“

散の地」と立て札の秋の霜

よはく

散の伝説夜はの青田道

舟端たま

落の村再興の祭笛

えりまる

老の語る言葉や影涼し

oo3@呂

句会とかでもあるあるなんですが、たまたまその場に集まった句が、本来関係ないもの同士が並んでいるにもかかわらず、なんだか妙にひとつの物語のようにまとまりを持つことってありますよね。こんな村とそこに生きる人たちの話、本当にありそうだよなあ。「逃散」とは中世以降に見られた領主への抵抗手段であり、農民闘争の一形態。村を挙げて耕作をやめ、他の土地へ逃げ出すことをいいます。逃げ出して放置された田畑はその後どうなっちゃったんだろう。たとえ凋落していようとも、村と先祖を誇りに語り継ぐ人たちがいるかもしれない、と想像すると壮大なドラマのよう。
“とてもいい“

調理器具一つの暮らし秋澄めり

瀬央ありさ

清貧というべきか、一人暮らしはじめたばかりの大学生っぽいというべきか。「秋澄めり」の着地が気持ち良いですねえ。暮らし向きについてあれこれ述べることだって可能ではありましょうが、季語に託してしまってつべこべ言わない引き際が美しい。

たった一つで暮らしが成り立つとなったらやっぱりフライパンかな? 最近だとレンジだけで全部済ませる、って選択肢もあるのかもしれないけど。個人的には金属を手にしたひやっとした触感と秋澄むとの取り合わせに魅力を感じてるので、レンジ以外だと嬉しいなあ。(笑)
“とてもいい“

考の碁盤のやうな天の川

苫野とまや

独特な比喩を用いた、広義の意味での一物仕立て。碁って漫画とかで読んだ知識しかないけど、白石と黒石が盤面にひしめいてる状態と、そこにどう手を加えていくかの戦略的思考の果てしなさは興味深いものがありますね。「長考の碁盤」は無数の星が横たわる夜空への比喩であると同時に、その姿をどう一句に仕立て上げればよいものか、と思案する作者の過ごす時間も想像させてくれます。苦吟もまた楽しめるのが俳人でありますなあ。
“とてもいい“

擲の束にしませう赫い薔薇

にゃん

こういうちょっとバイオレンスな句、嫌いじゃないよ! 愛でられることもなく武器代わりにされる薔薇には気の毒だけども! 歴史的仮名遣い・口語の「しませう」のお上品な異物感もまた、表現の意図を実現する重要なパーツ。打擲できるほどの物量があるからこそ「薔薇」の華やかさが引き立てられるのです。本当に打擲したならばバッ! と花弁が散って、それもまた美しいに違いない。
“とてもいい“

調停成立東京空襲忌のサイゼ

伊藤映雪

「東京空襲忌」あるいは東京大空襲忌は3月10日。国家規模の悲劇を悼む季語に対して、一市民の小規模だけれど切実な現実を取り合わせたのが取り合わせの妙味です。「サイゼ」ことサイゼリヤは安価に美味しいイタリアンとして全国に展開されているおなじみのお店。調停を終えて青息吐息なのか、あるいはようやく落ち着いたと安堵の一息をついているのか。これから本格的な春を迎えようという3月初旬、明るい未来はやってくるものか、はてさて。
“とてもいい“
第44回の出題として選んだ句はこちら。

第44回の出題

貢のラピスラズリや李喰ふ

日進のミトコンドリア

「朝貢」とは諸侯や外国からの使いが朝廷を訪れ、貢ぎ物を差し出すこと。洋の東西を問わず宝石や貴金属は価値あるものとして貿易にも用いられましたから、ラピスラズリが貢ぎ物として贈られたこともあったでしょう。調べてみると、紀元前のメソポタミアからエジプトへの朝貢貿易にもラピスラズリは主要な品として扱われていたそうです。朝貢の品ともなれば、深い青色が一層見事だったのでしょうねえ。「李喰ふ」は中国との交易の歴史を踏まえての取り合わせかしら。歴史を語る硬質な石の青に対して、李は現在という時間を生きる人間の喉を瑞々しく潤します。下五で酸味と甘味、それに仄かな嗅覚が立ち上がる語順も効果的な一句でありました。

ということで、最後の二音は「くう」でございます。 
歴史的仮名遣いで書かれた句だけど音としては「くう」ですね。

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう! 
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

“とてもいい“