第59回「色っぽい流木」《ハシ坊と学ぼう!⑫》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
貝殻は夏の記憶や宝箱
朱鷺
下五「宝箱」は一考しましょう。かなりの凡人ワードです。


引波に洗はる骨や夜の秋
ガリゾー


流木の肌はなめらか夏果てる
長谷部憲二
中七の検討に、「は」「の」などの助詞を外すパターンも検討してみてはいかがでしょう。「流木の肌なめらかに」「流木の肌なめらかや」など。ここが決まれば、下五の選択が明確になります。


流木に青い目の猫盆の月
ちよ坊
ちょっと材料が多いです。俳句は、季語とあと一つの要素があれば、十分に十七音の器が満たされます。「流木」と「盆の月」、「青い目の猫」と「盆の月」と切り分けて、二句にしてみましょう。


ながれ木やよごと透けゆく葉月かな
一 富丸
一句に「や」「かな」の切れ字が重複すると、感動の焦点がブレるということで嫌われるのです。どちらか一つを外しましょう。「ながれ木」は、流木のことだと思いますが、「流木(りゅうぼく)」と書いたほうが伝わりやすいかと。


流木は「考える人」春愁や
蛙目
下五の「や」はバランスが取りにくくて、とても難しい型です。語順を再考してみましょう。


あいの風次があの曲だつたなら
右端ぎゅうたん
季語は動くかもしれませんが、中七下五のフレーズは、ちょっと思わせぶりな感じもあって、面白いと思います。
(追伸)
早速、俳号に名字をつけてくれてありがとう。


ミニスカートの流木踊る大暑かな?
岳陽
「かな?」は、詠嘆の切れ字ではなく、口語の疑問でしょうか。そのあたりも含めて、再考してみましょう。


夏陰に連れて行くの流木を
銀髪作務衣
語順を再考しましょう。「連れて行く」のは作者自身の行動でいいのでしょうか?


雄大な夕焼悠久の由比ヶ浜
川野 藤央(藤央改め)
「雄大な」と「悠久の」を対比させた意図は分かりますが、お互い印象を薄めてしまっています。


10のうち3ほど痛いです夏の果
さく砂月
「病院で痛みの程度を10段階で聞かれる時、10ってどれ程痛いだろうと思い困ります。『です』無しで十七音ですが、質問に答える『10のうち』と思い、字余りでひと夏の傷みを表しました」と作者のコメント。
中七の「です」に、表現としての拘りがあるのならば、最後の季語を「晩夏」のような納め方もあります。


おはじきに透ける細螺の流転色
翡翠工房
「子供の頃、きれいな菓子箱に宝物を仕舞っていました。牛乳瓶の蓋、スパンコール、おはじき、そしてどこかで拾った美しい貝殻。細螺(きさご)という貝で、柔らかい桃色にエキゾチックな模様が印象的で、長い流転を思わせました。『細螺』を歳時記で調べると、おはじきとしても使われていたそうで、ガラスのおはじきと仲良く仕舞っていたのも、偶然ではなかったようです」と作者のコメント。
面白い試みです。上五中七を良しとしたとき、下五「流転色」は評価の分かれる表現です。作者として、ここに拘りがあり気に入っているのならば、このままの形で句集に載せることを拒むものではありません。


離岸流水着は何処へ流れ行く
高木友
俳句では、「帽子」と書けば帽子を被っている人を意味したりもするのですが、この句、流されているのは水着? という印象を受けてしまいます。人だと分かるように配慮を考えてみましょう。


旱なり湖底の旧村哀れ見て
犬山侘助
「ダムが干上がり、湖底の旧村が見えたという句です。ダム建設のために村人たちは離れましたが、それが異常気象で渇水し、昔の村が現れました。水不足にならないように願い、沈んだはずなのに、役場、学校、橋、朽ちた建築物が現れ、哀れに思えました」と作者のコメント。
下五「哀れ見て」は書かないほうがよい感想です。湖底の村を少しでも描写してみましょう。


流木のベンチにとんぼ来てとまる
伊藤映雪
「流木のベンチ」と「とんぼ」の取り合わせをブラッシュアップするためには、「~に~来てとまる」という散文的な叙述を推敲したいところです。


おばあのカチャーシー仏桑花舞う
由樺楽
「舞う」の一語を外すことを考えてみましょう。そこに推敲の糸口があります。


石斛の花一枚岩と陽の光
肴 枝豆
「ハイカーが岩場にさしかかった時、ふと見上げると石斛(せっこく)が岩場に着生しているのに気づく。そこに今まさに太陽の光が差し込んできた。空と小さな石斛を対比させた一句です」と作者のコメント。
描こうとしている光景が良いです。「空と小さな石斛を対比させた一句」を狙っているのならば、下五「陽の光」は少々損。「空」の一語を入れれば、自然の太陽の光は見えてきます。
添削例
石斛の花と一枚岩と空


天の海浮かぶ孤島や夏の富士
ゴルパパ
やろうとしていること、描きたい風景は分かります。表現の細部を推敲してみましょう。まずは、「浮かぶ」という動詞を使わないで、この光景を描写するにはどうすれば良いか、そこから考えてみて下さい。


島の子追ふて流木へ夏帽子
すがのあき
「追ふ」という動詞が、助詞「て」につくのは、連用形なので「追ひて」となります。音便を発生させることも可能。音便については、YouTube『夏井いつき俳句チャンネル』【音便シリーズ】を参照して下さい。


流木のごとく渇きて冷し瓜
海色のの
「流木のごとく渇きて」いるのは作者自身ですよね。この語順だと、「冷し瓜」が? と一瞬脳内を混乱させます。せめて、中七に切れをいれましょう。


色気より食気がはやる鱧の艶
氷雪
上五中七が説明の言葉になっています。俳句は描写。まさに、目の前にある「鱧」という季語を描写してください。


流木にも故郷在りし土用波
春駒
「にも」と書きたいお気持ちはよく分かります。が、この「も」によって一句全体が散文的になります。「も」と書かなくても、その気持ちは読者には伝わりますので、安心して下さい。
添削例
流木に故郷あらん土用波


灼熱の九回裏のフルスイング
馬場めばる
上五を「灼熱や」とすれば、人選です。


日盛りの流木や我の偏頭痛
川代つ傘
「我」ではなく「吾(あ)」とすれば音数が調整できます。これならば、人選。

