第59回「色っぽい流木」《ハシ坊と学ぼう!⑭》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
大海に朽木ただよひ月冴ゆる
芝香
語順を再考してみましょう。


朽ち果てし日輪草の貌のなし
清水ぽっぽ


土用凪山裾掻きし棒倒し
直感勝負
なるほど、そういうことですか。この光景を描きたいのならば、「土用凪」と光景を広くせずに、砂山のアップで描くのも一手です。


日焼けして肌も露に姿見の
喜悦
「夏休みのプールに毎日通って、終わる頃には水着の形がついた姿を鏡で確かめたのを思い出しました」と作者のコメント。
散文の書き方になっています。


流木を打ち寄す浜に凪の朝
ミワコ
中七下五を「流木打ち寄する浜に」として、余韻を作るのも一手です。
添削例
朝凪や流木打ち寄する浜に


宵の秋艶の香すくふすれ違い
帷子川ソラ
「すくふ」は歴史的仮名遣い、「すれ違い」は現代仮名遣い。仮名遣いはどちらかに統一する必要があります。詳しくは、YouTube『夏井いつき俳句チャンネル』【文体と表記】シリーズを参照してください。


聳え立つ流木の巨人浜夕焼け
奥ノ碧心
「人の形に似た流木の影が、夕日で長く伸び、巨人の姿の様になっている景です」と作者のコメント。
「聳え立つ」「巨人」、どちらか一つあれば、この光景は伝わりそうです。


流れ着くガラス片選る夏帽子
石田ひつじ雲
海岸や砂浜に流れ着いたガラス片を、「シーグラス」ともいいますね。


見ず知らずされど木陰に輪になりて
ゆいか
「横断歩道の信号待ちで、向かいで見かけた光景です。他人同士がまるで旧知の間柄のように、木陰に集まっている様子が微笑ましくて、酷暑の中クスッと笑ってしまいました」と作者のコメント。
「横断歩道の信号待ち」という状況での、この気づき。そこを書いたほうがよいですね。「見ず知らずされど」と説明しなくても、場所・状況が分かれば、それらは自ずと伝わります。


ソーダ水脚に鱗と尾の名残
有村自懐
「鱗と尾の名残」というフレーズは詩になっています。「脚に」という書き方が正しいのか? という疑問もありますが、季語は動きそうです。


流木にロケラニ生けた画廊あり
八一九
「『ロケラニ』はハワイ語で『天国のバラ』。季語として使いました」と作者のコメント。
「天国のバラ」が果たして、季語として機能するか。悩ましいところです。


「バスケ部の砂浜ダッシュ」は夏の季語
たそへ
機知としては楽しめますが、「~は夏の季語」と説明してしまうのは、勿体ないです。「バスケ部の砂浜ダッシュ」で上五中七がちゃんとできているので、真っ当な季語を取り合わせることをお勧めします。


整体用骨格模型に留まる蚊
太刀盗人


呪物めく土産置かれし休暇明け
ほしのり
「呪文めく土産」という表現が面白いです。「置かれし」と場面を説明する必要はないので、どんな点が呪文みたいなのか、色とか形とか、そういう描写を考えてみましょう。


律の調べカラダカレハテさいぼーぐ
つのりゅう
「七十歳になり心筋梗塞と狭心症でステント二本、下血で血止めのクリップをいくつか体に埋め込まれ、サイボーグになったような気分です」と作者のコメント。
「さいぼーぐ」になった気分だということを書くのではなく、状況を淡々と描写しましょう。「ステント二本」などは具体的な句材です。


夕凪に「被爆ピアノ」偲ばるる
石津 さくら
「新聞に『被爆ピアノ』のコンサートがひらかれたと書かれていましたので、想像してみました」と作者のコメント。
俳句において、「偲ばるる」のような言葉は基本的に不要です。「夕凪」と「被曝ピアノ」が取り合わせられるだけで、偲んでいることは十二分に伝わるからです。


夕凪や流木にドキッ息凝らす
桃華
なぜ「ドキッ息凝らす」のか。そこにあるモノを丁寧に描写するのが、俳句です。


暦みて浜の枯れ木を想う夏
小川 茜園
「病室で八月にはいったと知り、浜辺の暑さの景色の写真に思い出したのが、乾いた枯れ木だなんて! と自分に驚いた病室の朝のことを詠みました」と作者のコメント。
「暦みて」と説明するのではなく、「病室」に自分がいることを書いたほうが、オリジナリティとリアリティが高くなりますよ。


流木の白骨如く秋の浜
三日余子
中七が少々寸詰まりな表現。
添削例
白骨の如き流木秋の浜


夏の恋テトラポットに見守られ
紫子
「~に見守られ」が損。「テトラポット」の周辺を映像として描写しましょう。


海は答え合わせ夏の終着地
キッチンハイカー
「自分の行いが全て母なる海に帰ってくるという意味で詠んでみましたが……、見返したら意味不明な気もします。最近迷走しています」と作者のコメント。
迷走することもまた、俳筋力をつけるための負荷。大いに迷って下さい。そして、この句ですが、「海は答え合わせ」も「~の終着地」も抽象的で、季語「夏」も映像をもたない茫洋とした時候の季語です。作者コメントに良い言葉「全て母なる海に帰す」がありますよ。上五に映像のある良き季語を取り合わせて下さい。


悩みごと寄せては返し案山子まね
永順
最後の「まね」の一語に問題があります。季語「案山子」は光景としてそこにあり、作者の胸中には「寄せては返す悩みごと」がある。そんな形で推敲してみましょう。


泡盛の夜やつまみは愚痴とミミガーと
柳翠
「第57回ハシ坊にて〈ミミガーと愚痴を交互に泡盛の夜〉を、『「泡盛の夜や」として、「と」を巧く使えば、「交互に」と説明する必要はありません』とご指摘頂きました」と作者のコメント。
「つまみは」は必要か否か。語順としては、「ミミガー」を先にもってくるほうが効果的です。「泡盛の夜(よ)」と読ませて……。
添削例
泡盛の夜やミミガーと愚痴すこし


酸っぱきジャム色なき風の置き土産
田上南郷

