写真de俳句の結果発表

第60回「双子のようなペンギン」《ハシ坊と学ぼう!⑤》

ハシ坊

第60回のお題「双子のようなペンギン」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

花の風一本道を乾門へ

迷照 りん句

夏井いつき先生より
「桜の時期の皇居乾通り一般公開です。ハシ坊君と一緒に……頑張ります」と作者のコメント。

作者の表現したいニュアンスとは違うかもしれませんが、例えば、「花の風ひとすぢ」として「乾門」を取り合わせると、かなりすっきりした句になります。
“参った”

寒蟬鳴くや連れドボンし夕暮れ

旅女

夏井いつき先生より
「夏の宵、蝉時雨にペンギンも連れ立ってシャワーに。ああ涼し」と作者のコメント。

「連れドボンし」が分かりにくいです。兼題写真を見てない人にとっては、何がどこにドボンしたのか……見えてきません。
“ポイント”

また一人ペンギンなりて炬燵に来

麦のパパ

夏井いつき先生より
「先日、組長の『NHK俳句 夏井いつきの「凡人俳句」からの脱出』を手にしたばかり。映像の見えやすい見立てだと思いますが、その比喩が独りよがりになっていないか評価していただきたく、自選いたしました」と作者のコメント。

兼題写真を見てない人にとって、「また一人ペンギンなりて」が比喩だということに気付くまでに、時間がかかります。読者に負担をかけてしまう比喩となっています。季語「炬燵」よりも、「ペンギン」という言葉の質量の方が、大きいことが、そもそもの敗因です。
“ポイント”

秋高し動物達の検診日

德(のり)

夏井いつき先生より
どの動物なのかを書くと、より映像が明確になります。
“ポイント”

ペンギンや水族館で気づく秋

郡山まる

夏井いつき先生より
俳句で「気づく」は不要です。気付いたから書いているのですものね。
“ポイント”

別々の道選る双子良夜かな

たかみたかみ

夏井いつき先生より
「双子も成長して、別々の道を選択し、それぞれ歩き出す。この良夜の祝福を忘れない」と作者のコメント。

「選る」と書かなくても、それは想像できます。例えば、「別々の道よ」と詠嘆すれば、「選る」「進む」「分かれる」などの動詞は書かなくても想像できますよね。さあ、後半を整えてみましょう。
“良き”

講義とつとつとつ表牡丹雪

千里

夏井いつき先生より
「教授の講義はとつとつと続きます。ふと外を見ると、牡丹雪が音もなく降っていました。『あっ雪だ!』の声を必死に抑え、音は教授のぼそぼそした声だけと気づきました。とても静かでした。牡丹雪が廻りの音を吸収しているようでした」と作者のコメント。

「表」であることは間違いないんですが、「窓の」「窓に」ぐらいにしたほうが、分かりやすいです。
“参った”

毛布巻きペンギン待つ夜波の音

志無尽おたか

夏井いつき先生より
「はるか昔に、オーストラリアのカンガルー島(南極に近い)で、夜中に毛布にくるまって海から上がってくるペンギンのパレードを待っていた時の事を詠みました。本当は、上がってきた時のペンギン達の『ペタペタ』という足音が可愛かったので、それを詠みたかったのですがうまくいきませんでした……」と作者のコメント。

「毛布巻き」と「ペンギン」の位置が近いので、ペンギンに毛布を巻いた? と誤読されやすくなります。言葉の位置を離すだけでも、誤読を防げます。

添削例
ペンギンを待つ夜毛布と波の音
“ポイント”

不動なりペンギンは炎天を打ち眺む

灯呂

夏井いつき先生より
語順が惜しいです。

添削例
ペンギンは不動炎天打ち眺む
“ポイント”

柳葉魚喰ふペンギンの喉の躍動よ

灯呂

夏井いつき先生より
「よ」を取れば、人選です。
“ポイント”

残業の娘待つ甚平仁王立

あおみどり

夏井いつき先生より
「『娘』は『こ』と読めるでしょうか?」と作者のコメント。

そのように読ませることはできますが、音数調整のためにそれをするのは、あまりオススメできません。普通に「子」と書いて、それが娘だろうか息子だろうかと想像してもらうことも出来ますし、更に「娘」と書かなくても女の子に違いないと解釈してもらえるような句をめざす。それが、俳句の考え方です。
“ポイント”

晩夏光揺るツインルームにひとり

窪田ゆふ

夏井いつき先生より
「双子→ツインがつくもので詠んでみようと、ツインタワー、ツインベッドなど色々考えました。ツインベッドにひとり、だと何だかいかにもで歌にもありそうなので、少し広げたワードに。ツインルームにひとりで晩夏光とくれば90%は寂しいイメージでしょうが、私の場合はひとり旅でツインルームだったらラッキー、広い! って思うし、感じ方、受け取り方は人それぞれだと思うのです。なので淡々と晩夏光が揺れる部屋だけを詠みました」と作者のコメント。

例えば、ツインルームのシングルユースを喜んでいるのならば、中七下五を「ツインルームを一人占め」とすれば伝わりますし、一人で淋しいのならば「ツインルームにゐて独り」とも書けます。となれば、上五の季語はもっともっと冒険ができます。俳句って、掘れば掘るほど奧が深くて、面白いね。
“ポイント”

人鳥の泳ぐスピード別人なり

西茉生 (西木いぐあな改め)

夏井いつき先生より
「ペンギンは姿形から人鳥ともいわれますが、人格はありません。しかし地上で見せる、よちよち歩きと水中をすごいスピードで泳ぐ姿には、同じ生き物とは思えない感動があります」と作者のコメント。

作者コメントの思いには共感します。ただ、下五の「別人なり」は感想です。俳句は描写が基本。ペンギンの速さなり、遅さなりを、言葉でスケッチすることが、俳筋力のトレーニングになります。
“参った”

皇帝の孤独月の光青く

春のぽち

夏井いつき先生より
ひょっとして「皇帝」は、コウテイペンギンでしょうか。コウテイペンギンが、月下に立ち尽くしている様子を書きたかったのであれば、むしろ「孤独」のような抽象名詞に頼らないほうが、よいかと。是非、再考してみましょう。
“良き”

餌付けせらるる海豚道化の性哀し

トヨとミケ

夏井いつき先生より
後半「道化の性哀し」は、作者の感想です。俳句は描写。この「海豚」の様子をリアルに描写できれば、読者は「嗚呼、この道化の性の哀しいことだなあ」と受けとめてくれるのです。
“ポイント”

運動会走れぬ脚と飼育小屋

葉月庵郁斗

夏井いつき先生より
言いたいことは、ぼんやりと分かります。「走れぬ脚」が、一種の説明になっているのです。例えば「運動会の飼育小屋」とすれば、なぜ運動会の日に? という疑問から、想像が動き出します。上五「○○○○○」を工夫してみましょう。
“ポイント”